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入念に準備したプレゼンはなぜ失敗するのか? 現場では「準備したことを忘れる」ことが大事

東洋経済オンライン / 2025年1月20日 8時20分

「全く忘れる」と自分に言い聞かせることにより、現場で起きている環境の認知にリソースを使うことができるのです。目の前にいるのは、シナリオ通りに機能する機械ではありません。感情を持ち、常に変化している人間です。

そしてその人間たちが、その時にしか生み出されない「場の空気」を作っています。その空気に意識を向けなくては、難易度の高いファシリテーションはうまくいくはずがないのです。

もちろん全く忘れると言っても、入念に準備したのだから、実際には全く忘れることなんてできません。だから、いざという時には準備した記憶を辿って、適切な主張をすることができる。つまり、頭が忘れようが身体はちゃんと覚えているのです。

「入念に準備して、全く忘れる」という矛盾について、私の知人の哲学者である谷川嘉浩さんが、鶴見俊輔の言葉を引用しながら、巧みに表現した一説があるので、それをそのまま紹介したいと思います。

日本のプラグマティストである鶴見俊輔は、「竹刀を握るときは軽く握らないとダメだ」と書いたことがある。「パーンとやられたときはパッと取り落とすくらい軽く握るのが、竹刀のいい握り方で、必要ならもう一度拾えばいい」というような話だ(鶴見俊輔『流れに抗して』編集グループSURE)。これは、仮説(理論)との付き合い方についての、うまいメタファーになっている。

しばしば私たちは、刷り込みのように1つの考えを「答え」だと思い込んで、ギュッと握り込んでしまう。しかし、それでは上達しないし、いい試合にもならない。竹刀を握り込むのではなく、パッと取り落とすこと。それは、状況の微細な変化に反応できるだけの身体を持つことを意味している。

まさに、ここで書かれている「竹刀を軽く握る」という表現は、「入念に準備して、忘れる」という状態を表したこれ以上ないメタファーだと思います。

シナリオ通り実現しようと力みすぎてはうまくいくはずがありません。いつでも手放せるように軽く握っておく。それくらいの力加減でよいのです。

場の空気や参加者の感情を知覚する

もう少し具体的に、宇野さんがどう行動するのがよいかを考えてみましょう。まずは、いったん営業戦略会議のシナリオや着地点を忘れて、目の前に漂う「場の空気」を知覚する必要があります。

「今日のこの場にはポジティブな空気が流れているのか」「カタさが残っているのか」「焦っている人はいないか」。今この瞬間に流れている場の空間を知覚することです。

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