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「”ESG重視”の経営を行う企業は予期せぬリスクへの耐性が高い」 津坂純・日本産業推進機構社長

財界オンライン / 2021年7月13日 11時30分

津坂純・日本産業推進機構社長

経常利益10%超があってこそ様々な危機を乗り越えられる

 ―― この1年、全世界がコロナ禍で大変な状況になっているんですが、コロナ禍の感想から聞かせてもらえませんか。

 津坂 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、世界的に既存のマーケットの需要が大きく減退する一方で、企業の社会的責任に対する注目度がさらに高まっているように感じます。

 日本でも、政府が2050年の温室効果ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルを打ち出しましたが、各国で国を挙げたESG(環境・社会・企業統治)への取り組みが進んでいます。しかも、ESGを重視した経営を行う企業は、今回の新型コロナのような予期せぬリスクへの耐性が高いことが指摘されています。

 われわれ日本産業推進機構(NSSK)も、2014年の設立以来、ESGに力を入れてきました。7年前はサステナビリティとか持続性とか言っても、皆さん「何それ?」という感じでしたが、信念をもって継続してきて良かったと思います。

 ―― 最近では国連が定めるSDGs(持続可能な開発目標)やESGという言葉が毎日飛び交うような時代になりました。

 津坂 そうなんです。実は6月に当社で初めてESGのアニュアルレポートを発行します。その骨子は、当社の投資活動の中で一番誇りに思うのが多様性であり、人材や組織の多様性はより優れた投資結果につながるということなんです。

 例えば、われわれは女性社員や幹部の比率をどんどん増やしていまして、投資先企業の社長、あるいはナンバー2はすでに40%が女性もしくはマイノリティです。従業員全体の実に78%が女性で、しかも、女性が管理職の49%を占めています。こうした数字は海外のトップファンドと比較しても負けていません。

 ―― 投資先企業の約8割が女性というのは、若い会社が多いということですか。

 津坂 若い会社もありますし、80年の歴史のある会社もあります。そうした様々な会社で投資の効果が出ていますので、わたしどもが当初から目指していた多様性を尊重する経営ということが、より良い業績と投資結果につながり、社会貢献につながっていると実感します。ですから、今はうまく循環しているなと思います。

 今回のコロナもそうですし、リーマンショックの時もそうでしたが、厳しいトンネルをいち早く抜け出した企業というのは、やはり、優れたビジネスモデルを持っている企業だと思います。京セラ名誉会長の稲盛和夫さんがよく仰っていたのが、経常利益10%あってこそ様々な危機を乗り越えられると。

 常に10%の利益を出せる企業であれば、景気が悪化しても5%くらいは確保できることになりますが、初めから数%しかない企業では景気が悪化すればゼロになってしまいます。それで赤字になり、銀行に迷惑をかけ、従業員にもお客様にも迷惑をかけてしまう。ですから、こういう状況にならないようにするためには、初めから筋肉質な企業でなければならないんです。

 ―― そういうビジネスモデルに日頃からしておかなければならないと。

 津坂 ええ。ですから、平時からコストをなるべく抑えて、売上を最適化していくことが大事なのだろうと思います。

【経済の本質を衝く!】矢嶋康次・ニッセイ基礎研究所チーフエコノミスト「『ESG投資』の現実と日本の選択」




人として正しい判断を

 ―― 津坂さんが投資をしたり、企業再生を手掛ける上で、もっとも大事にしているポイントはどんなことですか。

 津坂 われわれが大事にしていることは、投資会社として何を目標にしているのかということです。よく投資会社というと株主価値の向上であるとか、リターンの追求が第一だと考える会社もあります。しかし、われわれはお金儲けが全てだとは考えていません。われわれの経営理念は全てのステークホルダーの利益を守ることにありますが、僭越ながら、その判断基準は、人として何が正しいか。全てがここに行きつくと。

 ですから、難しい局面に陥った時には、まずは人間として何が正しいのかをチームで議論して、そこで決断した上で前に進んでいく。それに尽きると思います。

 ―― 人として何が正しいか。そういうことを掲げる投資ファンドは珍しいですね。

 津坂 よく投資先の方から聞かれるのは、NSSKが大株主になって何が変わるのかということなんですが、われわれが一番大事にしているのは、従業員の幸せなんですよね。お客様も、株主も、サプライヤーの皆さんももちろん大事なんですが、やはり、ベースはその会社で働く従業員が幸せでないと、全てはうまくいかないと思います。

 もっとも、幸せの定義はいろいろあると思うんですが、われわれはやはり、そこで働くことを誇りに思える会社をつくりたい。何をもって誇りに思えるかは人それぞれ違うかもしれませんが、一つ統一しているのは、良い仕事をしたら従業員を褒めてあげることです。表彰したり、ボーナスをアップしたり、役職を上げたり、きちんと目に見える形で従業員の努力に報いてあげようということです。

 ―― 目に見える形で、というのがポイントですね。

 津坂 ええ。やはり、一つはキャリアパスですよね。従業員として幸せになるためには、これをこうすれば昇格できるんだということを明確に示してあげることです。自分は今30歳だけれども、50歳までに取締役になるためには、こういうことをしなければならないという道が見えて、透明性があれば、自分も出世できると考えて、若い頃から頑張れるはずです。うまくいかない会社はこの透明性がないので、人が離れていったりするわけです。

 一方、小さいお子さんがいる従業員であれば、中にはそんなにバリバリ働くことが難しいので、取締役になろうとか、社長になろうなどと思わない人もいますよね。しかし、きちんと30年間この会社でしっかり働きたいと思っているのであれば、安定かつ安心して、きちんと給料やボーナスをもらうことができるキャリアパスをつくってあげなければなりません。

 ですから、こっちを否定するのではなく、われわれは両方大事ですよと。そういう人事制度をつくることによって、従業員が働きたい会社になり、従業員の幸せにつながると思います。

 ―― 多様性を認めてあげる人事制度ですね。

 津坂 そうです。最後はやはりフェアでなければならないと思います。全てが公平でフェアであれば、なぜこういう判断に至ったのかを説明しても納得してもらえると思うんですよ。

 ですから、人間として正しい判断をするということ。この辺をわれわれは重視しています。もちろん、会社が伸びるための成長資金と、伸びるためにはいろいろな事業プロセスが必要ですから、そういった投資先企業がやってきていないことを伝授します。そして、人の幸せを尊重する。この3点セットを提供することで、投資先企業に成長してもらう。それが、われわれNSSKの信条です。

経済同友会・櫻田謙悟代表幹事「日本は『新しい日本株式会社=コーポレートジャパン』の構築を」

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