南海トラフ地震「臨時情報」のお粗末な科学的根拠 責任が及ばないよう対策は自治体や企業に丸投げ
東洋経済オンライン / 2025年1月9日 17時0分
しかし、1995年の阪神・淡路大震災で予知が不可能なことが明るみに出た。東海地震にばかり注目が集まるあまり、兵庫県に大きな活断層があることが知られることはなく、「関西では地震が起きない」との油断が生まれ、被害を拡大させた。予知に対する批判が殺到し、当時の地震予知推進本部は看板を掛け替え、現在の推本が生まれた。
推本の設立には活断層の存在が伝わっていないことへの反省も含まれている。そこで生まれたのが活断層や海溝型の地震の発生確率を一覧にした予測地図だった。しかし、危険な場所を国民に伝えるという趣旨からすれば、確率で色分けまでするというのは飛躍があるのではないか。この疑問に、政府の委員を務める地震学者はこう答える。
「予知はできないのでそれに準ずるものとして確率を出した。地震学者にとって予知は夢。私も科学者として挑戦したい気持ちは正直ある」
活断層の場所や揺れやすい地域を示すことは簡単だ。だがそれでは地震学者が集まって作る意味がない、つまり「物足りない」という思いもあるようだ。だが予測が防災に役立っていない現実を前に、同じ学者はこうも考える。
「確率を出す必要はないと思う。この断層が動いたらこういう被害が出るなどを伝えることのほうが重要だろう」
また、予測という形で地震学の成果を社会に還元できなければ今のような研究予算の確保が難しくなるかもしれない。別の学者はこう話す。
「地震学の存在意義が失われ、観測網も必要ないという流れになるのは、怖い」
予知の流れを汲む「臨時情報」
南海トラフ地震臨時情報(以下、臨時情報)も、地震予知と無関係ではない。阪神・淡路大震災での予知失敗後も大震法は残り、東日本大震災後の2013年、政府はようやく「地震予知は困難」と認めた。
2016年からは大震法の見直し検討が開始されたが、当時新聞の社説などでは、予知ができないにもかかわらず、予知を前提とする矛盾が40年も続いていたことから、廃止を求める主張が目立った。だが結局、大震法は廃止されず、警戒宣言の代わりに臨時情報が生まれた。
なぜか。『日本の地震予知研究130年史』の著者で科学ジャーナリストの泊次郎氏はこう見る。「大震法は各省庁の予算と人員の確保や有力な地震学者が研究予算の配分に影響力を持つうえで役立ってきた。同様の仕組みを残すことで継続して影響力を持てる」。
また、政府から臨時情報について検討する委員会の座長就任を要請されるも辞退した関西大学の河田恵昭特別任命教授(防災・減災学)は、大震法見直しの目的を「訴訟回避のためだった」と話す。
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