特集2017年8月14日更新

藤井四段で注目度増!「将棋めし」ってなんだ?

前人未到の29連勝で一躍時の人となった藤井聡太四段。その人柄や持ち物だけではなく、対局中に注文する出前のメニューが毎回報道されたのも記憶に新しいところです。以前から将棋ファンの間では棋士が注文する食事やおやつのメニューがしばしば話題になっていました。対局中の食事メニューを題材にしたドラマも始まる中、『将棋めし』についてまとめました。

目次

将棋をテーマにしたドラマ「将棋めし」がスタート

「将棋と食事」はテーマの同名漫画を原作にしたドラマが、8月2日からフジテレビ系でスタートしました。

原作は、『盤上の詰みと罰』でも知られる松本渚さんが『月刊コミックフラッパー』(KADOKAWA)で連載中。棋士たちが対局の合間に食べる食事を題材にした作品で、女性プロ棋士・峠(とうげ)なゆたが食事とおやつに何を食べるか悩み、食事から勝機をつかみ、男性棋士たちを倒し名人を目指す物語です。
最近では、藤井聡太四段が対局中に食べる「将棋めし」が話題になり、同じものを是非食べたいとお店に行列が出来る社会現象まで起きていますが、勝負飯が出てくるこちらのドラマは放送時間が深夜26時40分(午前2時40分)からということもあり、今から「飯テロドラマ」としても期待されています。

こちらは、コミック版「将棋めし」のいち場面。主人公の女性棋士、峠なゆたがお昼休憩中、お寿司のネタを将棋の駒に例えて食べる順番を考えるシーン。これが休憩後の勝敗に影響する、重要なシーンだったりします。

こちら「将棋めし」のコミックス第1巻。第2巻も8月23日に発売予定のようです。

藤井聡太四段で一気に注目された「将棋めし」

デビューからの連勝記録で大きな注目を浴びた藤井聡太四段。記録のかかった彼の対局はテレビやネットで中継され、多くの視聴者が観戦しました。中には普段将棋を見ないという人も少なくなかったため、食事休憩があることに「試合中にご飯食べるんだ!」と驚きの声も上がっていました。

5月25日 チャーシューメン/ほそ島や

「5月25日に、19連勝目となった竜王ランキング戦の取材をしていたのですが、夕食休憩で藤井四段がチャーシューメンの出前を頼みました。夕食時、せっかくだからと店に行って同じものを注文しようとしたら、同様のことを考えたファンがたくさんいて売り切れになっていたんです」
藤井四段が注文したのは東京・千駄ヶ谷の将棋会館にほど近いそば屋「ほそ島や」のチャーシューメン。同店店主・細谷千恵子さんは、「そば屋なのでもともとあまりラーメンのスープは用意していなくて品切れになることは少なくないのですが、藤井さんに頼んでもらってからの数日間は特にチャーシューメンの注文が増えました。どんどん勝ってほしい」と話す。

6月15日 ぶっかけそばといなり寿司/小雀弥

「藤井四段は無類の麺好きで知られています。この対局の前に食べたのは、大阪市福島区にあるそば・うどん店の『小雀弥』の『胡麻味噌とじうどん』。会館近くにあり、師匠の杉本昌隆七段に“あそこはうまいからぜひ食べたほうがいい”と言われて行ったそうです。藤井四段は6月15日の対局でも、ここのぶっかけそばといなり寿司のセットを食べたそうですよ」(スポーツ紙記者)

6月21日 胡麻味噌とじうどん/小雀弥

「胡麻味噌とじうどん」は豚肉や白菜、卵などが入っており、坦々麺のように辛みのあるスープが特徴。藤井四段はこれを食べて身体が熱くなったのか、昼休憩明けにはジャケットを脱いで対局に臨んでいた。

6月26日 豚キムチうどん/みろく庵

前人未踏の大記録、29連勝を打ち立てた将棋の藤井聡太四段。プロデビューから無敗を続ける14歳の活躍に、将棋界はもとより日本全国が注目している。2017年6月26日、29連勝を決めた竜王戦の決勝トーナメント・増田康宏四段との対局では、昼食に注文した「豚キムチうどん」にネット上がざわめいた。

7月2日 冷やし中華大盛り/みろく庵

将棋会館の周囲では、“勝負メシ”の注文の行方にも世間の関心が集まった。創業以来35年、棋士に出前を届けるそば屋「みろく庵」は、藤井が勝負どころで出前を頼んだため、“聖地巡礼”の客でごった返したという。同店の店員が語る。
「すごかったのは、7月2日の30戦目。店内は40席ですが、お昼だけで500人はいらっしゃって‥‥」
やはり一番人気は藤井が注文したメニュー。その日、藤井が頼んだ昼食は「冷やし中華大盛」だった。
「ふだんは日に10食も出ないんですけど、その日は50食以上。それ以上に人気なのは29勝目の対局で食べた『豚キムチうどん』でしたね」(前出・みろく庵の店員)

ちなみにこの対局で藤井四段を破り、連勝記録をストップさせた佐々木勇気五段は「肉豆腐定食もち入り」を注文、こちらもファンの間で話題になりましたが、実はこの「餅入り」、棋士や将棋ファンにはおなじみのトッピングらしいです。最近では三浦九段が「味噌汁に餅」という新手を開発(?)したそうです。

「将棋めし」にもこの「肉豆腐定食餅入り」が登場していたりします。

以前から将棋ファンのひそかな楽しみだった「将棋めし」

なぜ食事やおやつが話題になるのか

「対局中なのに食事ばかり報道するのはおかしい」「将棋がわからないから食事ばかり報道しているのでは」というような、批判的な意見もSNSでは多く見られましたが、対局中の食事の報道は、今回の藤井聡太四段に限ったことではなく、以前から行われていました。

「食事の紹介を始めたのは、00年代はじめにネット中継の黎明期を支えた将棋観戦記者の松本博文氏が考え出したといいます。ネット中継でどう将棋の魅力を伝えるかを試行錯誤する中で、ただ、面白いだろうと思い、伝え続けたそうです。ネット中継で、将棋のわからない人でも楽しめる『観る将』ブームを作った功労者と言えるでしょう」(前出・週刊誌記者)

すでに1930年代から食事についての報道はあったようです。鉄火丼を頼んだ棋士が、わさびが効きすぎていて涙をこぼした様子も描かれているなど、なかなかユーモアに溢れた記事で、今読んでも面白いです。

棋士がどんなものを食べているのかは、ファンであれば気になるところでしょうし、食事の注文にも棋士の個性があらわれますし、そこにも駆け引きがあるとか。食事も対局のうちと考えると、報道しないわけにはいきませんね。

おやつを摂る棋士は多い

頭をフル回転させるため、糖分を欲するのか、皆さんチョコレートやチーズなどのおやつを常備しているようです。下記は佐藤天彦名人のコメント。

対局中に甘いものを摂(と)ることもあります。糖分は脳の働きをよくするので、フルーツジュースをよく飲みます。以前はカバンの中にチョコレートを常備して、対局のたびに少しずつ口にしていました。

そもそも、おやつを食べてもいいの?

囲碁や将棋の世界では、次の一手を必死に考えている最中であろうと、食事やおやつを注文したり、食べたりするのが許可されているんです。
一般的に脳を使うと糖分をどんどん消費すると言われていますが、こうしたことが棋士の世界でも起こっているのでしょうか。たとえば対局中、うな重などの食事と一緒に、デザートとしてパパイヤマンゴーなどのデザートをセットに必ず頼む人もいるようですが、それでも終盤、糖分が減少してお腹がグーグーなる人も珍しくないそうです。

なぜ出前が多いの?

「去年対局時の外出が禁じられたため、基本的に出前が多くなっています。
東京の場合、基本的に千駄ヶ谷の将棋会館近くの『みろく庵(和食)』『ほそ島や(そば)』『千寿司』『ふじもと(うなぎ)』『紫金飯店(中華)』からのチョイスのようです。なかには出前をとらず、買ったものを持ち込む棋士や、愛妻弁当を食べる棋士もいるとか。
タイトル戦の場合は、対局場のホテルや旅館が用意したメニューの中から、選択することになります」

どんなものを食べるの?

タイトル戦は、午後3時に対局者が注文したスイーツが運ばれ、将棋盤の前で食べることが一般的。渡辺明竜王はケーキが好きで、凄いスピードで食べることが多い。
それ以外の場合は、棋士自らが持ち込みます。チョコレートなどが一般的ですが、珍しいところでは加藤一二三九段のチーズ、丸山忠久九段のカロリーメイトなどがあります。

『めし』だけじゃない!有名棋士の『将棋スイーツ』伝説

羽生善治三冠

「大事なタイトル戦でのこと。羽生三冠はおやつにアイスクリームを頼んだのに、まったく手をつけないから溶けだしてくる。対局相手はそれが気になってしょうがなく、動揺してしまい、結局、勝負は羽生三冠の勝ち。ちなみに溶けてバニラジュースのようになったアイスを、ごくごく飲み干したそうです」

加藤一二三九段

対局中ケーキを3個注文し、手づかみで完食したエピソードを披露し、相手が「3つ目は自分にくれるものだと思っていたらしい」とコメントし笑いを誘った。

藤井聡太四段とのおやつに関するエピソード

加藤九段は昨年12月の対局を振り返り、エピソードとともに感心した点を2つ挙げた。ひとつは、おやつの時間に加藤九段がチーズに口をつけたのを確認してから藤井四段がチョコレートを食べ始めたこと。
「藤井四段が先に食べても全くマナー違反じゃないし、失礼でもないんですけども、藤井四段は私がチーズを食べ始めたのを待っておやつを食べ始めたことに好感を持ちました。藤井四段は先輩に対する気遣いができてるなと思って感心しました」
長時間にわたって脳をフル稼働させる将棋には、エネルギー源となる糖分の補給が欠かせない。藤井が対局に持ち込んでいた“おやつ”が不二家の「LOOKチョコレート」だ。報道陣からそのことを知らされた同社の対応はこうだ。
「注目していただけた御礼にと、弊社社長名でお手紙を添えて、関西将棋会館に『LOOK』を贈らせていただきました。同商品は今年が発売55周年でキャンペーン中なのですが、ありがたいことに相乗効果で売り上げは昨年よりも伸びています」(広報担当者)
「対局中にチョコをたくさん食べることで有名な加藤一二三九段は、この話を聞いて『なぜ僕には何も送られてこないんだろう』と不思議そうな顔をしたそうです」(将棋観戦記者)

三浦弘行九段

上の藤井四段のところでも少し触れた、「肉豆腐定食味噌汁に餅入り」の考案者(?)が三浦九段です。

(1)餅入り味噌汁
将棋棋士の三浦弘行九段が昼食に注文したことで話題になった「餅入り味噌汁」。将棋ファンのあいだで密かな話題となり、実際に食べてみる人も登場。雑煮のような感覚で、おいしいとのこと。
棋士御用達の店千駄ヶ谷「みろく庵」では、味噌汁に餅をトッピングするよう注文しても怪訝そうな顔をされず、快く応じてくれるらしい。

森内俊之九段

プロ棋士・羽生善治氏との闘いの際に森内俊之名人が注文して食べた「喜多方ラーメンプリン」は“変わったスイーツ”としていまも語りぐさになっているそうです。

長時間頭をフル回転させるためとは言え、棋士の皆さんの食欲は凄まじいものがありますね。それだけのエネルギーが盤上で消費されていると思うと、将棋を見る目も変わりそうです。「将棋自体がわからないから食事ばかり報道される」という意見もあるようですが、棋士たちの注文するメニューに対局の状況や人間模様を見て楽しむファンも多いようです。将棋専用メニューというわけではなく、一般人も注文できるものばかりですから、近くに行った時はぜひ、『将棋めし』を堪能してみては?