【全文掲載】「マリウポリの20日間」監督が命を賭けて取材を敢行した理由を明かす 5800字超の声明文公開
映画.com / 2024年4月26日 11時0分
その回線も3月3日には途絶えてしまい、病院の7階の窓から動画を送信しようとしているとき、そこから、マリウポリという堅実な中産階級の都市の最後の断片が砕け散る様子を目にしました。
ポート・シティのスーパーが侵攻を受けていることを聞きつけ、砲撃や機関銃の銃声の中、我々はそこへ向かいました。数十人もの人々が、電化製品や食料、衣類を満載したショッピングカートを押して走っていました。そのスーパーの屋根で砲弾が爆発し、私は店外の地面に投げ出されました。二度目の着弾を警戒し緊張していた私は、カメラが録画状態になっていなかったことで自分をひどく呪いました。私がいた場所のすぐ隣のアパートに砲弾がヒューッという恐ろしい音を立てて命中し、私は、身体を縮めて、交差点の角の陰に隠れました。
10代の若者が、オフィスチェアに電子機器を積んで運んでいました。「友人たちとそこにいたのですが、僕たちから10mの所に着弾しました」と、その少年は私に語り、「友人たちがどうなったのか、分からないんです」と続けました。我々が病院に戻ると、20分もしない内に負傷した人々が到着し始め、その内の数人は、ショッピングカートで運ばれて来ました。
誰しもが、戦争が終わるのはいつなのかを知りたがっていましたが、私は答えを知りませんでした。
ロシア軍の包囲を打ち破ってウクライナ軍がやって来るという噂が毎日のように流れましたが、誰も来ることはありませんでした。
この頃には、病院での死や路上の死体、集団墓地に押し込まれる数十の遺体など、あまりにも多くの死を見ていたので、私は深く考えることもなく、人々の死を撮影していました。
3月9日、空爆が2回あり、産科病院から煙が上るのが見えました。我々が到着した時、救急隊員たちはまだ瓦礫の中から血まみれになった妊婦を引き出そうとしているところでした。
ある日、外出禁止の開始時刻まで残り数分というときに、バッテリー不足によって、画像を送信しようにも接続できる回線が無くなる事態に陥りました。病院への爆撃のニュースをどうやって送信するかについて我々が話し合っていたのを聞いていた1人の警察官が、電源が有ってインターネット接続が可能な場所に我々を連れて行ってくれました。「このニュースは、この戦争の流れを変えるでしょう」と、その警察官は言いました。そのときすでに我々は、非常に多くの死者、そして死んでいった子供たちを撮影していたので、これ以上の死が何かを変え得るという警察官の考えが、私には理解できませんでした。
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