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斎藤知事「告発文書」への対応はやはり問題だ 「パワハラ確認できず」の結論で収束じゃない

東洋経済オンライン / 2024年12月19日 11時0分

県民局長の告発が公益通報に該当するとなれば、次の焦点は、不利益な取扱いや通報者探索を命じた斎藤知事や、その陣頭指揮にあたった片山前副知事らの行為が、法令違反に当たらないかどうかである。

公益通報者保護法は2006年に施行され、2年前に改正されている。その改正法では、従業員が300人を超える事業者や団体(行政機関も含む)は公益通報窓口に「従事者」を置いて守秘義務を課すことが義務付けられた。故意に違反すれば30万円以下の罰金だ。

通報受付体制の整備も重要な改正ポイントだ。指針によると、通報窓口は組織の長や幹部などからの独立性を確保し、通報事案に関係する者を対応業務から外す利益相反規定も盛り込まれている。不利益な取扱いがあった場合は、救済・回復の措置をとる。公益通報と認められれば、斎藤知事や副知事だった片山氏は関わってはいけない。まして本人に対する告発なので、利益相反にも該当する。

そして、その不利益な取扱いをした者や通報者の探索をした者に対しては、被害の程度に応じて懲戒処分など適切な措置をとることになっている。

同法の指針では、これが組織内部の1号通報でも外部への3号通報でも、同様に扱われるよう明記されている。つまり、県民局長の通報が公益通報だとみなされれば、斎藤知事も片山氏も違反を問われる可能性があるということになる。

それだけではない。今回は公用パソコンが押収されて、プライバシーがさらされる懸念が持たれていた。消費者庁の作成した「公益通報ハンドブック」は、指針ほどの効力を持たないが、制度の解説をQ&Aの形で答えている。「不利益な取扱いとはどのようなものですか」との設問に、降格や減給などのほか、「精神上・生活上の取扱いに関すること(事実上の嫌がらせ等)」と書かれている。

違法の可能性がある通報者探索のためのパソコン押収。そしてパソコンに記録された情報によってプライバシーをさらされかねない県民局長が気に病み、それが原因で亡くなったとしたら、知事側に道義的な責任は生じないだろうか。

検討会は早期改正をうながす

2025年の同法改正のために議論を続けている公益通報者保護制度検討会は、通報者が受ける「不利益な取扱い」に罰則を設ける方向で大詰めを迎えている。検討会では、名指しこそないが、兵庫県の文書問題を念頭に置いた発言が随所にみられる。

検討会のこれまでの議論で、複数の委員の発言を紹介する。 

「告発された人が通報者を特定し、何とか逃れようとするケースが実際に生じています。公益通報しようとする人がますます萎縮するのではと危惧しています」
「公益通報には当たらないから、このような(通報者の不利益な取扱いや探索)行動をとってもよいという場合に、『不正の目的』が使われ、真実相当性の要件を満たさないので調査をしてもかまわないのだと主張する」
「公益通報制度の制度趣旨事態が没却されるような事態が残り続けるのでは」

残すところあと1回となった12月4日の第8回会合で、弁護士の山口利昭委員がモニター越しに発言した。

「現在(兵庫県の)百条委員会で公益通報に当たるかどうかが議論になっている。何が公益通報に当たるのかを明確にしていかないと(通報者の)萎縮効果が高い。法改正を早急にやってもらいたいことを(報告書の末尾の)おわりに、のなかで強調していただきたい」

いま県民局長のパソコン内にあったプライバシーがネットでさらされ、百条委員会のメンバーへの誹謗中傷も激しさを増して事態は泥沼化している。このままでは検討会が危惧するように、公益通報者保護制度は形骸化してしまう。そういう意味でも、百条委員会も途中で投げ出すことは許されない。

辰濃 哲郎:ノンフィクション作家

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