「驚安の殿堂」ドン・キホーテ快進撃のヒミツ

2018年8月23日更新

ドンキホーテホールディングス(HD)が今期売上高1兆円の大台に到達する見込みです。計画通り進めば、現在上場している小売業では国内第7位になるのだとか。快進撃を続けるドン・キホーテの秘密を探ります。

売上高1兆円超えへ! 勢いに乗るドンキ

1年前倒しで売上高1兆円突破へ

大原社長「将来的には売上は2兆円目指す」

2018年8月13日に、ドンキホーテHDの大原孝治社長兼CEO(最高経営責任者)は次のように語っています。

29期連続増収増益を前期で達成し、2020年をターゲットにしていた売り上げ1兆円の大台も、1年前倒しで来年の2019年6月期に到達する見込みだ。
大原氏は、「将来的には売り上げは2兆円を目指したいし、売り上げ以上に重視しているのが営業利益で、営業利益では1000億円をターゲットにしたい」としていた。前期は売り上げが9415億円、営業利益が515億円、今期は売り上げ1兆円、営業利益で530億円を見込んでいる。

営業利益の規模は6位、売上高では7位に

営業利益の規模は百貨店首位のJ.フロントリテイリング(495億円=18年2月期)を上回り、上場している小売業ではローソン(658億円=18年2月期)に次ぎ第6位だ。

今期(2019年6月期)の業績が売上高1兆円を超えれば、イオン、セブン&アイHD、ファーストリテイリング、ヤマダ電機、ユニー・ファミリーマートHD、三越伊勢丹HDの6社に次ぎ国内第7位になると伝える記事もありました。

渋谷で地上28階建ての大型複合ビルを開発

東京・渋谷区道玄坂の文化村通りに面した敷地に

ドンキホーテHDは同日、東京・渋谷区道玄坂の旧ドン・キホーテ渋谷店跡地周辺で大型複合ビルを開発すると発表した。2019年1月に着工し、2022年4月に竣工の予定。文化村通りに面した約5700万平方メートルの敷地に地下1階、地上28階建て延べ約4万1000平方メートルのビルを建てる。高さは120メートル。1~3階に店舗、4~10階にオフィス、11~28階はホテルが入居する予定だ。

さらなる拡大を続けるドン・キホーテ

西友が売却されるなら…大原社長「興味はある」

ドンキホーテホールディングス(HD)の大原孝治社長が質疑応答の中で、「西友が売却されるかもしれないことに対してどう思うか」との問いに、「マスコミ報道通りで、もし本当に売却があるのなら」と前置きしたうえで「興味はある」と明言したのだ。
さらに、「不動産がなければ小売業は成り立たず、(西友には)いまでは手に入らないような立地が多数あり、(売却ならば)細かく精査したい」と踏み込んだ発言までした。この手の質問には「仮定の話にはお答えできない」と煙に巻く回答をするケースが多いだけに余計、ドンキホーテHDの“本気度”が窺えた。

スーパーとの提携・転換の経験が豊富なドンキ

ドンキホーテHDは、撤退した総合スーパー(GMS)の居抜き物件に出店するなどして店舗網を拡充してきており、物件に合わせた複数の出店フォーマットを有している。
まず2007年に長崎屋を買収し、一定数の店舗を「MEGAドン・キホーテ」の業態に転換している。さらに2017の8月にはユニー・ファミリーマートホールディングスとの提携を発表し、ユニーに40%出資している。
その後、ユニー6店舗を「MEGAドン・キホーテUNY」に転換し、業態転換前に比べて売り上げで90%増、客数で70%増、粗利で60%増を記録し、「長崎屋では1店あたり3回も4回も改装を重ねて手探りだったが、ユニーの転換店は長崎屋よりもはるかに手応えを感じている」(大原氏)と自信を示した。

ファミマとドンキが今年行った共同実験の結果は?

都内3店舗で行った実験結果は「全体の売上高が約1.5倍」

実験は、6月1日から目黒区の「ファミリーマート大鳥神社前店」と東京都立川市の「ファミリーマート立川南通店」、6月29日から世田谷区の「ファミリーマート世田谷鎌田3丁目店」の合計3店舗で開始した。
商品をうず高く積む「圧縮陳列」など、ドン・キホーテのノウハウを採用したほか、多数のドンキの商品を含め、取扱商品を従来比で約1.5~1.7倍にした。
開始から1カ月経過した2店舗の平均で客数は約1.3倍に増加。品揃えを強化した酒類の売り上げが約1.5倍、ドンキで売れ筋の携帯関連グッズや靴下などの日用品も約2倍に伸長し、全体の売上高が約1.5倍に増加したという。

実験店舗の店内と来店客の様子は?

実際に店を訪れてみると、ドン・キホーテとのコラボ店だからと、遠方から目指して来る人が多く、通常のコンビニでは置いていない激安商品をまとめ買いする顧客が目立った。1人あたりの購入量が多いので、売上が増えている。店の中を一通り見て回るので、顧客の滞在時間も長くなっている。おにぎりとお茶だけ買って帰る人のほうが少ない。

大型POPなど「ドンキ流」の売り場づくり

取扱商品数は約5000で、改装前に比べて1.5倍に増加。商品の半数超がドンキの取扱商品で、菓子や酒類の充実が目立つ。大型POP(店内掲示)や吊り下げ陳列など、ドンキ流の売り場作りを取り入れた。

店内のPOPや陳列など、ドン・キホーテ流の売り場づくりについては次のブロックで詳しくご紹介します。

ドンキ流の売り場を見て「何これ、すごい!」

「子供たちが一目散にゲームコーナーに駆け寄って母親におねだりしたり、“何これ、すごい!”と話すカップルの声が聞こえたり、皆さん驚きと珍しさを持って、楽しそうに店内をご覧になっていました」(ユニー・ファミリーマートホールディングス広報部)
いつものコンビニなら目的の棚に向かって一直線。だがこのお店は、「回っているとつい衝動買いしたくなる楽しさがある」(買い物に来ていた主婦)。掘り出し物を見つけるように買い物できる楽しさが満載だった。

これまでの成長ぶりと業績好調の6つのヒミツ

ドン・キホーテの秘密その1:「圧縮陳列」

小売業界のセオリーに反した陳列手法

圧縮陳列とは、商品を天井に届きそうなくらい高く、そして高密度に陳列する手法だ。小売業界では、商品を整理整頓し、どこに何があるのかお客が分かりやすいように陳列するのがセオリーだが、それとは真逆の手法となる。商品の量でお客を圧倒するだけでなく、掘り出し物がないかどうか自分で探す楽しみも提供できる。

「圧縮陳列」で作り出される店内の“迷路”

ドンキの店舗には10万点もの商品が売られているが、この数は大型スーパー並みだ。膨大な量の商品が、迷路のような店内で、「圧縮陳列」といわれる“カオス”な手法で売られている。店内を歩いていると、何か商品を買わずにいられなくなる。

ドン・キホーテの秘密その2:「POP洪水」

手書きのPOPで競争力を向上

POP洪水とは、手書きのPOPをあちこちに貼り付けることで、お客の購買意欲を刺激するものだ。ドンキの店舗には「POP職人」と呼ばれる従業員がおり、特徴的なPOPを店舗で手書きしている。ドンキに限らず、勢いのある小売りチェーンはPOPの作成に力を注いでいる。例えば、ヨドバシカメラではメーカーから提供された試供品やポスターに加え、商品の特徴を伝えるPOPを各店舗で従業員が作成することで、売り場の競争力を向上させている。

ドン・キホーテの秘密その3:「スポット仕入れ」

季節商品の売れ残りなどを安価で仕入れた商品

店の入り口周辺にドンキが得意の“スポット仕入れ(季節商品の売れ残りや廃盤品を安価で仕入れる手法)”による格安商品を並べ、1~2階での買い物も促す狙いだ。

圧倒的な安値で販売する

ドンキはメーカーから「季節外れ」「流行遅れ」となった化粧品や日用品などを「スポット商品」として安く仕入れ、圧倒的な安値で販売し、競合のドラッグストアなどから利用客を奪ってきた。

「スポット仕入れ」「スポット商品」とはドン・キホーテの社内用語。季節外れや流行遅れになった処分品を安く仕入れられるので、定期仕入れ品よりも粗利益が多く取れるのだそうです。

ドン・キホーテの秘密その4:「居抜き出店」

他の店舗が撤退した建物跡に店を構える「お家芸」

急成長の大きなカギとなっているのが「居抜き出店」だ。
「居抜き出店」とは、他の店舗が撤退した建物跡にそのまま店を構えること。店舗によっては照明、昇降機などの内装設備や一部の什器をそのまま活用するため、建物を新築するよりも安い費用で店舗を拡大できるメリットがあり、雨後のタケノコのように店舗網を拡大させているドンキの「お家芸」ともいえる。

記事では、よく見かけるスーパー跡や家電量販店跡の居抜き出店だけでなく、パチンコ店跡、書店跡、CD店跡、さらには大手銀行跡や有名建築家・安藤忠雄の設計したファッションビル跡などにも出店していると紹介されています。

ドン・キホーテの秘密その5:「権限移譲」

各店舗の責任者が仕入れから売り場づくりまで行う

ドンキの競争力を支えているのは「権限移譲」だ。これは、一般的な小売りチェーンの本部が商品を一括して仕入れたり、各店舗で販売する商品の価格を指定するのとは違い、各店舗の責任者に仕入れ、陳列、値付け、売り場づくりなどを任せるシステムだ。権限移譲によって、各地域のニーズにあわせたきめ細かい品ぞろえが実現できるだけでなく、現場のモチベーションアップといった効果が見込める。

「権限移譲」は全体の4割

仕入れの品目や数量もかなり現場に権限が移譲されており、店舗独自の仕入れは全体の4割にものぼる。
現場の従業員に「なぜこれを仕入れたのですか」と聞くと、明確な答えが返ってくる。さらに、自分の責任で仕入れた商品が売れなかった場合は、自らが他店に引き取り交渉をする“徹底”ぶりだ。

ドン・キホーテの秘密その6:「ナイトマーケット」

「ナイトマーケット」のお客が発展の下支え

ドンキの発展を支えたのは「ナイトマーケット」のお客だ。一般的には、夕方から真夜中にかけて営業する屋台や露店のことを指すのだが、ドンキは深夜まで営業することで仕事帰りのビジネスパーソンや夜遊びをする若者などを引き寄せた。ナイトマーケットのお客は、“しらふ”の状態で買い物をする日中のお客とは違い、アルコールが入っていたり、夜遊びをしていることで得られる独特の高揚感を抱いたりしている。そのお客に向けた独自の品ぞろえをすることで、新しい需要を掘り起こしてきたのだ。

深夜の営業がインバウンド需要に合致

夜間市場が、インバウンド需要を取り込むまでになった。
外国人旅行者たちは、深夜営業の店舗にどんどん吸い寄せられる。それはまるで誘蛾灯にむらがる蛾のようでもある。外国人旅行者たちにとっては、夕食後が遊びの本番であるにもかかわらず、開いている店舗は飲食店しかない。
2014年の新免税制度開始以降、免税対象品が大幅に拡大しており、日本にやってくる外国人旅行者の半数はドンキを訪れるとさえいわれる。

ドン・キホーテの好調を支えるその他の理由は?

4K液晶テレビや炊飯器まで プライベートブランド商品

同社は、非食品領域=日用品雑貨類の強化を続けている。4Kテレビ、タブレット、PCなどの黒物家電から、炊飯器やドライヤーといった白物家電まで、激安プライベートブランド(PB)商品が有名だ。それ以外には、寝具、衣料品も扱っている。さらに近年では、100円ショップならぬ、99円雑貨にまで手を広げている。

2017年6月発売のテレビが「ドンキ4K」として話題に

流通コンサルタントの月泉博氏はドン・キホーテのプライベートブランドで発売されたテレビについてこのように語っています。

6万円を切る50インチの4Kテレビを販売。初回出荷台数の3000台がわずか1週間で完売して大きな話題となったが、それもドンキのPB家電だ。
「東芝の『レグザ』に使われている受信システムを採用しているので品質は折り紙付きなのですが、最新モデルのレグザより機能が若干落ちるため、この価格で開発できたのです。
 お客さんにとっては、たとえ型落ちでも4Kテレビの画質が6万円以下で堪能できれば問題ないと思っている人が多いから、ここまで反響があったのでしょう。ドンキはこうした消費者の潜在的なニーズを巧みに汲み取って、他の量販店やメーカーが作らないようなPBで差別化を図っているのです」

外国通貨で買い物ができる

ドン・キホーテは海外からのお客さんが多いからか、なんと外国通貨でも買い物をすることができるようになっています。米ドル、ユーロ、人民元、韓国ウォン、タイバーツ、香港ドル、台湾ドルなど、主要な通貨はたいてい使用可能で、しかもお釣りは日本円で返ってくるという非常に便利なシステムなのです。

2018年8月現在、使える通貨は7通貨。ただし紙幣のみで、コインは使えないそうです。

「3分の1ルール」を無視して販売

日本の食品小売業には慣例がある。それは「3分の1ルール」と呼ばれるもので、賞味期限が残り3分の1を経過したものは販売しないというものだ。しかし、ドンキはそのルールを無視して商品を販売し、成功した。

まだまだある、ドンキの秘密

抹茶味のキットカットが日本で一番売れているのはドンキ

店舗数も年商も勝る流通チェーンより販売額が大きい

抹茶味の「キットカット」が一番売れている小売店は、ドン・キホーテ。店舗数で見れば、同社の流通業界の中での立ち位置は中堅と言っていいだろう。店舗数も年商も、大手流通チェーンがはるかに上回る。だが、「キットカット」の抹茶味の販売額は、ドン・キホーテが最大。この流れはここ数年、続いている。
ドン・キホーテで「キットカット」の売上を支えるのは、訪日外国人だ。

あのペンギンのキャラクターの名前は?

名前は「ドンペン」 一般社員がデザイン

ドン・キホーテの公式イメージキャラクターはペンギンを模した「ドンペン」ですが、こちらをデザインしたのはイラストレーターでもデザイナーでもなく、なんと一般社員なのです。
もともとは手描きのポップに描かれた落書きレベルのイラストだったのですが、評判が良かったことから使用頻度が増え、あっという間に公式マスコットキャラクターへと成り上がったのでした。

ドンペンの公式Instagramアカウントによると「1998年に店舗のPOPライターによって生み出されたマスコットキャラクター」とあります。ちなみにドンペンは南極生まれ東京育ちで、ドンペンと一緒にいるピンク色のペンギンは「ドンコ」という名前だそうですよ。

「ドンドンドン、ドンキ~♪」店内で流れる歌は誰の歌?

作詞・作曲・歌すべて一般社員によるもの

実はこの曲を作詞作曲し、実際に歌っているのもドン・キホーテの一般社員の田中マイミさん。とは言っても音楽の素人だったわけではなく、もともとミュージシャンとして活動をしていたためで、田中さんが「テーマソングを作ってみては」と会社に提案した際に、ミュージシャンなのだから自分で作ってみては?と逆提案されたことにより、実際に曲が制作されたそうです。

英語・韓国語・中国語バージョンが存在する

ドン・キホーテのテーマソング『ミラクルショッピング』には外国語バージョンも存在します。現在確認されているのは英語、韓国語、中国語バージョン。外国人客の利用が多い店舗では外国語バージョンも流されることがあるのでぜひ耳を傾けてみてください。

大阪に観覧車に乗れる店舗がある!?

ドンキの観覧車は通称「えびすタワー」

2005年にオープンした「ドン・キホーテ道頓堀店」のシンボルである道頓堀大観覧車、通称『えびすタワー』は、建物の形状に沿った長円形の空中遊覧設備で、座席が水平回転する観覧車です。本年1月に、お客さまからのご要望を受け、約9年ぶりに運転を復活させました。

VRゴーグルを装着して「えびすタワー」に乗ると…?

ドン・キホーテは8月1日、「ドン・キホーテ道頓堀店(大阪市)」に設置している観覧車「えびすタワー」に、新コンテンツである「360°VR(バーチャルリアリティー)動画」を導入する。通常のゴンドラ料金は600円だが、VRゴーグルを着用する際には1600円になる。
えびすタワーの乗客はVRゴーグルを装着することで、ゴンドラの外で空中浮遊しているかのような体験ができるだけでなく、戎橋や飲食店の看板などがはっきり見えるようにもなる。さらに、乗る時間を問わず、晴れた日の観覧車からの風景を楽しめる内容になっている。

POPは専業スタッフが手描きしている

POPの独特の書体は「ドンキ文字」

ドン・キホーテでPOPライター歴14年という伊藤雅子さんは次のように話しています。

入社したばかりの人は、見本を見ながら練習します。文字や数字の書き方、書き順は独自のルールがあるんですよ。弊社のPOPは丸みのある文字が特徴ですが、あの書体、私たちは「ドンキ文字」と呼んでいるんです。まずはそのドンキ文字を書けるようになることが基本ですね。

POPは鮮度を保つため使い捨てしている

鮮度を保つため、店内のPOPは使い捨てなんですよ。大型のものなどはまれに保管しておくこともありますが、書かれているキャッチコピーなどにはその時の旬の言葉が反映されていて、少しでも時期がズレるとお客さまの心に響かないものになってしまうので、使い捨てにして鮮度をキープしていますね。それだけ会社はPOPを重要なものと考えていて、経費をかけています。