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南海トラフ地震「臨時情報」のお粗末な科学的根拠 責任が及ばないよう対策は自治体や企業に丸投げ

東洋経済オンライン / 2025年1月9日 17時0分

それだけではない。室津港は地震で隆起するたびに船が座礁しないよう、隆起した分、海底を掘り下げたり、浚渫したりといった工事を繰り返していたこともわかった。古文書の記録が隆起の記録でなければ、「70~80%」の根拠は根底から揺らぐのだ。

こうした南海トラフの「えこひいき」は、推本が発表している「全国地震動予測地図」に不公平を生んでいる。予測地図は確率を色別にして落とし込んだ日本地図で南海トラフ沿いばかり色が濃くなっているのがわかる。

だが予測地図の上に、1979年以降10人以上の死者を出した地震の震源地を落とし込むと、熊本地震(0~0.9%)、北海道胆振東部地震(ほぼ0%)、能登半島地震(1~3%)など、確率の低い地域ばかりで地震が起きていることがわかる。ハザードマップとしてはまったく役立っていないと言わざるを得ないだろう。

これが各地で逆に油断を生んでいる。地震保険の加入率を調べると、愛知県、徳島県、高知県など南海トラフの想定地域で高い加入率となっているが、能登半島地震の震源地となった石川県の加入率は全国平均以下だった。

熊本、北海道、石川県などは低確率だったことから地震発生前、「災害が少ない県」などと安全性をアピールし、企業誘致活動を行っていた。発生確率を公表することが低確率地域にとっては「安心情報」になっている実態があるのだ。

地震学として地震予測の研究は進めるべきだろう。しかし問題は、研究がまだ未成熟な状態で社会実装してしまっていることだ。なぜそこまで地震予測にこだわるのか。そこには地震学者・行政・防災が40年にもわたり、できる「フリ」を続けた地震予知の呪縛がある。

国家プロジェクトとなった地震予知

「駿河湾を震源としたマグニチュード8クラスの巨大地震がいつ起きても不思議ではない」──。1976年に唱えられた東海地震説をきっかけに、1978年に地震予知を前提とした大規模地震特別措置法(以下、大震法)が制定された。予知とは地震が発生する時間と場所をピンポイントで言い当てる技術だ。

大震法は観測網を張りめぐらせ東海地震の前兆現象を捉えると、総理大臣が「警戒宣言」を出し、新幹線を止めたり、学校や百貨店などを閉じたりして地震に備えるというもので、今思うとSFのような仕組みが作られた。

これにより地震予知は国家プロジェクトとなり、関係省庁、東海地震が懸念される自治体に多額の予算が下りた。地震研究も地震予知と言えば研究費が下りたといい、「打ち出の小槌のようだった」という。ここに「地震ムラ」が誕生した。

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