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人間が「工夫すればするほど増える」アレルギー 残念ながら現代社会では避けられない疾患

東洋経済オンライン / 2025年1月16日 8時1分

ちなみに私たちが見つけた尿中バイオマーカーですが、食物アレルギーの診断のみならず、免疫療法の治療効率の評価にも利用できることがわかっています。免疫療法の過程のなかで、自分が治りつつあるのか、症状が出てしまうリスクがあるのかを知ることができます。

早く実用化したいのですが、まだ時間がかかります。診断薬は、企業が興味を持って開発してくれなければ実現しません。診断や治療の開発に、市場が絡むのは当然ですが、この『アレルギー』では、治療薬開発にまつわる市場についても言及されていて、すごいなと思いました。

がんや心臓病など生死にかかわる疾患にたいする治療薬の開発とは違い、多くはQOLを下げるだけのアレルギー疾患の市場は大きくはありません。開発コストがペイしないということですが、大学などのアカデミアが頑張るしかないですね。

質量分析装置という高価な装置を使えば、すぐにでも尿のマーカーを数値化してモニタリングすることが可能です。しかし、それを大学の研究室ではなく、万人が使えるような安価なキットにしなければなりません。現在そのキットの開発を我々の研究室では進めています。

「食べて治す」を実現したい

乳児期に口から食べ物を入れる前に、荒れた皮膚から抗原が入ってしまうことが、食物アレルギーを発症するリスクの1つであることが証明されました。これにより、アレルギーの予防法の1つとして、乳幼児の皮膚を保湿して守ってあげるという啓蒙が、広がりつつあるかと思います。

またアレルギーに対する薬の開発も進んできました。本書にも紹介されていた「デュピルマブ」と呼ばれる治療抗体の効果は、花粉症や喘息、アトピー性皮膚炎に対する効果が証明されています。しかし、まだ新しい薬ですし、安価とは言えません。金銭的には負担がおおきく、気軽に利用できる選択肢とは言えないかもしれません。

ちなみに私の研究室は農学部にあります。アレルギーは病気や薬だけ見ても、減りません。これまでお話してきたように、食を含む環境と深い関係がある疾患です。アレルギー学において、農学、環境学、食品化学が果たすべき役割の広さと深さを実感する日々です。

最後に私たちの取り組みの1つを紹介します。私たちは「小さい子供が食べたいものを自由に食べられる」環境を理想に掲げ、食べてアレルギー症状を抑えられる方法の開発を進めています。

候補物質が見つかっています。これは人の体にもある脂質の代謝物です。エイコサペンタ塩酸(EPA)の代謝物で5,6-DiHETEと呼ばれる脂の成分に、アレルギー反応を抑える働きがあることがわかりました。ちなみにこの脂質の成分は、皆さんの体にすでにあるものですし、自然に分解されていきます。

青魚の内臓に多く含まれることもわかっており、現在これをサプリメントとして提供できるように、開発を進めているところです。実験レベルでは著効を示しますし、現在犬のアレルギーの管理や治療への応用を開始しています。

尿検査でアレルギー反応の状態を把握し、サプリメントでその反応を管理する。これが私の理想の形です。

もはや地球にアレルギーを止める要因はない

病態の複雑さ、現状の診断や治療の課題、治療薬開発の市場状況、環境問題、社会問題など、アレルギーを取り巻くあらゆる現状やトピックをこの本は網羅しています。『アレルギー』は大事な一冊で、非常に多くの課題を改めて考えさせられました。研究者が提供するエビデンスに基づく情報が詰まっています。アレルギーとは何か? 是非皆さんにも読んでいただき、理解を進めていただきたいです。

村田 幸久:東京大学大学院農学生命科学研究科准教授

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