天然ガス世界5位の生産国カナダの「見事な決断」 ウクライナ侵攻によるエネルギー危機を救う
東洋経済オンライン / 2025年1月16日 16時0分
とはいえ、このような状況は、ウクライナ危機の前には特別に問題視されてはいなかった。むしろ、緊密な経済関係は、政治面で時に難しい局面に直面するにしても、全体として欧州諸国とロシアの関係を安定化させると考えられていたのだ。
しかし、ロシアのウクライナ侵略は、このような考え方が甘かったのだと思い知らせ、21世紀の厳しい地政学的現実を見せつけた。
国際エネルギー市場の需給バランスが激変
イギリスの科学雑誌『ネイチャー』において、2022年の「ことしの10人」に国連のグテーレス事務総長らとともに選出されたのが、ウクライナの気候学者、スヴィトラーナ・クラコフスカだ。
彼女は、ロシアがウクライナへの侵略を開始した最大の要因は、各国がロシアの化石燃料に依存していることにあると喝破した。「ロシアは天然ガスと石油を輸出して、得た資金で武器を買っている」と指摘している。
そして、ロシアへの依存こそ、欧州諸国がロシアの事前の動向を黙認せざるを得ぬ状況を生んだと見ているのだ。
ウクライナ侵略後、ロシアは天然資源の輸出量を絞り、欧州諸国に圧力を加える。エネルギーを「兵器」として使うことに一切の躊躇はない。対露依存している国にとっては、ロシアを批判し、制裁を科すことが難しくなる。
蛮行に与するわけではなくとも、背に腹はかえられない。ロシアにしてみれば、エネルギーを供与してあげるから己の言い分を飲め、さもなくば供給を停止する、という圧力になる。
しかし、G7や欧州諸国は、ロシアの国際法違反は看過できない。
国際秩序への重要な挑戦で、今後の世界の帰趨(きすう)を決める分水嶺だ。ロシア産資源の禁輸を含む制裁を断行する。それは、エネルギー調達先がロシア以外の国へ移行することを意味する。
国際エネルギー市場の需給バランスが激変する。本来、アジア市場に供給されるはずであったLNG(液化天然ガス)が欧州に行き先を変え、結果、特にアジアで深刻なLNG不足と価格高騰が生じることとなった。
そこで、カナダの出番だ。国際社会安定のための役割を果たす意思と、能力を示す時が来たのだ。
侵略から1カ月が経った3月24日、カナダ政府は、「原油や天然ガスの欧州への供給能力を2022年中に1日あたり計30万バレル相当分まで段階的に増やす」と表明する。
天然ガスをめぐる潜在力と現実
カナダは天然ガス世界第5位の生産国だ。2022年の統計では、約1850億立方メートルの生産量を誇る。ちなみに、上位4カ国はアメリカ、ロシア、イラン、中国と続く。
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