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平成22年の年賀状「明治の日本、戦後高度成長の日本」・「場所と私、人生の時の流れ、思いがけない喜び」・「紅茶と結石と年賀状」

Japan In-depth / 2023年8月16日 23時0分

すべて医学の力である。医師と看護師、そして病院の掃除をしてくれる人、食事を作ってくれる人、事務を処理してくれる方々。





その前提にあるのが、医療器具を作る人々であり、その材料を作る人々であり、さらに、石油を掘り、運び、鉄鉱石を採取し、製鉄をし、と限りのないチェーンあっての、今回の私の手術だったのだ。





広い世界があって、この病院があり、そこでの手術がある。麻酔のためにいったいどれほどの人々が何世紀にもわたって研究と実験を重ねたことか。





感謝。なにものかへの感謝。すべてへの感謝。





予定よりも早く、私の体内に収められていたカテーテルが抜けることになった。





せっかく結石を取り去っても尿路が閉鎖してしまっては大変なことになるので、3ミリほどの太さのカテーテルを体内に残してあったのだ。それが自分から「もう外に出たい、出たい」と動き始め、少し頭の先が体外から見える状態になってきた。私は慌てて磯谷先生に連絡し、夕方、ご指示どおり救急外来に行き、ほんの10秒で抜いていただいた。それがすべての終わりだった。7月28日午後6時ごろである。本来は7月31日を予定していた。





カテーテルを抜いてもらった日の午後7時ごろ、私は病院付属の山のホテルのレストランで夕食を摂っていた。ノンアルコールのビールを頼んだ。窓の外には、何日か前、あの焼けつくような日差しのなかを歩いた玄関前の風景が広がっている。あの時には、ほんの50メートルほど歩いただけだったが、頭も体も脚も足も太陽に焦がされるようだった。





おなじような暑い一日が目の前で暮れはじめ、みるみる黄昏時になってゆく。大地は生きていると実感する。その光景の移り変わりに、私はなにものかに深く感謝し、自分は自分の小さな一部署としてこの世に与えられたところで一生懸命できることをやろう、世界中でだれもが同じことをやっているに違いないのだ、私は私の果たすべき使命を果たそう、そう心に誓った。





トップ写真:故・石原慎太郎氏(2007年4月5日 東京)出典:Photo by Koichi Kamoshida/Getty Images




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