イーロン・マスクに敗れた「カラ売り屋」冬の時代 長期の上げ相場という逆風、放置されるイカサマ企業
東洋経済オンライン / 2025年1月29日 8時0分
カラ売りをやりにくくしている要因はもう一つある。SEC(アメリカ証券取引委員会)による監視と摘発の強化だ。
これは2008年のリーマン危機を契機に、アメリカの大企業がカラ売り禁止を目指してロビー活動を行い、議会がカラ売りに対する透明性確保を求めたことに端を発している。また前述のゲームストップ社事件で、カラ売りの相場に対する影響が改めて注目を集めたこともSECを動かした。
具体的には2023年10月、SECは、新しい規則(13f-2)を設け、一定の基準を満たす機関投資家にカラ売りの詳細やポジションの報告を義務付け、集めたデータを集約し、公開することにした。
日本企業を「うんこ」呼ばわりしたカラ売り屋を摘発
こうした流れの中、SECは昨年7月、カラ売りを多用する投資会社、シトロン・リサーチが、少なくとも26件の事案で、「ベイト・アンド・スイッチ(bait-and-switch=おとり商法)」という違法な取引手法を使い、2000万ドル(約31億2000万円)の利益を上げたとして、同社と創業者で中心人物のアンドリュー・レフトを証券詐欺などで提訴した。
「ベイト・アンド・スイッチ」は、自分たちも同じポジションをとったと宣言して売りや買いを推奨し、それによって投資家が誘導されたと見るや、ポジションを逆にして利益を上げるやり方だ。裁判は進行中だが、同社の元社員の1人は、180万ドル(約2億8000万円)超を支払ってSECと和解することに同意した。
アンドリュー・レフトは、デトロイト市郊外で生まれたユダヤ人で、ボストンのノースイースタン大学を卒業後、強引かつ詐欺的な商品取引会社のセールスマンとして働き、業界団体から制裁を受けたこともあるいわくつきの男だ。
2001年にシトロン・リサーチを設立し、分析レポートの中で企業を挑発したり、下品な表現で貶めたりすることで知られ、日本のサイバーダイン社(東証グロース市場上場)を「うんこ」呼ばわりしたこともある。
レフト自身は、「他社の分析レポートは退屈極まりないので、自分は読者に読みたいと思わせるように書いている」とうそぶいている。
またSECは2023年にも、テキサス州の投資会社サビィ・マネジメントと同社の経営者ハル・D・ミンツが、虚偽情報流布や、売る株を手当てしないでカラ売りする「ネイキッド・ショートセリング」などの法律違反を犯し、200万ドル以上の不法な利益を上げたとして提訴した。
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