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焦点:英介護ビジネス「無法状態」、外国人労働者の搾取横行

ロイター / 2024年3月12日 18時40分

 インドの会社で管理職をしていた2児の母親マヤさんは、英国で介護士として働ける機会があると聞き、海外で経験を積み、送金もできると飛びついた。ところが、実際の職場で彼女も同僚も奴隷のような扱いを受け、今は多額の借金を背負っている。写真はロンドンの街並み。2023年7月撮影(2024年 ロイター/Yann Tessier)

Emma Batha

[ロンドン 11日 トムソン・ロイター財団] - インドの会社で管理職をしていた2児の母親マヤさんは、英国で介護士として働ける機会があると聞き、海外で経験を積み、送金もできると飛びついた。ところが、実際の職場で彼女も同僚も奴隷のような扱いを受け、今は多額の借金を背負っている。

英国は新型コロナウイルスの流行と欧州連合(EU)離脱後に介護職で生じた16万5000人の人手不足を補うために、2022年初めに新たなビザ(査証)ルートを創設。制度導入後、マヤさんのように英国で介護士として働くことを希望する外国人出稼ぎ労働者約14万人がビザを取得し、主にインド、ジンバブエ、ナイジェリアからやってきた。

しかし、制度が導入されてから搾取の報告が急増。介護業界は「無法状態だった開拓時代の米西部そのもの」と指摘する専門家もいるほどだ。

マヤさんや他の外国人出稼ぎ介護士によると、イングランド北部の介護サービス会社で仕事に就くためにインドの仲介業者に数千ポンドを支払ったが、わずかな賃金で長時間労働を強いられた。解雇されれば在留資格を失い、強制送還される恐れがあるため、不満を口にすることはできなかったという。

「インドに戻ることも考えたけれど、これほどの借金を抱えて生きていくことはできない。私たちは追い詰められている」とマヤさん。渡英のために自宅を担保に銀行から融資を受け、親戚からも借金をしている。

介護事業者団体ホームケア協会のジェーン・タウンソン最高経営責任者(CEO)は、倫理観を欠いた事業者に強い懸念を抱いていると述べた。出稼ぎ介護士が多額の詐欺に遭ったり、「ゴキブリがはびこるような粗末な住宅」に住まわされたりしたという事例があるという。

英国で仕事があると言われたのに到着したら仕事がなかった、雇用主が倒産した、契約が解除されたケースもある。

<現代の奴隷制度>

強制労働などを取り締まる英政府の部局は昨年、介護事業者に対して44件の調査を実施したと発表した。これは前年の2倍。20年はわずか1件だった。

慈善団体アンシーンの推計によると、電話やインターネットによる相談窓口に昨年寄せられた相談から、介護セクターにおける強制労働の被害者は少なくとも800人に上り、21年の63人から大幅に増加した。

公共サービス労組ユニゾンは、多くの介護士が強制送還を恐れて虐待を報告しなかったり、どこに助けを求めればいいのかわからなかったりするため、実際の数字はもっと多いはずだとみている。ユニゾンのガビン・エドワーズ氏は、介護セクターにおける深刻な資金不足と利益優先体質により事態は悪化の一途をたどっていると指摘した。

<高額な手数料>

マヤさんは22年4月にインド南部の都市コチのリシン・スタンリーというインド人仲介業者に身元保証人探しを依頼。その際に計1万ポンド(1万2810ドル)余りの支払いを求められた。英国に到着後、保証料は雇用主の負担だと知りショックを受けた。

外国人を雇用する企業は、許可証や保証証明書などについて労働者1人当たり最大5000ポンドを負担するが、こうした費用を被雇用者に転嫁することはできない。

出稼ぎ介護士らは費用の一部を仲介業者に支払ったが、最大5000ポンドを身元保証サービス会社イース・ヘルスケアの銀行口座に振り込むよう求められた。

トムソン・ロイター財団がイース・ヘルスケアとスタンリー氏との間で交わされた文書を入手したところ、スタンリー氏はIMTPという企業で働いていると書かれていた。

しかしスタンリー氏は出稼ぎ介護士の就労への関与を否定。IMTPのウェブサイトに地域代表として名前が掲載されているにもかかわらず、イース・ヘルスケアもIMTPも知らないと証言した。

<低い報酬、厳しい労働>

自治体に職員を派遣しているイース・ヘルスケアは、高齢者や障害者、病人を自宅で介助する家庭介護員としてマヤさんたちを派遣した。求人資料には週39時間労働で年俸は2万0480ポンドと記されていたが、これは22年の外国人出稼ぎ介護士の最低賃金だ。

証言によると、朝7時から夜遅くまで働き、寝る時間はほとんどなかった。また在宅介護ではよくあることだが、報酬は実際に行ったサービスに対してのみ支払われるため、労働時間は週39時間には満たなかった。ただ常時働いているわけではないとはいえ、いつでも仕事に入れる態勢でいる必要があった。

出稼ぎ介護士はアプリで勤務時間を管理されたが、しばしば記録が改ざんされ、全ての勤務に対して賃金が支払われるわけではなかったという。

やはり海外から出稼ぎにきて介護士として働くディーパさんは「インドにいるときには英国には搾取や奴隷制度はないと思っていた。規則や規制があるから安全だと思っていた」と述べた。

イース・ヘルスケアの幹部は出稼ぎ労働者の証言を全面的に否定。待遇は適正で、労働時間の管理にも問題はなかったと述べた。

<内部告発を恐れて>

トムソン・ロイター財団がマヤさんやディーパさん、他の3人の介護士に初めて取材したのは23年半ば。しかしマヤさんらは新しい保証人を見つけるまで報道を控えるよう求めていた。

専門家によると、出稼ぎの介護士はビザや雇用、仕事の紹介を保証人に頼っているため、内部告発は難しい。

マヤさんは今、別の都市にある介護施設に就職したが、2万6000ポンドの借金を返済するために最長で週72時間働いている。

「英国に来れば素敵な生活ができると思っていたのに、ただ生き延びるために何度も借金をしなければならなかった。こんなに大変だと前もって知っていたら、絶対に来なかった」と、悔しさをにじませた。

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