戦闘機を覆う「ニンジャ・ハンガー」開発元は“着物の帯メーカー”!? なぜか“防衛装備”になったワケ 海外展示会で注目
乗りものニュース / 2024年5月6日 18時12分
「シンガポール航空ショー2024」で日本企業が独特な可搬式格納庫を展示していました。説明によると、なんと電磁波を遮断できる布を使っているとのこと。どういうメリットがあるのか、担当者にハナシを聞きました。
電子の目を欺く「Made in Japan」の技術
2024年2月にシンガポールで開催された「シンガポール航空ショー2024」では、防衛装備庁が主体となって複数の日本企業が参加し、防衛装備品に関する各種展示を行っていました。なかでも注目を集めていたのが、京都に本社を置く繊維・医療機器の製造販売を行うミツフジの展示品です。
同社が出品していたのは、戦闘機用のハンガー(簡易格納庫)です。ブースに展示されたのは模型でしたが、そのハンガーはU字型のフレームに布製の天幕を張ったもので、その中にはF-35A「ライトニングII」戦闘機のダイキャスト模型が置かれており、実物は機体をスッポリと覆えるほどの大きさであることがわかります。
このようなハンガーは、機体や隊員を日光や雨風から守るために、世界各国の基地で多用されており、特段目新しいものではありません。しかし、ミツフジの戦闘機用ハンガーには、同社の繊維技術によって実現した、ある特別な機能があります。
それは、このハンガーがレーダー波を含めた電磁波を遮蔽することができる点です。ハンガーの天幕に用いている生地には電波を遮断するシールド材としての機能があり、格納した機体は電子の目による監視に対して、その存在を隠すことができるのだとか。それは情報戦において大きな利点になるようです。
では、このシンプルな構造ながらもハイテクな機能を持つ戦闘機用ハンガーは、軍事的な観点でいうと、どのような利点があるのでしょうか。
「電磁波を遮断」って、何の役に立つ?
空からの偵察手段といえば、これまではカメラを使った光学機器によるものが定番でした。しかし、近年では合成開口レーダー(SAR)を使った電子の目による探索も可能となり、それによって航空機だけでなく宇宙から偵察衛星を使って地上施設の動向を調べることも行われています。
飛んでいない航空機を調べることに何の意味があるのか、と思われる向きもあるかもしれませんが、当該基地に所在する戦闘機の数やその動向を知ることは、諜報戦において重要で、それを追いかけることで少なくない情報を得ることができます。
たとえば、基地内に駐機する機数を定点観測すれば、全体の機数から整備作業と実際に飛行している機体の比率がわかります。これにより、軍隊としてもっとも知られて欲しくない運用情報や継戦能力を推測することが可能です。
そのような “定点観測” を防ぐのに、ミツフジの戦闘機用ハンガーは適していると言えるでしょう。
この天幕に使われている繊維は、ナイロンの芯材に周りが銀でメッキ処理された特殊なもので、これにより電磁波を遮断する効果があるのだと、現地で説明してくれました。
軍事衛星の目も欺く技術は、高度な軍事技術の結晶のようにも思えますが、ミツフジの担当者によると、元々の用途は民間の事業向けだったそうです。
「電波遮蔽の技術は、イベント会場や大きな店舗用として開発したものです。こういった場所では、そこで働くスタッフがインカム(無線)や電波を出す機械を使っていますが、これらの電波が混信しないようエリアごとに電波を遮断する要望がありました。そこで弊社は、銀メッキ技術を使って電波を遮断する素材を開発したのです。」
技術の原点は着物の帯!
開発したミツフジはもともと防衛産業とは関係のない会社で、企業としての原点は日本古来の和装で使われる帯なのだとか。創業は1956年で、最初は西陣帯の製造工場として事業が始まったそうです。
その後は、縫製や繊維工場として業務を行っていましたが、1980年より自社で素材開発を進め、導電性ネットやテープなどの独自素材の販売を開始したといいます。
今回、出展した戦闘機用ハンガーに使われている繊維の銀メッキは抗菌防臭・導電・シールドの効果があり、2002 年に統合ブランド化。その製品の一つは抗菌防臭効果を活用し、国際宇宙ステーションの宇宙飛行士の下着素材にも採用されています。
近年では素材だけでなく身に着けると体の状態がわかるウェアラブル端末の開発も行っており、装着者の暑熱リスクの度合いを知らせるリストバンド型デバイスなども開発。こちらも民間事業者向けに開発されたものですが、のちに陸上自衛隊の一部の駐屯地に納入されて利用されているそうです。
一般的な日本人の感覚からすると、防衛装備品というと唯一無二で機密性の高い特別な存在に思えるかもしれません。しかし、そこで使われている技術的な要素は、民間で培われたものが多いと言えるでしょう。すなわち、防衛や民間といったカテゴライズには意味がなく、用途に応じてあらゆる業界で「横展開」するかたちで利用されています。
筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)は、海外の防衛関係のトレードショーをいくつも取材していますが、そこに参加する企業の多くは、防衛関係だけでなく民間分野での事業も平行して行っていることが多いです。それらを見ていると、双方に関わっていくことで技術発展が生まれる相乗効果もある模様です。
西陣帯に始まって、宇宙飛行士の下着から戦闘機用ハンガーまで開発できるミツフジは、そのような防衛・民間のシナジー効果の具体例ともいえる企業だといえるでしょう。
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