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医師不足に拍車をかける「偽りの働き方改革」 "自己研鑽""宿日直"で働かせ放題という現実

東洋経済オンライン / 2025年2月7日 8時0分

特例の異常な水準自体が大問題であるが、さらに問題なのは、この上限に自己研鑽の時間は含まれないことだ。

「自己研鑽」と「労働」との線引きはあいまい

厚生労働省の通達によれば、「上司の指示」や「業務との関連」があれば「労働」、どちらもなければ「自己研鑽」になる。通達では、診療ガイドラインの勉強や学会の準備、専門医資格の取得などについて、上司の指示や業務との関連で区分することになっている。しかし医師は日常的にこうした事柄に従事しており、一律の線引きが難しい。

そのため自己研鑽の名の下に、長時間の無償労働になりやすく、とりわけ若手医師などは病院にいいように使われてしまう。

「自分で調節できるはずの自己研鑽で、自殺などするでしょうか」と淳子さんは憤る。

2018年11月、都内大学病院の緩和医療科に勤務していた40歳の男性医師が、くも膜下出血を起こし寝たきり状態となった。

電子カルテなどによれば、月2〜5回の平日夜勤の宿直を含めると、発症前6カ月の時間外労働は月200時間をほぼ超えていた。

「宿日直」も抜け道に

ところが、三田労働基準監督署は労災申請を却下した。宿直時間のうち一律に6時間を仮眠時間として労働時間から差し引いたためだ。さらに不服申し立てによる審査請求では、宿直中の労働時間は「ゼロ」と判断した。電子カルテからは、深夜を含め診療を行っていたことが明らかであるにもかかわらずだ。

こうした判断を支えているのが、病院の「宿日直許可」制度だ。労基署長から許可を受ければ、宿直勤務が労働時間規制から除外されるという特例がある。ほとんど実働がない、いわゆる「寝当直」を想定した制度のはずだが、ほぼ一晩中、診療しているようなケースでも、労働時間と見なさない運用がまかり通っている。

さらにこの宿日直許可での宿直時間は、働き方改革で導入された「勤務間インターバル」にカウントできる。病院からすれば、夜間から翌日夕方までの長時間労働を可能にしてくれる仕組みだ。

医師の働き方改革への対応に四苦八苦していた病院経営者たちはこの「抜け道」に飛びついた。宿日直許可の件数は2020年の144件から、2023年には5173件まで跳ね上がっている。

2024年7月、男性医師は労災認定を求める訴えを東京地裁に起こした。妻は「現在小学生になった子供ですら『ずっと帰ってこられず病院にいなきゃいけないのに、働いていないと言われるの?』と言っています。夫が労災認定されないなら、何のための労災制度なのでしょうか」と話す。

働き方改革に逆行

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