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「つぶれる百貨店」「生き残る百貨店」の明確な違い インバウンド需要の恩恵があるのはごく少数

東洋経済オンライン / 2025年1月20日 8時30分

H2Oでは阪急本店が大きな半期で559億円と業界トップの売り上げを誇り、免税割合も3割以上。また銀座の松屋は半期で300億円超、免税割合は約5割である。

ざっくり言えば、東京では銀座や新宿、大阪では梅田やミナミが圧倒的であり、その他の地方都市としてはアジア客の玄関福岡と、デスティネーションの1つでもある京都や札幌に集中している。名古屋のようにインバウンド動線からずれている場合、あまり期待はできない。

富裕層へのアプローチを強化する戦略

松坂屋名古屋店を運営するJフロントは、そうした状況を百も承知なうえで、もう1つの追い風である富裕層取引の強化することでキャッチアップを図ろうとしている。約63億円を投じて、総売場面積8万7000㎡のうち、2万7000㎡を全面リニューアルし、高質・高揚消費顧客層(富裕層)へのアプローチを強化すると宣言、2024年11月以降、順次オープンし始めている。

8階全フロアをアート関連に転換、屋上庭園もアートをテーマとした空間に変えた。また、中層階は婦人服売り場を縮小、ラグジュアリー・ブランド・ショップを大幅に増やす。コロナ後に急速に拡大している富裕層の高級ブランド品、美術品などへの消費をさらに取り込むことを狙っているらしい。

元々、江戸期の呉服店ルーツの大老舗百貨店である松坂屋は、外商売上が半分を占めるといわれており、地域富裕層に圧倒的な顧客基盤を持っている。この基盤を活用してさらに富裕層消費の追い風を取り込もうというのであり、この戦略が相応の成果をあげることは間違いない。名古屋の百貨店業界は、高島屋VS松坂屋のデッドヒートで、結果としての2社寡占とならざるをえないのである。

消える百貨店・残る百貨店の差

こうした環境を踏まえると、名鉄名古屋駅直結とはいえ、名鉄百貨店が百貨店事業としては断念する、というのもうなずけるかもしれない。今の百貨店においては、インバウンド、富裕層取引でシェアを取れなければ、売り上げを十分に確保することは難しいからだ。

ただ、名鉄はターミナル消費の取り込みを諦める、と言っているのではない。駅前再開発で商業施設を含む大型複合ビルに転換することを選んだだけである。名鉄は鉄道会社であり、その経営目的は、沿線、周辺地域の付加価値を上げることで沿線に住むことの価値を上げていく=沿線価値向上であり、百貨店はたくさんあるツールの1つにすぎないからだ。

すでに、首都圏では、東急、小田急、京王、東武などの民鉄大手が自社ターミナルの商業施設として、百貨店から複合ビルへと転換する方向性を打ち出している(百貨店をやめるとは明言していない会社もあるが、その可能性がないことは断言できる。なぜなら、そんな決断をしたらステークホルダーが納得しないからだ)。

今後遠くない将来、インバウンドに適した立地、もしくは、富裕層に支持される品揃えと外商部隊を持っている百貨店以外は、大都市ターミナルから消えることになるだろう。大都市ターミナルというのは、稠密な鉄道網が張り巡らされた日本独特の高効率な商業立地だ。これを従来型百貨店の低い投資効率のまま放置することを、資本主義は許さないのである。

中井 彰人:流通アナリスト

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