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アメリカの存在感が高まる「カナダ」の外交の今後 重要な視点は移民「国民の4分の1が外国生まれ」

東洋経済オンライン / 2025年1月17日 15時0分

アメリカ・メキシコ間では移民問題で緊張はあるものの、協力関係を深めている。カナダ・メキシコ間には大きな問題もなく関係は良好で、メキシコ国民はビザなしでカナダへの短期滞在が認められていた。

しかるに、2024年2月、カナダ政府は「カナダ・メキシコの間の渡航と人々のつながりを支援し、同時にカナダの移民制度の完全性を維持するために、メキシコ国民の渡航条件を調整している」と発表した。

今後は、有効なアメリカの非移民ビザを保持するか、過去10年間にカナダのビザを保持したことがあって、メキシコの旅券で空路渡航する場合を除き、メキシコ国民はカナダ入国に際して観光ビザの取得が必要となるのだ。要するに、ビザ免除が停止されたのだ。

これに対し、メキシコのオブラドール大統領(当時)は、カナダが一方的にビザ免除廃止に踏み切ったことを非難。カナダが主催する次の北アメリカ首脳会談への不参加を示唆した。

ミラー移民・難民・市民権大臣は、カナダを経由してアメリカに移住するメキシコ人の増加に対して、アメリカから受けた圧力が部分的に影響した旨コメントした。

確かに、2024年の大統領選挙を控えたタイミングで、アメリカとメキシコの国境から流入する移民は、アメリカにとって非常に機微な問題だった。

一方、移民・難民を含む外国人の受け入れに関する判断は、国家主権の核心である。特に、カナダは自由と多様性と包摂性を重んじてきた。良好なメキシコとの関係にも悪影響を与えることが予見された。

それでも、ビザ免除の停止に踏み切ったのだ。アメリカとの関係調整に腐心するカナダの現実がにじんでいる。

カナダ外交を見るうえで重要なもう1つの視点は、移民だ。

最新の世論調査によれば、カナダ国民の4分の1が外国生まれであり、16歳未満のカナダ人の36%が、父母どちらかまたは両親が外国生まれである。しかも、かつての「白い移民」ではなく、きわめて多様である。

移民の影響力

そして、多文化主義によって、それぞれの親元の伝統と文化がカナダの文化の不可分の一体と尊重されている。

大都市を中心に、同じ国から来た移民がコミュニティーをつくり、支え合う。そして、移民は、民主的プロセスを通じて、移民コミュニティーの意見を表明する。有為な人材を発掘し、議会に送り出す。移民コミュニティーの意見は国政全般に反映される。ときには、外交政策にも影響を及ぼす。

例えば、ロシアがウクライナを不法に侵略した2022年2月から2024年2月までの2年間で、カナダはウクライナに対して、約97億ドルの支援を行っている。これには、レオパルト2型戦車、装甲車、ドローンなど軍事支援、金融支援、人道支援が含まれている。

ロシアの侵略に対して、G7はウクライナ支援を最重視している。とはいえ、地理的には大西洋を隔てた遠隔地だ。

2021年のカナダの貿易総額1.2兆カナダドルのうち、ウクライナとの貿易額はわずかに4億加ドルに過ぎない。にもかかわらず、NATO諸国の中で、アメリカ、ドイツ、イタリアに次ぐ規模の支援を実施している。また、2024年1月までに、22万人以上のウクライナ難民を受け入れている。

この背景には、カナダに住む約150万人のウクライナ系カナダ人の存在がある。本国とロシアを除けば、世界最大のウクライナ・コミュニティーがカナダにある。連邦政府にも議会にもウクライナ系のリーダーがいる。ウクライナ侵略は他人事ではないのだ。

山野内 勘二:駐カナダ日本国特命全権大使

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