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内田樹「日本には"お節介な人々"が一定数必要だ」 関東と関西で"おせっかい人口"には差もある

東洋経済オンライン / 2025年2月7日 12時0分

奥田さんのされていることはほんとうに立派な仕事だと思います。でも、誰も彼もが奥田さんみたいな生き方をすることはないと思うんです。ホームレスの人を自分の家に連れてきて、ご飯を食べさせてあげて、一緒に暮らすというようなことを奥田さんはやってきたわけですけれど、ふつうの人はそんなことはできませんよ。

だから、全員がそうである必要はない。でも、最後のセーフティネットとして、奥田さんみたいな人が一定数いることは絶対に必要なんです。

奥田さんの仕事が成功しているのは、奥田さんに「人を見る目」があるからだと思います。誰がどのような種類の支援を必要としているのかを見きわめることができる。そのためには、人間の器というか、成熟度というか、そういうものが必要なんです。そういう方がする支援は適切なお節介であり得る。

――よく西の人はお節介気質と言われますが、関東と関西でお節介人口の差を感じますか?

僕は東京にも部屋を借りているのですが、住民の対応が東西ではぜんぜん違いますね。大阪ではそれこそ「飴ちゃん食べる?」と、知らないおばちゃんがたまたま座席が隣になっただけなのに話しかけてきたりしますけれど、僕が東京に借りているマンションでは、挨拶してもほとんど返事が返ってこないですね。

もう数年暮らしていますけれど、「おはようございます」と挨拶して返事をもらったのが2回しかない。基本無視されます。東京の人は冷たいと愚痴をこぼしたら、友だちに「それは内田が悪い」と言われました。東京では、エレベーターで乗り合わせても、相手がそこにいないかのように振る舞うのが礼儀なんだよと教えられました。

集団にはそれぞれの地域特性がある

東京は東京生まれの人の街じゃないんです。多くは地方から東京に出てきた人です。田舎の濃密な人間関係が嫌で東京に出てきた人にしてみたら、同じマンションに暮らしているくらいの関係で挨拶なんかしてたまるかという感覚なのかもしれない。

でも、東京でも地域によっては密な人間関係があるところもあります。伝統的な祭礼が残っている地域なんかはそうです。だから、地方の濃い人間関係が嫌いで東京に出て来た人が、うっかり台東区とかに住むと大変ですよ。家の戸をどんどん叩かれて、「祭りの寄付ください」なんてすぐに声をかけられるから。だから、冷えた人間関係が好きという人は港区とか千代田区に住みたがる。

ただ、そういう「冷たいコミュニティ」では、社会的強者でないと生きづらいと思います。必要なものはなんでもお金で買えるという人は、地域と無関係に孤立できる。でも、病気になるとか、失職するとか、破産するとかした場合には、お節介を焼いてくれる人が近くにいてくれたほうが助かると思います。

地方移住した友だちに聞くと、田舎だと家の前にお魚や野菜が置いてあるなんてことはよくあることだそうです。これを「おお、ありがたい」と思える人は田舎でも暮らせるでしょうし、「気持ち悪い」と思う人は東京に住めばいい。集団にはそれぞれの地域特性があります。日本列島の住民全員が同じようである必要はありません。

みんなばらばらで構わないんです。だから、何をもって「お節介」と呼ぶかは地域によって違ってくる。それでも、どんな集団であっても、お節介をしてくれる人が一人もいないところで人間は生きてゆけないということは確かだと思います。

宮本 さおり:フリーランス記者

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