ソフトバンク"脳細胞"を活用する異例の取り組み 次世代のAIとして2050年の実用化を目指す
東洋経済オンライン / 2025年1月24日 9時0分
ソフトバンクが異例ともいえる長期スパンで1つの開発に取り組んでいる。「BPU(Brain Processing Unit)」という脳細胞を使った新しいコンピューター構想だ。iPS細胞から培養した脳組織を活用し、人間の脳が持つ省エネで柔軟な学習能力を、直接コンピューティングに取り込もうという発想だ。
【写真で見る】人間の脳はコンピューターと比較して圧倒的に省電力で、少ない情報から学習する能力を持つ
東京大学との共同研究も進行中で、2050年頃の実用化を目標とする長期プロジェクトだ。研究体制はまだ小規模であり、実際の投資規模も限定的だが、企業としてここまで先を見据えた時間軸で取り組むのは珍しいだろう。
生物の脳をモデルにした新しいコンピューター
現在のAIやスーパーコンピューターは、トランジスタのオン・オフで情報処理を行い、大規模な演算には相応の電力とデータが必要だ。量子コンピューター(QPU)も大がかりな装置を要し、実用化には課題が多い。一方で、人間の脳は成人でもおよそ20W(スマートフォン数台分の充電相当)の電力で日常的な思考や学習をこなしている。
この圧倒的な省エネ性と適応力にヒントを得て、“脳細胞そのものを計算資源とみなす”というのがBPUの基本コンセプトだ。ソフトバンク先端技術研究所では、BPUを「CPUやGPU、そして量子コンピューター(QPU)に続く“第4のアクセラレーター”」と位置づける。未知の環境でも素早く学習し、高速に適応する能力を、まるごとテクノロジーに活かせないかと考えている。「従来のCPUやGPU、量子コンピューターと共存する形で、新しいアクセラレーターとして実現を目指しています」と、ソフトバンク先端技術研究所の杉村聡太氏は説明する。
“小さな人工脳”が示す学習能力
BPU構想を具体化するカギとなるのが「脳オルガノイド」である。これはiPS細胞から作製した0.5~1センチほどの球状組織で、中には神経細胞(ニューロン)やグリア細胞が存在する。
ニューロンは細胞膜にある“イオンチャネル”という微小なゲートを開閉し、電位変化(活動電位)を起こすことで情報をやりとりする。ソフトバンクと東京大学生産技術研究所の共同実験では、このオルガノイドを電極デバイスにのせ、外部から電気刺激を与えて学習能力を探った。
具体的には、規則的な刺激(報酬)とランダムノイズ刺激(ペナルティ)を交互に与えたところ、報酬刺激が続くほど神経活動が高まり、ペナルティ刺激が続くと活動量が落ちるなど、“脳細胞特有の学習らしき現象”が観察されたという。
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