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年収650万円を「東京都」に奪われた男性の言い分 何を答えても否定ありきのパワハラ面接だった

東洋経済オンライン / 2024年12月12日 12時0分

今年10月、都内で原告SCたちによる提訴を報告する会見が行われた。トモアキさんは参加することができなかったが、1人の女性SCがマイクを握ると、会見場に集まった記者たちに落ち着いた、やさしい口調でこう訴えた。

「SCの仕事を10年間ライフワークだと思い、やりがいを持って働いてきました。ここにいる記者の皆さんが(自身の仕事を)大切に思い、誇りを持っているのと同じです」

記者たちのパソコンを打つカタカタという音が一瞬、止まった気がした。取材で会った女性SCたちはいわゆるコミュニケーション能力の高い人が多かった。こちらの質問の趣旨を十二分にくみ取り、相手の心に響く言葉を選ぶ勘のよさにたびたび驚かされた。きっと心理職としても有能なのだろうと思ったものだ。会見で記者に語り掛けた女性SCも、その1人だった。

しかし、トモアキさんの受け止め方は少し違うようだった。トモアキさんは「やりがいを語れることが正直、うらやましいです。私にとってはやりがいよりもまずは生活なので」と言った。

これからは男性の非正規公務員も増えてくる

私が話を聞いた女性SCたちもやりがいについてだけ語っていたわけではない。中には単身者や子育て中の人もいたので、経済的な打撃の深刻さはトモアキさんと変わらない。一方で男性の収入で家計を支えるケースが多い現状を考えると、男性の非正規公務員の雇い止めもまたむき出しの貧困と直面することになる。トモアキさんの「やりがい」に対する複雑な思いは、そんな切迫さを表しているようでもあった。

10年ほど前、非正規公務員が集まる労働組合の集会に参加したときに、ある女性の当事者が「非正規公務員というと女性が多いと思われがちですが、これからは男性も増えてくるでしょう。将来のためにも一部の女性の問題ととらえず、男性も自分事として考えてほしい」と語っていたことを思い出した。

総務省調査では、地方自治体などの会計年度任用職員のうち8割が女性。現状だけを切り取れば、非正規公務員の問題は女性差別の問題である。しかし、この問題を放置すれば、いずれその波は男性ものみ込むだろう。10年前の警告が現実になりつつあることを、何よりトモアキさんが体現している。

11月、トモアキさんは再び東京都のSCの公募試験を受けた。「生きていかなければならない」からだ。今回の面接は昨年とは打って変わって穏やかだったという。合否の結果は年明け1月に判明する。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。

藤田 和恵:ジャーナリスト

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