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天然ガス世界5位の生産国カナダの「見事な決断」 ウクライナ侵攻によるエネルギー危機を救う

東洋経済オンライン / 2025年1月16日 16時0分

天然ガスは、大気圧下でマイナス162度まで冷却すると液体になり、体積が気体のときの600分の1になる。それがLNGだ。LNGタンカーで大量の天然ガスを輸送し、目的地に到着すると、液体から気化して、ガスとして利用する。

その上、天然ガスは、石炭に比べると40%以上も二酸化炭素の排出が少なく、脱炭素に向けた現実的なエネルギーとして注目されている。

そこに、ロシアのウクライナ侵略によるエネルギー危機が加わった。

脱炭素と対露依存からの脱却。ドイツを筆頭に欧州諸国は、カナダの天然ガスに期待を寄せる。カナダはウクライナ危機の前、ロシア、アメリカ、カタール、ノルウェー、オーストラリアに次ぐ、世界6位の輸出国だった。

しかし、カナダが現実に天然ガスを輸出しているのは、アメリカに対してだけだ。中西部の大平原、アルバータ州から南に向かうパイプラインを通じて、産出する天然ガスの約半分を輸出している。

ところが、アメリカは豊富なシェールガスを擁する、世界最大の天然ガス生産国だ。しかも、天然ガスを輸入しているのはカナダからだけ。そして、アメリカは世界最大の天然ガス輸出国だ。

簡単な数字で示す。アメリカは9700億生産し、カナダから900億輸入し、2000億を世界に輸出しているのだ(単位は立方メートル)。

アメリカは、メキシコ湾岸を中心に15カ所の液化ターミナルを有し、「ヘンリー・ハブ」という独自の価格システムを構築して、世界の天然ガス市場を主導している。

このような現状について、カナダビジネス評議会のゴルディ・ハイダー会長は、「アメリカは、カナダから安く天然ガスを輸入して、より高い価格で世界に輸出し、利益を得ています。カナダは今こそ、直接、天然ガスを欧州やアジアへ輸出し、温暖化対策に貢献し、相応の利益を得るべきです」と語る。

筆者は、同会長とは天然ガスを含め、カナダの政治経済、日加関係などについて折に触れ、率直に話し合っている。カナダの潜在力を顕在化させたいという熱意にあふれており、経済界の思潮を代弁している。

議論は動き始めている

ならば、なぜカナダはアメリカにしか輸出していないのだろうか?

実は、スペインのエネルギー企業、レプソル社は、大西洋岸のニュー・ブランズウィック州セント・ジョン港に液化施設を整備し、ヨーロッパ向けの天然ガス輸出事業について真剣に検討したのだ。

しかし、2023年3月、採算が合わないとして断念している。

欧州諸国へ輸出するためには、アルバータ州の天然ガスをパイプラインで大西洋岸の積み出し港まで運び、そこで、ガスを液化してLNGとして、船で輸送しなければならない。

大西洋岸には、液化ターミナル施設はなく、具体的計画もないのが実情だ。

パイプラインについては、中西部アルバータ州と大西洋岸のニュー・ブランズウィック州を結ぶTCPL(TransCanadia Pipeline)計画はあるものの、このパイプラインが途中で通過するケベック州、特にモントリオール市が強く反対し、完成の目処は立っていない。

しかし、カナダの天然ガス輸出をめぐる議論は動き始めているのだ。未来の可能性も見えてきた。

山野内 勘二:駐カナダ日本国特命全権大使

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