国家を束ねる「正統性」を失った各国指導者たち 4分の1が過ぎる21世紀、国家を束ねる指導者が消えた
東洋経済オンライン / 2024年12月28日 8時0分
西欧化の中で既存の制度が崩壊していった幕末の日本の場合も同じで、幕末の時代の勤皇の志士たちは、日本という国の正統性を体現するものを最終的には天皇制に求めたわけだ。
尊皇という概念が存在したことで、国民はばらばらにならず、幕藩体制の崩壊、近代化の始まりになんとか対応できたともいえる。
しかし、ほとんどの民族がそうだったわけではない。とりわけ西欧の近隣であるオスマン帝国の崩壊は、西欧とロシアによる巨大帝国領の争奪戦に変わり、なんとか縮小することでトルコを維持できたケマル・アタテュルクのトルコを除き、植民地化とアイデンティティの喪失に遭遇した。
そのため、誰が正統性を担うのかという問題がつねに浮上しては消え、やがて失望に変わり、西欧的価値規範を実践することもできず、混乱の巷と化した。
そうした中、第2次世界大戦後のアラブ世界のエジプトに、ナセル大統領(1918~1970年)がクーデタによって出現する。そしてアラブ世界の統一を画策することで、混乱を極め、西欧への劣等感に苛まれたアラブ人に、誇りと信頼を与えたというのだ。
ナセル本人は独裁者で残酷な人物であったとしても、ナセルという名前でアラブ世界が一時的にも統一できたのは、この正統性にあったというのだ。
レーニンや毛沢東、ケネディやオバマなど、ある種カリスマ的な力をもつ政治家は、民族を1つにする希望というものを体現しているともいえる。
しかし、ナセルはアラブ世界を統合することができず、結局第2のナセルとなるサダトやイラクのフセインなど現れては消えていった。
イスラム原理主義というイデオロギーが出現しても、結局再び宗教間の対立と分裂によって、混乱が生まれ、今もその混乱の最中にあるという。
正統性を失った世界の指導者たち
これはアラブ世界の話だが、今世界が第4の段階、すなわち混乱期にあるとすれば、その混乱を止めるべき正統性をもった人物あるいは国が登場するしかないことになる。
それが誰であり、どこの国であるのかはわからないが、ここ数年世界を混乱に陥れている戦争を考えても、現存の政治家が正統性をもって人々を束ねることができていないことも事実である。
ロシアのプーチン、中国の習近平、イスラエルのネタニヤフ、アメリカのトランプ、ウクライナのゼレンスキーなど、いずれも正当な手続きで選ばれた政治家だとしても、信頼される正統性をもった政治家であるとはいえないからである。
アメリカは戦後、政治力、経済力、軍事力で正統な世界の指導者であったが、その衰えとともに正統な指導者たりえなくなった。
今後世界は西欧の衰退とともに、混迷の世界に進むだろう。それは歴史の転機となる価値規範の転換の時代となるかもしれない。今後われわれはそれに立ち向かい、サバイブしていくしかないのだ。
的場 昭弘:神奈川大学 名誉教授
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