「1丁の護身用の銃」巡り変貌したイラン家庭の姿 映画「聖なるイチジクの種」の制作の裏側
東洋経済オンライン / 2025年1月13日 13時0分
夫のキャリアを守るためにも、政府に従順であるべきだということを説く母は、娘の交友関係にも口を出すようになる。そして母と、自由を求める娘たちの意見は真っ向から対立する。
銃が部屋から消えて家族は疑心暗鬼に
そんなある日、イマンはいつも銃を入れていたはずの部屋の引き出しから護身用の銃が消えていることに気づく。就任してすぐに銃を失ったことが当局に知られると、彼の評価はガタ落ちとなり、出世の芽はつぶされてしまう。
状況からして、銃がなくなったのは家の中であることは間違いない。だとすると隠したのは妻のナジメか、娘のレズワンか、サナか、あるいは――。だが、いったい誰が何のために? やがて家庭内に広がる疑心暗鬼の渦。そしてイラン社会の抗議活動はさらに激化し、家族の運命は大きく狂っていく――。
2022年秋以降にイラン全国に広がった「女性、命、自由」をスローガンとした反政府デモ。きっかけは、ヒジャブと呼ばれるスカーフを適切にかぶらなかったことを道徳警察にとがめられ、身柄を拘束された22歳の女性マフサ・アミニさんの死だった。そこに警察の暴行を疑った市民が反政府デモのために立ち上がったことで広がった。
それまで国民に我慢を強いてきたイスラム支配体制に反旗を翻した女性たちが、スカーフを脱ぎ捨て自由を求めたが、そんな彼らを鎮圧しようとする勢力との対立は激化し、多数の死傷者や逮捕者が続出した。そこには生活苦をめぐる政府への不満という要素も密接に絡み合っていたとも言われている。
一方のイラン当局は、市民に恐怖心を植え付け、権力強化を図るために、死刑の適用を拡大。国際人権NGOであるアムネスティ・インターナショナルの2023年調査によると、イラン全国31州のうちの30州で、853人の死刑を執行。
罪状は、薬物関連犯罪、殺人、神への敵意と地上に堕落を広げること、などがあったが、そのうちの少なくとも545件は、国際法上、死刑となるべきではない行為に対する違法な処刑であったと指摘している。
イラン革命以降、ヒジャブが強制される
ちなみに近年のイラン女性たちが人前でヒジャブをつけるように強制されるようになったのは1979年のイラン革命以降のこと。それまでのイランを統治してきたパフラヴィー朝は西洋化・近代化を推し進めていたが、民衆のデモにより王朝が打倒された後は、イスラム法学者を最高指導者とする政教一致の統治体制に移行した。
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