『ガンダム』シャアはどんな嘘をついてきた? 虚構にまみれたその人生を振り返る
マグミクス / 2024年5月9日 6時25分
■嘘の中に生きる男、シャア
『機動戦士ガンダム』シリーズの主要キャラクターである「シャア・アズナブル」は、3つの偽名を持ちストーリーの要所要所で嘘をつくキャラクターとしても知られています。果たしてシャアは、どのような嘘をついてきたのでしょうか。
シャアがついている最大の嘘といえば、「シャア」という名前そのものでしょう。スペースノイドを支える思想である「ジオニズム」の提唱者「ジオン・ズム・ダイクン」の息子、「キャスバル・レム・ダイクン」として生まれながらも、ザビ家による暗殺を避けるために「エドワウ・マス」を名乗ったのを皮切りに、復讐のために「シャア・アズナブル」を名乗った時、彼の、ほぼ真実を語ることが出来ない人生は始まってしまったのです。
最初のアニメ『機動戦士ガンダム』でシャアがついた嘘といえば、仇たるザビ家の末っ子「ガルマ」絡みが非常に多くなっています。「これで勝てねば貴様は無能だ」「どうもお坊ちゃん育ちが身に染みこみすぎる 甘いな」など、当てこすりの台詞も多いのですが、第9話「跳べ! ガンダム」では通信機に細工を入れながら「しかし見事じゃないか ガルマ大佐の攻撃ぶりは」と遂に嘘をつき始めます。
そして第10話「ガルマ散る」では、出撃の際に「勝利の栄光を、君に!」と心の底からの嘘をつき、主人公「アムロ」たちの母艦「ホワイトベース」を発見した際には、ガルマ率いる「ガウ」部隊が背面から攻撃を受ける位置へと誘導して、嘘まみれの友情にピリオドを打ったのでした。
その後、シャアの出番は非常に少なくなり、再登場は第26話「復活のシャア」です。引き続きさまざまな局面で「ホワイトベース」や「ガンダム」と交戦しますが、追い詰めるには至りませんしそれほどの嘘もつきません。しかし最後の最後、劇場版『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』でアムロとの決闘の後に、重傷を負ったジオンの兵士から、これも仇のひとりである「キシリア・ザビ」が脱出しようとしていることを聞き出し「安心しろ 貴様に代わってキシリア殿は必ずお守りしてみせる」と伝えます。このやさしい嘘の結末は、おそらくみなさんご存じの通りかと思います。
■総帥としてのシャアは嘘まみれ
クワトロを名乗っていた頃が、もっとも正直に生きられたのかも。「GGG 機動戦士Zガンダム クワトロ・バジーナ」(メガハウス) (C)創通・サンライズ
『機動戦士Zガンダム』に登場したシャアは、「クワトロ・バジーナ」と新たな偽名を使用していますが、ジオン残党が集う小惑星基地「アクシズ」に帰還しなかった大きな裏切りを除けば、自身がキャスバルであることを明かすなど、むしろシャアにとってはもっとも正直に生きられた時代だったのではないでしょうか。
しかし劇場版『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』で「ネオ・ジオン」の総帥となったシャアは、全てを嘘で塗り固めた人物へと変貌……いや、そうせざるを得ない立場だったと思えます。最たるものは、見せかけの和平交渉でのアクシズの入手でしょうか。腹心で情人でもある「ナナイ」の「私は大佐に従うだけです。愛してくださっているのなら」という言葉に対し返した、「いてくれなければ困る、ナナイ」「君のような支えがいる」という、一見、愛のささやきに思えなくもない「単に必要だから」という意味の言葉の羅列も聞かれました。
そしてニュータイプの少女「クェス」の「あたしは大佐を愛してるんですよ」という言葉に対する「わかった。私はララァとナナイを忘れる」という、何があっても絶対にありえない返答は、シャアが言葉を軽く扱っているシーンの筆頭ともいえるでしょう。もっともこの後のシーンからシャアはクェスをかなり雑に扱うようになっており、疎(うと)んじていたのは間違いありません。
シャアの言葉の軽さは周囲にも見破られており、配下の「ギュネイ」に対し「私がクェスに手を出すとどうして考えるのだ?」「私はネオ・ジオンの再建と打倒アムロ以外、興味はない。ナナイは私に優しいしな」と言葉をかけた直後、シャアがいなくなったのを見計らったギュネイは「嘘かまことかすぐにわかるさ」と呟いており、強化人間としての超感覚を持つとはいえ、若く人間関係の経験が浅いにも関わらずシャアの言葉を信用できないものとして受け取っています。
このように嘘ばかりついてきたシャアですが、ときおり心の内を覗かせるような言葉を吐くことがあります。ガルマの葬儀の際に吐き出した「坊やだからさ」が有名でしょう。筆者個人としては『機動戦士Zガンダム』で、幼いザビ家の忘れ形見「ミネバ」が操り人形にされたときに放った「よくもミネバをこうも育ててくれた!」という怒りの台詞、そして劇場版『Z』で自分のぶんのケーキがあるか心配する「私のぶんは?」という台詞は、彼もまたひとりの人間であることを示す重要なものではないかと思えるのです。
(早川清一朗)
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