参院選争点③ 憲法改正、野党も国民も分かれる賛否
政治山 / 2016年6月17日 14時00分
熊本地震発生まで衆参同日選を検討していたと言われる安倍晋三首相にとって、7月の選挙は消費増税・アベノミクスの是非と並んで、憲法改正に向けた天王山となるはずでした。
●秘密情報保護法、安保法制…憲法解釈巡り世論二分
中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル実験など日本を取り巻く環境が変化する中、安倍内閣は政権交代した2012年12月以降、周辺危機事態に備えた法案を成立させていきました。
憲法が保障する表現の自由との整合性が問われた秘密情報保護法や、集団的自衛権行使と憲法9条の解釈が問われた安全保障法制(平和安全法制)など、それまでタブー視されてきたテーマに切り込み、その度に賛成派と反対派双方のデモ行進が行われるなど、国民それぞれの憲法観の違いも浮き立たせました。
●国会で「違憲」表明した小林氏は参院選出馬へ
安保法制の法案審議が行われていた2015年6月4日。衆院憲法審査会に参考人として招致された憲法学者の小林節氏は、集団的自衛権の行使を容認する安保法制について「違憲」と表明しました。改憲派と見られていた小林氏ら憲法学者の否定的な見解は法制化に反対する人々を勢いづけ、国会周辺でシュプレヒコールをあげる人々が増えました。
衆院憲法審査会で違憲表明する小林節氏(2015年6月4日、衆議院インターネット審議中継【https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=44973&media_type=fp】より)
小林氏は2016年5月、政治団体「国民怒りの声」を立ち上げ、参院選に出馬すると表明しました。安倍政権との対決姿勢を明確にしていますが、候補者調整を模索する一部野党からは「政権批判票が割れてしまう」と懸念の声が出ています。反安倍政権で一致し選挙協力を模索する民進や共産、社民、生活の各党も、憲法改正の立場は消極的賛成から積極的反対まで異なり、政策面での足並みは一致しません。
●自民党は憲法改正が党是
憲法観の異なる野党に対し、自民党は1955年の結党時から憲法改正を党是としてきました。戦後政治の大部分を政権政党として過ごしてきましたが、戦争放棄を謳う憲法9条を中心に、改憲論に対する国民の警戒心は強く、戦後70年で1度も改正法案が提出されたことはありません。
議論自体がタブーという空気に変化をもたらしたのが、1991年の湾岸戦争です。日本は多国籍軍に参加せず、巨額の財政援助だけを行い、国際社会から冷笑されました。2003年3月にイラク戦争が始まると、同年12月から復興支援と安全確保支援のため自衛隊がイラクに派遣されましたが、他国の支援部隊がたとえ攻撃を受けた場合でも応戦できないなど、またしても憲法上の制約に直面。時代の要請にあった新たな憲法の必要性が語られ始めました。
●ドイツでは59回改正
G7各国では不文憲法のイギリスを除く5か国全てが憲法改正をしています。59回改正しているドイツを筆頭に各国とも複数回行っています。アジア太平洋の地域では、オーストラリアが5回、中国は9回、韓国は9回行っています。
●主要国の憲法改正数
読売新聞は1994年と2000年、2004年の3回にわたり憲法改正試案を発表し、改正論議は次第に熱を帯びます。衆参両院では2000年から憲法調査会を設置。2007年からは憲法審査会となり、憲法改正原案について継続的に審査を行っています。他方、第1次安倍政権の2007年には国民投票法が成立し、憲法改正に必要な具体的手続きが定められました。
この法律で、国民投票の投票権を18歳以上と定めたことをきっかけに選挙権年齢の引き下げ議論が始まり、今回から導入される18歳選挙権に結実しました。
●安倍首相の本当の狙いは「改憲派で3分の2以上」?
憲法改正には、衆議院と参議院それぞれで総議員の3分の2以上を確保し、国民投票で過半数を得るという3つの大きな壁があります。現在、衆院では発議に必要な議席を自公で確保している安倍政権ですが、参院では146議席で、3分の2(162議席)に及びません。
安倍首相としては残り任期から逆算して、今回の選挙で改憲に前向きなおおさか維新や日本のこころを含む賛成議員を1人でも多く確保したいのが本音といえます。自公だけなら改選で86議席も必要となりますが、改憲に賛成する野党の非改選議席を差し引くとこのハードルは78議席となり、賛成議員全体でこの議席を確保するのは、さほど困難な数字ではなくなります。
衆院で3分の2以上、参院で3分の2以上の賛成を得て発議されると、法案は国民投票にかけられます。これが3つ目の最も大きな壁です。国民投票で有効投票の過半数が賛成して初めて改正されます。
●世論は賛否が拮抗
選挙情報サイト「政治山」が5月に実施した世論調査(https://seijiyama.jp/research/click/cr20160513.html)では、改正に賛成が53.3%で、反対の44.0%を上回りました。ただ、報道機関によっては反対が過半数という調査結果も出ており、世論は拮抗している状態といえそうです。
情報提供元:政治山 by PIPED BITS