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【政界】自民党支持層の「菅離れ」加速 衆院選を前に総裁選は波乱含み

財界オンライン / 2021年9月15日 7時0分

イラスト・山田紳

※2021年9月8日時点

間もなく発足1年を迎える菅政権が窮地に陥っている。自民党の実力者たちはそれぞれの思惑から首相・菅義偉の党総裁続投で一致したが、地盤の弱い中堅、若手議員や地方組織には不満と不安が渦巻く。一方、野党にも2009年の政権交代時のような追い風は吹いていない。小選挙区制のもとで「党首力」が勝敗を分けるとされてきた衆院選は今回、本命不在の混戦へと様相が一変しそうだ。

「談合はマイナス」

 東京オリンピック前、複数の自民党幹部は「8月の内閣支持率がポイントになるだろう」と語っていた。7月の東京都議選は苦戦したが、五輪の成功と新型コロナウイルスのワクチン普及で状況が好転するかもしれないという淡い期待だった。

 しかし、報道各社の8月の世論調査では、五輪開催が一定の評価を得た半面、支持率は軒並み過去最低を更新し、中には3割を切るものもあった。新型コロナのデルタ株の感染急拡大が要因とみられ、五輪の政権浮揚効果は吹き飛んだ。

 政府は東京など6都府県の緊急事態宣言を9月12日まで延長し、京都、福岡など7府県を追加した。8月下旬には対象が北海道など8道県にも広がり、出口は一向に見えてこない。

 昨年9月の就任以来、新型コロナ対策が最優先だと繰り返し、衆院解散を自重してきた首相も、衆院議員の任期満了(10月21日)が迫り、いよいよ追い込まれてきた。支持率低下に歯止めがかからず、議員や秘書の間では「菅さんと並んだポスターはやめてほしいと支持者に言われた」「地元の雰囲気は政権交代以来の厳しさだ」といった会話が飛び交う。

 自民党新潟県連は8月11日、総裁選を党員・党友投票を含む正規の手続きで9月末までに実施するよう党本部に要請した。菅の総裁任期(9月30日)を特例で延長し、総裁選を衆院選後に先送りする奇策は認めないとクギを刺したのだ。

 県連会長の高鳥修一は「長老や派閥の領袖が談合して総裁選の流れを決めるのはマイナスだ。堂々と議論し、党員が最終的に判断するというプロセスが大事だ」と記者団に語った。

 幹事長の二階俊博らが総裁選の先送りを目指したのは、衆院選前の「菅降ろし」を封じるためだった。しかし、このプランは衆院選で自民党が勝つことが前提になる。そこが揺らぎ始めた以上、新潟県連のような要求が出るのは当然だ。

 派閥に属していない菅の党内基盤は決して強くなく、最大派閥の細田派など主要5派に支えられているものの内実は同床異夢だ。緊急事態宣言の延長で、9月5日のパラリンピック閉会直後の解散はほぼ消え、党内の関心は総裁選に移っている。

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「今回は菅で行く」

 8月16日発売の『週刊ポスト』にセンセーショナルな見出しが躍った。いわく「安倍と麻生の極秘会談で『菅降ろし』の号砲が鳴った! 」。それに触発されたわけではないだろうが、緊急事態宣言の延長方針決定に関する翌日の首相記者会見で、ある新聞社の記者から「総理は秋以降も新型コロナ対策をはじめとする国家運営を担われるお考えか」という質問が出た。

 すると菅は「意図はお見通し」と言わんばかりの笑みを浮かべて答えた。「秋の総裁選に出られるのかという質問が(7月に)テレビ局からあった。その際に、総裁として出馬するのは、時期が来れば当然のことだろう答えている。それに変わりはない」。強がりでも何でもない。菅には確信があったのだ。

 その後のキーパーソンの言動を検証すると、記者会見の時点で流れはできていたことがわかる。

 翌18日、自民党政調会長の下村博文が前首相・安倍晋三の国会内の議員事務所を訪れた。総裁選に立候補する意向を伝えるためだ。しかし、安倍は「決意はわかるけど、じゃあ(私が)下村さんをやるよという状況じゃないのはわかるよね」と下村に翻意を促した。

 下村が所属する細田派の一部には下村を推す声があったが、いずれ派閥を継承する安倍としては、分裂含みの動きを許すわけにはいかない。昨年8月に突然、退陣を表明した後、菅に政権を引き継いでもらった恩義もある。

 昨年の総裁選で菅と争った前政調会長の岸田文雄は「チャンスがあれば挑戦したい。日程が確定すれば具体的な関わり方を決めたい」と言い続けてきた。党内の情勢を見極めようとしたようだ。

 これに対し、岸田とのあつれきから岸田派名誉会長を退いた元幹事長の古賀誠は「利口な岸田会長だから、よく状況を見ながら判断される。出馬まで踏み切るという決断には至らないのではないか」(19日のCS―TBSの番組収録)とけん制。派閥内にも「安倍さんと菅さんが岸田会長につくことはまずない」という冷めた声は少なくなかった。

 それを裏付けるかのように、元官房長官の河村建夫は20日、山口県萩市の集会でこんな裏話を披露した。「麻生さんから直接(話が)あった。『今回は菅で行くべきだ』と明言しておられた。そういう方向で流れていくだろう」。河村は麻生内閣の官房長官で二階派の幹部。当然、麻生の意向は河村を通じて二階に伝わっていたはずだ。

 同じ日、元幹事長の石破茂もBSフジの番組で「『菅さんでは選挙は戦えないので顔を変えますかね』ということが本当に国民に理解されるのか」と述べた。石破派はメンバーの退会や休会が相次ぎ、石破は昨年の総裁選で敗れた後、会長を辞任した。側近の元環境相・鴨下一郎は今期限りで引退する。今回とてもリベンジできる態勢ではない。

 発信力のある行政改革担当相の河野太郎は閣内でワクチン接種政策を担っており、「総裁選うんぬんより、まず今の仕事をしっかりやりたい」と慎重だ。複数の自民党幹部は「河野が出るのは菅が辞めるときだけだ」と口をそろえる。

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戦術ことごとく裏目

 かくして、求心力の衰えた菅の総裁再選が早々と固まるという奇妙な構図が現出した。留意すべきは、それが菅の地元・横浜市長選の結果が出る直前だったことだ。

 自民党横浜市連は多選と健康不安を理由に当時現職の林文子を見限った。しかし、後継探しが難航し、菅内閣の国家公安委員長だった小此木八郎が自ら立候補するという異例の展開に。そればかりか、小此木はカジノを含む統合型リゾート(IR)の横浜への誘致を「取りやめる」と公約し、関係者を驚かせた。

 言うまでもなくIRは菅の肝いりの政策で、地元経済界の期待は大きい。小此木の中止宣言は本来なら造反のはずだが、菅が地元タウン紙で小此木を「全面的かつ全力で支援する」と明言し、混乱に拍車をかけた。IRを推進してきた自民党の横浜市議や経済界の一部は林を担ぎ出して保守分裂選挙に突入した。

 カジノを巡って菅との関係が悪化していた「ハマのドン」こと、前横浜港運協会会長の藤木幸夫は、親交のある小此木ではなく、立憲民主党が推薦した元横浜市立大教授の山中竹春についた。立憲代表代行の江田憲司が口説いたのだ。

 もともと横浜ではIR反対の世論が強い。とはいえ、市長選で有権者から「IRノー」を突きつけられる前に争点から外そうとした小此木や菅の戦術は、いかにも唐突だった。

 加えて、選挙期間中に神奈川県内で新型コロナの1日の新規感染者数が3000人に迫ったことも小此木陣営には誤算だった。有権者の関心はコロナ対策に集中し、横浜市立大でコロナの中和抗体を研究してきた山中は専門性をアピールすることに成功した。

 自民党幹部には連日のように、期日前投票の出口調査など「小此木不利」の情報がもたらされた。衆院選を見越して、自主投票ながら小此木に肩入れした公明党も途中で白旗を上げた。小此木の敗北は避けられない状況になり、二階ら自民党の実力者は8月22日の投開票を待たずに菅支持に動いた。党内の動揺を抑え込もうとしたのだ。

 案の定、横浜市長選は山中が小此木に約18万票の差をつけて圧勝した。翌朝、首相官邸入りした菅は「大変残念な結果だった。市民の皆さんが市政の様々な課題について判断されたわけなので、謙虚に受け止めたい」と記者団に語り、総裁選立候補の意思に変わりはないことを強調した。自民党国対委員長の森山裕も「地方自治における選挙の結果が国政に反映することはない」と菅をかばった。

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党員票は誰に?

 しかし、菅が大きなダメージを負ったのは間違いない。自民党は4月の衆参3選挙で「全敗」し、7月の東京都議選では伸び悩んだ。そして今回の横浜市長選。小此木は菅の選挙区(衆院神奈川2区)でも山中の得票を下回り、菅がもはや「選挙の顔」になり得ないことがはっきりした。

 安倍総裁のもと、12年衆院選で初当選した自民党の「3回生」(約80人)はこれまで逆風の選挙を戦った経験がない。浮足立った若手や中堅議員からは衆院選前に菅の交代を求める声が強まる。ベテラン議員は「菅では戦えないなんて、これまで自分の力で選挙をしてこなかった奴の言うことだ」と顔をしかめるが、近年、風頼みの選挙をしてきたのは、ほからなぬ自民党だ。

 総裁選は9月17日告示―同29日投開票の日程で行われる。岸田は8月26日、「自民党が国民の声を聞き、幅広い選択を示すことができる政党だと示すために立候補する」と名乗りを挙げた。前総務相の高市早苗も立候補に意欲を示している。執行部は菅の再選に自信を持っているが、党員・党友票が岸田ら対立候補に流れ、「菅離れ」が改めて露呈するリスクはつきまとう。国会議員票にしても派閥の締めつけが従来ほどきかない可能性がある。

 立憲民主党代表の枝野幸男は「自民党がどういう人事になろうと、機能していない自公政権が(選挙の)相手なのは何も変わらない」と意気込む。ただ、09年と違って野党の支持率は伸びておらず、共産党との協力を巡る立憲と国民民主党の温度差は相変わらずだ。いきおい「菅のままの方がありがたい」(立憲幹部)という本音が漏れる。

 8月25日、自民党本部で二階らと会談した菅は「総裁選は粛々と進めて欲しい」と指示した。総裁選後、任期満了に伴う衆院選と解散のどちらを選ぶかは流動的だが、投票日は10月下旬以降になりそうだ。

 自民党が8月に実施した衆院選の情勢調査では、約40議席減という結果が出た。ただ、「競っている選挙区が多く、もっと減らす恐れがある」(同党関係者)といい、新型コロナの感染抑止が進まなければ、公明党と合わせて過半数(233議席)ぎりぎりというケースも想定される。菅が総裁に再選されても、衆院選の結果次第では、政権は早晩行き詰まりかねない。

 政治の流動化はコロナ危機で劣化をさらに加速させる。課題はコロナ対応に留まらず、米中との向き合い方など国の基盤を揺さぶる項目ばかり。日本国の舵取り、日本国のあり方を決める上でも政治リーダーの責任が重いことを与野党ともに肝に銘じるべきだろう。 (敬称略)

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