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日大の裏面史から描く「悪党」たちの出世物語 ラスボスたちが集った「ちゃんこ屋ノワール」 

東洋経済オンライン / 2024年12月24日 10時30分

しかし田中は2021年に東京地検特捜部に脱税の容疑で逮捕される。すると再出発の旗印に新たな理事長としてOGで直木賞作家の林真理子が就いた。彼女は文壇では女帝であるかもしれないが、魔窟においてはそうではなかった。

いや日大の女帝と呼ぶべき人物は別にいた。田中の妻・優子(2022年死去)である。

「ちゃんこ屋ノワール」

「私とあの人が30年以上も働いて貯めたお金よ。それを持っていくなんて許せない」――女帝がそう叫んだのは死の前年、2021年11月のこと。東京・阿佐ヶ谷にかつて「ちゃんこ料理たなか」という店があった。女帝が女将さんをする飲食店だ。4階建てのビルの1・2階がそれで、3・4階が田中夫妻の自宅となっていた(建物は現存)。この自宅部分に東京地検特捜部が家宅捜索に入り、2億円を超える現金を押収したのだ。

くだんのちゃんこ屋は、田中の絶対権力の象徴であり、社交場であり、日大腐敗の病巣の核心部分であった。

『魔窟』によると、「ちゃんこ料理たなか」には日大の職員や相撲関係者のみならず、大学の出入り業者までが日参したという。またこの店は、田中の出世に応じて儲かるようになっていき、田中が理事長になって以降は日大関係者で経営が成り立っているようなものだったと森は評する。山口組の組長が渡辺芳則の時代、渡辺の妻が経営するブティックに組の関係者が来ては大量の買い物をして忠誠を見せたといわれる。それに似た話である。

また店先には山口組のカレンダーが飾られていたという。そういえば週刊文春2021年12月9日号「日大のドン田中英寿の『黒歴史』」(西﨑伸彦)によると、山口組の若頭・高山清司が田中の妻にエルメスのバーキンを1ダース贈ったとある。夫ばかりでなく、妻も闇社会に通じていたのだ。

田中夫婦を中心にした人物相関図を描いていけば、日大関係者や相撲界のみならず、政財界など表社会から山口組や住吉会の裏社会の人物が配置されていくことになる。日大という一大利権をめぐってのジェイムズ・エルロイの暗黒小説のようだ。本書はいわば「ちゃんこ屋ノワール」である。

田中による大学支配の前史に、「古田会頭」時代がある。

今日の日大のイメージ、すなわち覚えきれないほどの学部数に大勢のOB数を誇る大学を築き上げたのが日大中興の祖・古田重二良だ。学生時代は柔道部の部長を務め、日大職員となって出世していき、1958年に会頭に就任すると学部・学科を次々と新設して、大学収入を10年で100倍にした人物だ。

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