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「京アニ事件」報じられなかった被告の病的体験 「社会的孤立」に限定されない複合的な原因があった?

東洋経済オンライン / 2025年1月31日 8時10分

京都アニメーション放火殺人事件の判決言い渡しに臨む青葉真司被告=2024年1月25日、京都市中京区の京都地裁[イラスト・松元悠氏]©時事

2019年7月18日、死者36名、負傷者33名という大惨事となった京都アニメーション放火殺人事件。京都地裁は青葉真司被告に死刑の判決を下したが、被告側が控訴していた。しかし、2025年1月27日に被告が控訴を取り下げたことが判明し、死刑判決が確定することとなった。

青葉被告は、この犯行によって自身も全身に大やけどを負い、一時は生命も危ぶまれる状況だったが、懸命な救命措置の結果一命を取り止め、捜査や裁判にも何とか耐えられるまでに回復した。

裁判の開始前には青葉被告に対する精神鑑定が複数回実施された。さらに、裁判では被害者本人や遺族と青葉被告が直接質疑をする機会もあった。

心理的な問題は裁判を経てようやく明らかに

私は犯罪心理学の専門家として、事件直後や裁判中に複数のメディアから取材を受けた。

事件の直後には、どうしても「社会」的要因の報道が多くなる。当時の被告の生活ぶりや仕事、人間関係などをメディアはいろいろと取材をして報道する。

しかし、幼少期の家庭環境はなかなか出てこないし、医学的な問題や心理的な問題に対しては、報道は皆無といっていい。裁判の過程を見ないと、これらの重要な要因について何もわからないからだ。

したがって、事件直後の私の見解も、どうしても「社会」的要因に偏った分析となってしまっていた。当時被告は無職で対人関係も希薄であり、社会的孤立が深刻であった。これはいずれも犯罪の重要なリスクファクターであることから、こうした被告の置かれた「社会」的状況をもとに事件を分析した。

そして事件から4年以上経ち、判決言い渡しが間近に迫った時期に、私は朝日新聞大阪本社から、それまでの公判の全逐語録の送付を受け、それを読んでの意見を求められた。

私は10時間以上かけてその膨大な記録を熟読し、特にメディアではほとんど報じられることのなかった被告の幼少時からの生活歴や精神鑑定の結果、被告のパーソナリティなどを丹念に読みこんだ。

犯罪心理学では、犯罪行動を「生物・社会・心理モデル」によって分析する。つまり、これら3種類のカテゴリーの要因から多角的に事件との関連を見ていくということだ。具体的には、以下のような要因が含まれる。

【生物】遺伝、器質、医学的要因

【社会】生い立ち、家族関係、友人関係、職場関係、より大きな社会的要因

【心理】パーソナリティ、価値観、態度

事件直後の分析を修正することに

先に述べたように、どうしても事件直後の分析は、社会的背景に重点を置いたものになりがちだった。

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