「人はなぜ罪を犯すのか」一青窈が専門家に聞く 【前編】犯罪心理学者・出口保行さんを訪ねて
東洋経済オンライン / 2024年12月29日 10時0分
『父と母 悔恨の手記 「少年A」 この子を生んで……』(文春文庫)を読んでも、特別おかしな家族から「少年A」が生まれた気はしなかったのです。では、なぜ猟奇的な部分が助長されることになっていったのかがわからなくて……。
出口:そこが一番難しくもあり、大事なポイントです。
犯罪者に関する本はたくさんありますが、多くの場合、そこに書いてあるのは、お父さん、お母さんはこういうことをやっていましたという教育態度の話です。基本的に、その家でやっていることはどこがおかしいんだろうと思う情報しか載っていないんですよ。
確かに、それは嘘ではない。ただ、「客観的な事実」はそうかもしれませんが、犯罪者や非行少年の分析をするときに最も重要なのは、「主観的な事実」のほうなんです。
例えば、お父さんは立派な仕事をしています。お母さんは本当によく子どもの面倒をみています。子どもが何かしたら、すぐに飛んでいきます。それって、客観的な事実として考えると、良い親だと思いますよね。ですが、子ども本人にしてみたら、「この親、嫌い」ということがたくさんあります。
本当に外面がいいだけで、自分の気持ちを考えてくれていない。子どもが何かミスをすると、親がバーっと走り込んで尻拭いをしてしまうから、大きな問題にならなかった。
世の中的にみれば、親が積極的に関わっているから「いい家庭ですね」となってしまうわけですが、子どもはそんなことをしてほしくなかった。そんなことをするんだったら、自分を叱ってほしいと思っちゃう。
そこから、どんどん親子の距離ができてしまう。親は良かれと思ってやっているわけですが、そんなケースは本当にたくさんあるように思います。
一青:そうなると、誰しもが「少年A」になっても不思議ではないということでしょうか。
出口:どの子が犯罪者になるかなんて、誰にもわからないんですよ。子どもの主観的な事実がどうなのかということを、周りの親や先生がいつもおもんぱかってあげられているかどうかが大切なんです。
「良かれ」と思って一方通行になっているのが、一番まずいと思います。そうではなく、「今子どもはどう思っているのかな」「私のことをどう思っているんだろう」というふうに思えるだけでも、子どもにとっては大きな違いがあるんです。
子どもたちはサインを出している
一青:今はSNSも発達していて、誰かとコミュニケーションを取る手段が無数にありますよね。それでも、自分の気持ちを誰もわかってくれないと思って一線を越えてしまうのは、もはやどうすることもできないものなのでしょうか。
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