望月晴文・元経済産業事務次官 「日本にはヒト・モノ・カネの要素が全部揃っている」
財界オンライン / 2024年4月17日 18時0分
今は田中角栄元首相の列島改造論が起きている
─ 日経平均株価が史上最高値をつけ、日銀はマイナス金利政策を解除し、金利を引き上げることを決めました。日本経済を取り巻く環境が大きく変化しようとしている中で、日本再生に何が必要だと考えますか。
望月 今は岸田文雄政権が「成長と分配の好循環」に向けて取り組んでいて、企業も大企業を中心に、賃上げと物価上昇の好循環を生み出そうとしています。日本は長く〝失われた30年〟と言われて停滞していたわけですが、政治も企業も今の流れを推進していけば、間違いなく日本は再生すると思います。
日銀がマイナス金利を解除 企業も実力を問われる時代へ
失われた30年の間には、バブル崩壊後の三つの過剰を解消すると称して、日本企業が設備、負債、雇用の三つの過剰を解消してきたわけです。それは全部リストラです。中にはつぶれた会社もあって、うまくリストラできた会社が残存者利益で生き延びてきた。そういう会社が日本経済の中心にいました。
そして、アベノミクスによって、経済の好循環を促し、ようやく企業も利益が上がるようになってきた。ところが、どの会社も成長体験がしばらく無かったので、キャッシュが上がっても、新しい投資をどこにしていいか決心ができない。それが経済の停滞を生んでいたわけです。
─ 経営者に成長体験が無かったと。
望月 社長だけではありません。バブル崩壊後に採用されて、現在、中堅クラスに来ている幹部が、みんな成長体験がないわけです。
しかし、会社にはキャッシュがあるから、投資家から配当しろと言われる。それで株主配当が増えて、今度はM&A(合併・買収)をすると。中には、高値掴みで買収してしまい、のれん償却で混乱するような会社も出てきた。そんな状況だったと思うんですよね。
ところが、一番効率のいい余剰資金の使い方は、自分自身に投資をすることであって、それは設備投資と人材投資だと。本当は経済学を学んだ人なら分かっているはずなのに、どこでやっていいか分からなかった。それにようやく気付いて、どんどん半導体などに投資をするようになってきた。それが今の日本の状況だと思います。
─ TSMC(台湾積体電路製造)が進出する熊本や、ラピダスが新工場を建設する北海道は、地元経済もかなり盛り上がっています。
望月 ええ。北海道はこれからですが、典型的なのはTSMCが進出した熊本ですよね。
政府の支援もあって、工場があっという間に出来上がって、それに必要なインフラをどんどん整備していった。優秀な人材を集めるために給料も高く設定し、高所得者がどんどん集まってくる。そして、そういう人たちが住むための住居やスーパーがどんどん出来ている。
しかも、半導体メーカーだけでなく、それにかかわる部品メーカーや装置メーカー、あるいは自動車メーカーもどんどん投資をするから、地域全体が活気づくわけですよね。
要するに、田中角栄元首相の列島改造論と同じことが起こっているわけで、こうした事例を全国で同じようにつくっていけばいいと思います。
真のデフレ脱却を果たすには?
─ なるほど。列島改造論と同じような動きですか。
望月 はい。そういう意味では、失われた30年を取り返すためにも賃上げが大事になる。
日本は人口減少で、どうしても人は足りなくなってくるわけだから、賃金を上げなければいけない。大企業だろうと、中小企業だろうと賃金を上げなければならない。これはいい循環ですよね。
ただ、賃金を上げるということは、労働コストが高くなるということだから、今度は更に省力化のためのITやロボット投資をしなければならない。
何もしなければ労働人口は減るわけで、経済は相対的に落ちていくわけです。しかし、人や設備に投資をすることで、人口減少下でも成長できるというモデルをつくることが出来れば、次の時代、日本は勝ち組になる可能性がありますよ。
─ そうしたロールモデルを早くつくるべきだと。
望月 日本にはヒト・モノ・カネの要素が全部揃っているわけですから、世界の勝ち組になる要素はあります。それを逃さないためにも、国の政策や企業経営をしっかりとしたものにしていってほしいと思います。
わたしは、そういう好循環を生み出していくことができれば、日本は真のデフレ脱却を果たすことができると思います。
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