「世界最強の戦闘機」より強かった!? テストで敗けた異形のライバル機の“怪物”ぶり 「あれは政治的敗北だった」
乗りものニュース / 2024年5月30日 6時12分
「世界最強の戦闘機」と呼ばれることもあるF-22「ラプター」と、採用時にライバルだったのがYF-23です。同機がトライアルに負けたのには、性能とは別の「大人の事情」があったと主張する人がいる模様です。
F-22「ラプター」と一騎打ちした “怪物”
2024年5月18日(土)と19日(日)の両日、東京都下にある在日米軍の横田基地において日米友好祭が開催されました。同基地では12年ぶりにF-22「ラプター」戦闘機を公開という話題性も効いたのか、2日間の来場者はのべ30万2000人を数えるほどの大盛況ぶりでした。
F-22は「航空支配戦闘機(エアドミナンスファイター)」の異名を有し、一部では「世界最強の戦闘機」と呼ばれることもあります。横田基地航空祭でも、圧倒的な存在感を放っていたようですが、その影には幻で終わったもう一つの「怪物」が存在しました。
怪物の名前はノースロップYF-23「ブラックウィドウII」。後にF-22として制式化される試作機YF-22と、アメリカ空軍においてF-15「イーグル」の後継機としての座を競い合った実証評価機です。最終的に、YF-23はYF-22との熾烈な競争に敗れ、日の目を見ることなく歴史の闇に消えてしまいました。
筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)が、カリフォルニア州トーランスにおいてYF-23と初対面したのは2014年のことです。あのときの衝撃は今でも鮮明に思い出されます。すでに役目を終え飛行不能となった機体は、一見すると薄汚れくたびれたように見えますが、その曲線的なフォルムは光り輝いており、最新鋭機であるはずのF-22やF-35でさえ保守的で古臭いものに感じさせるほど、優雅かつ先進的でした。
とはいえ、先進的であることが常に良い方向に作用するとは限りませんし、保守的であることが単純に欠点になるわけではありません。しかし、YF-23の全体的なデザインは、全翼機B-2などの開発で知られるノースロップ社が「冒険的・革新的」をモットーに開発に取り組んだからこそ具現化したフォルムだといえ、実際YF-23の設計を改めて見てみると、そのことを如実に感じることができるのです。
性能はYF-23の方が上ってホント?
たとえるなら、YF-23は「ハイリスク・ハイリターン」を選んだ機体で、評価試験に際してはいくつかの点でYF-22を上回る高性能ぶりを発揮していました。代表的なのは、そのステルス性です。YF-23はエアインテークと機体の間に「隙間」を設けない、いわゆる「ダイバータレス」方式を採用し、空力よりもレーダー探知を最小限にすることを優先した設計を採っていました。
また、エンジン排気口まわりにはジェット排気の冷却デッキを備え、赤外線も検知されにくいようにする徹底ぶり。機動性も「超音速巡航(スーパークルーズ)」ではYF-23が上回っているなど、敗者であるとはいっても性能的にはF-22に劣っていたわけではなく、あくまでも「F-22とは性格の異なる機種」であったと言えるでしょう。
YF-23開発チームのマネージャー、デル・ジェイコブズ氏は、本当はYF-23が勝利者であったと断言します。
「当時、ノースロップは(海軍向けの艦上戦闘機)F/A-18E/Fと(空軍向けのステルス爆撃機)B-2といった開発プロジェクトを受け持っていました。対してロッキードは、新たな戦闘機開発プログラムを持っていませんでした。YF-23が敗北した真の理由は、政府が国策としてロッキードを救済したためです。私たちのYF-23のほうが仕様を満たしていたことは非公式に伝えられていました。新戦闘機プロジェクトの真の勝者はYF-23だったのです」(デル・ジェイコブズ氏)
ジェイコブズ氏いわく、YF-23は政治的駆け引きで敗者にされたとのこと。彼の主張が真実であるかどうかは定かではありません。しかし、少なくともノースロップの技術者たちは、YF-23こそが勝者だと自負していると言えるでしょう。
逆に言うと、もし当時、ロッキード社が別のビッグプロジェクトを抱えていたら、F-15の後継機選定は違う動きを見せたかもしれないのです。歴史の流れとは奇妙なもの。ほんの少しだけ世界が違っていたら、2024年の横田基地航空祭で注目を集めていたのは「F-23A」と呼ばれる別のステルス戦闘機であったかもしれません。
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