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隠密作戦に最強の乗り物!? 新型「ボート」もとい「板」がスゴイ! 戦い方をガラッと変える可能性

乗りものニュース / 2024年4月22日 9時42分

スウェーデンのSOAL社が開発した「KRAKAジェット・ボード」。オペレーターはハンドルに掴まり、伏せた姿勢で搭乗するため、全体のシルエットが低く、隠密性に優れているのが特徴(画像:SOAL)

音もなく、深夜の海面を高速で移動する黒い影……。映画などでお馴染みの特殊部隊による水路進入の作戦が大きく変わるかもしれません。北欧メーカーが開発した新たな潜入用ボートは特殊作戦の「ゲーム・チェンジャー」となるのでしょうか。

特殊作戦用ゴムボートの概念変わるかも

 アメリカ海軍特殊部隊SEALsに代表される海軍系の特殊部隊の潜入シーンといえば、真っ黒なゴムボートを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。低く伏せるような姿勢のオペレーター(兵士)たちを乗せ、水面を高速で移動するシーンはカッコよく、映画などでもたびたび描かれます。

 あのボートはフランスのゾディアック社が開発したもので、まさに海軍特殊部隊向けに作られたものです。いわゆるインフレータブル・ボート(空気膨張式ボート)といわれるもので、アメリカ陸軍に所属していた筆者(飯柴智亮:元アメリカ陸軍将校)も、現役時代に渡河訓練などで使用した経験があります。また日本でも、海上自衛隊のSBU(特別警備隊)や海上保安庁のSST(特殊警備隊)で使用されています。

 これだけ聞くと、特別仕様のボートだと思うかもしれませんが、誤解を恐れずに言うと「単なるゴムボート」に過ぎません。たしかにスピードは出ますが、それは船外機によって得られるもので、出力のハナシでしかありません。

 ある意味、特殊部隊の世界ではベストセラーと言えるインフレータブル・ボートですが、そんな特殊作戦用ゴムボートの業界に大きな変化が起きようとしています。それが今回紹介する「KRAKAジェット・ボード」です。

 開発したのは北欧スウェーデンの企業、SOAL社です。スウェーデンは優れた海軍を持つ国として安全保障のコミュニティでは知られています。それは地図を見れば一目瞭然でしょう。

 スウェーデンにとっての海とはバルト海、つまり冷戦時代は対ソ連(現ロシア)海軍、いわゆるバルチック艦隊(バルト海艦隊)の最前線にあったわけです。そして冷戦後も、その戦略的重要性は色褪せていません。今年(2024年)、スウェーデンがNATO(北大西洋条約機構)に加盟し、ロシアとのあいだに緊張が高まりましたが、スウェーデンは過去数十年にわたり、ソ連/ロシアの軍事的脅威と隣り合うなかで海軍を整備してきたのです。

仏製「ゾディアック」上回る機能性の良さ

 それでは、改めてKRAKAジェット・ボードを見てみましょう。

 ジェット・ボードの特徴は、文字通り平坦な「ボード」であることです。これにより完全武装の特殊部隊オペレーターだけでなく、ATV/UTVなどの多機能小型車両やスノーモービル、またUGV(無人地上車両)を陸揚げすることが可能になり、上陸後のオペレーターの機動性を大いに向上させました。この点がゾディアックのゴムボートと異なります。

 また、動力源にバッテリー(EV)を採用したことで、駆動音はほぼなくなりました。波の立つ音は生じるものの、船外機から出るような大きな音がしないことは、静粛性が重要視される特殊部隊の浸透作戦(秘密裡に敵へ近づく作戦)において、はかりしれないほど大きなメリットがあります。

 著者が最も驚いたのは、潜入手段のひとつである空挺降下にあたって、通常のヘヴィー・ドロップ(重量投下。ボートを単体で投下する)ではなく、オペレーターと一緒にパラシュート降下できることです。これは「マルチミッション・タンデム/エアドロップ・バレル・システム」と呼ばれるもので、特殊なケースに折り畳んで収納されます。

 従来のヘヴィー・ドロップでは風向きなどによってオペレーターとボートが離れ離れになってしまうことがありましたが、この方法であれば着水後すぐに行動に移ることができるでしょう。

 またKRAKAジェット・ボードは有人運用だけでなく無人運用(遠隔操作)も想定されています。カメラなど各種ISR(偵察監視)機器を搭載して、海上に浮かぶ「眼や耳」になることができます。またRWS(リモート武器システム)を搭載すれば、「海上の無人戦車」のような運用も可能です。

 非合法移民や密輸業者、そして秘密裡に潜入しようとする敵国特殊部隊などにとって、これは大きな脅威になるはずです。沿岸部に北欧特有の複雑な海岸線を抱えるスウェーデンならではのアイデアと言えます。

装備次第で無人水上艇にも早変わり

 さらにSOAL社では、「グラビティ・ジェット・スーツ」など他社の最新機材とのハイブリッド運用も研究しているようです。

 グラビティ・ジェット・スーツは、背面と両腕に装着した小型ジェットエンジンにより飛行するもので、日本でもニュースや動画サイトなどで紹介されています。たとえば、ハイジャックされた貨物船やタンカーに対して、ジェット・ボードで接近し、ジェットスーツで一気に甲板上へ部隊を展開させる、といったことができるかもしれません。

 KRAKAジェット・ボードはペイロードの異なる3タイプが用意されており、小さいほうから順に「MIL250」「MIL400」「MIL600」と名付けられています。数字はそのままペイロード(kg)を示します。行動可能な距離はバッテリー1個で10kmであり、予備を使うことで最大30kmまで延伸可能とのことでした。

 筆者は、ジェット・ボードをヨーロッパの安全保障関係者向け装備展示会で発見したのですが、製品説明を受けて「これはゲーム・チェンジャーになるのではないか」と、大きな衝撃を受けました。これまで、この分野はゾディアックの「一強」状態が数十年続いており、機能的な進化がまったく見られませんでした。

 同社の担当者も「私たちもゲーム・チェンジャーとなるように開発しました。いや、必然としてそうなるでしょう」と自信満々だったのが印象的です。

 すでに複数の部隊で試験運用が開始されているため、そこで得られた知見がメーカーにフィードバックされてさらなる改良が加えられ、より良いものへと進化するでしょう。ひょっとしたら近い将来、特殊部隊で「KRAKAジェット・ボードが常識」となっている可能性も決して小さくないと思える、そんな一品でした。

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