江戸のメディア王・蔦重を駆り立てていた原動力 NHK大河「べらぼう」主人公に学ぶ仕事のコツ
東洋経済オンライン / 2025年1月12日 18時0分
蔦重は憂き目に遭うたびに、「畜生! 今に見てろ!」という気迫で知恵を振り絞り、力強く乗り越えてきました。もし蔦重が恵まれた環境のなかで生まれていたとしたら、出版界の覇者になることはなかったのかもしれません。
許せないことがあったときは、その感情を胸に刻みつけておきましょう。「嫌なことは忘れる」は逃げ道です。そこでふて腐れるか、バネにするかで人生は大きく分かれます。辛く、みじめで悔しい想いは、平常時の何倍ものエネルギーを自分にもたらしてくれるものです。その負のエネルギーが臨界点に達したとき、すさまじい威力を発揮します。
心が強い人というのは、「心の立て直し方を知っている人」です。そういう人は、経験はなにものにも変え難い財産であることを理解しています。悔しい想いや失敗すらも、モチベーションに変えていくことができるでしょう。そのようにしていれば、いつか必ず、「あの経験も悪くなかった」と、心から思える日が訪れることでしょう。
「まったくありがてえもんだ、出る杭は打たれるってな。つまりうちが江戸で頭一つ抜けた版元だってお墨付きをもらえたってことだ」。
これは、映画『HOKUSAI』の中で、阿部寛さん演じる蔦重が、「寛政の改革」の最中に藩から目をつけられ、次々に制約を課されていくなかで発した一言です。
松平定信による「寛政の改革」以前の蔦重は、次から次へと斬新なアイディアによるヒット作を世に送り出し、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いでした。
江戸の人々は、蔦重の次回作を今か今かと待ち焦がれている状態。「こんなにも人々を熱狂させるとは、メディアの力はなんて偉大なんだ!」と、彼自身もその影響力の強さを噛みしめていたに違いありません。
しかしながら、寛政の改革が始まると、風紀の取り締まりや、出版物の規制の機運はどんどん高まっていきます。型破りな発想力によって出版界で強い存在感を放っていた蔦重も、次々に制定される禁令に、息苦しさを感じたことでしょう。
江戸庶民たちが絶賛した物語
けれど蔦重は、そこで幕府の思惑通りにおとなしくなるような男ではありません。
不本意にも抑圧されるのなら、その状況すらも肥やしにしてやる。そんな気概で、ますます作品づくりに魂を燃やすようになりました。
朋誠堂喜三二の黄表紙(ストーリー性の高い、大人向けの絵本)、『文武二道万石通』は、まさにそのような心情のなかで生み出した作品と言えるでしょう。
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