「1丁の護身用の銃」巡り変貌したイラン家庭の姿 映画「聖なるイチジクの種」の制作の裏側
東洋経済オンライン / 2025年1月13日 13時0分
イランの映画監督が秘密裏につくった作品
政府を批判した作品をつくったとして有罪判決を受けたイランの映画監督モハマド・ラスロフが、秘密裏に新作を制作。そこから決死の覚悟で自国を脱出し、28日という日数をかけて、第77回カンヌ映画祭が行われたフランスに到着。
映画を鑑賞した観客は、その衝撃的な内容や映画としての強度はもちろんのこと、ラスロフ監督らスタッフ、キャスト陣の勇気や決意、信念に心打たれ、およそ12分にわたるスタンディングオベーションと称賛の声を送った――。
『聖なるイチジクの種』は、2022年のイランで起きた反政府デモを背景に、家庭内で消えた護身用の銃をめぐって変貌していく家族の姿をダイナミックかつスリリングに描きだしたサスペンススリラーだ。
第77回カンヌ映画祭で審査員特別賞を受賞したのをはじめ、第97回アカデミー賞国際長編映画賞でも、ラスロフ監督の亡命先であるドイツの代表作品に選出されている。
物語の舞台は、市民による反政府デモで揺れるイラン。国家公務に従事するイマンは、20年間にわたる勤勉さと愛国心を買われ、夢にまで見た予審判事に昇進した。将来的にはさらなる出世も夢ではない。これで家族にも裕福な暮らしを与えることができるのだが、時には判決に不服な者から恨まれることもありえる。そのため、国からは護身用の銃が支給されている。
翌日、イマンは娘のレズワンとサナに自分の仕事を明かすことにする。「今までどうして教えてくれなかったの?」という娘の疑問に、「家族の安全のためよ」と返した妻のナジメは、娘たちに、生活環境が変わるため、服装や態度、会話、付き合う友達も気を付けるようにと言い聞かせる。少しでも隙を見せれば糾弾されてしまうからだ。
だが実際にイマンに課せられた仕事は、反政府デモ逮捕者の起訴状を検事の指示通りに捏造することだった。これまで20年間、真面目に仕事に励んできたイマンにとって、それはなかなか受け入れがたいことであったが、上司からは「成功や家庭の安らぎを捨てるのか?」と説得され、その板挟みに苦悩する。
そんな中、不当な刑罰を科された市民たちによる反感の思いは日々募っていき、ついにマフサ・アミニさんの死をきっかけに街で暴動が起きる。だがイマンの娘たちも、ネットで拡散されている警察の暴力が当局によって隠蔽され、テレビのニュースではまったく報じられていないことに気づいていた。
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