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南海トラフ地震「臨時情報」のお粗末な科学的根拠 責任が及ばないよう対策は自治体や企業に丸投げ

東洋経済オンライン / 2025年1月9日 17時0分

「南海トラフでは確実に行政の手が回らない。だが、大震法の枠組みでは予知が可能なことになっている。南海トラフ地震が予知なく発生し、対応が後手に回ったら、予知を怠った政府の不作為が問われる可能性があった」

だが、政府は臨時情報を作り、大震法を残す方針を示した。「予知体制を維持するために科学的根拠もない臨時情報を出すべきではない」と座長を辞退した河田氏は、大震法を残した理由についてはこうみる。

「大震法廃止となれば今の担当局長や参事官が矢面に立たされる。彼らは2年も経てば異動なので、それまで耐えればよかったのだろう」

臨時情報は必要性に迫られてというより、さまざまな思惑が絡み合い誕生した側面もある。制度として甘い点は多い。

まずはお粗末な科学的根拠だ。巨大地震注意の科学的根拠は、1904~2014年に実際に発生した世界の地震データだ。マグニチュード7の地震後、7日以内にM8以上の地震が起きた例は1437回中6回(約0.5%)だった。これだけだ。

しかも、これらの事例は南海トラフのような海溝型だけでなく、内陸での地震などさまざまメカニズムの地震を含んでいる。近代的な観測がされているデータも1970年代以降のものだけだ。前出の名古屋大・鷺谷教授は「この統計は南海トラフ特有の現象ではなく、大きな地震が起きやすいという、もともとあった地震学の常識を表しているに過ぎない」と語る。

ほかにも、対策やコストを自治体や企業、個人に丸投げしているため、自治体や事業者は対応に悩まされた。ビーチを閉鎖した和歌山県の白浜町では5億円の損害となり、JRでも一部運休や減速運転をした。ホテルや旅館もキャンセルが相次ぎ、花火大会も中止に。さらに水や米の買い占めも起きた。

臨時情報が、想定震源域で一定規模の地震が発生したらほぼ自動的に情報が発表されるのも、発表から1週間で専門家の検討なしに自動的に臨時情報が終了する仕組みになっているのも、自治体や企業などに経済活動の停止や継続に関して具体的な対応策を示さないのも、「国の判断通りにしたら被害を受けた」と、責任が及ばないような仕組みと言える。

監視の姿勢を忘れてはならない

とはいえ、動き出した以上、より役立つ制度にはどんな改善が必要かを検討すべきで、今回の事例は貴重な検証材料だ。

「政府のメッセージの出し方があいまいすぎて、一番国民にしてほしかった防災の確認に繋がらず、効果が低かった」と振り返るのは、東京大学大学院総合防災情報研究センター⾧の関谷直也教授だ。

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