フィラリア症、狂犬病…犬の予防接種はなぜ必要か 飼い主が意外と知らない犬の大事なこと
まいどなニュース / 2024年4月5日 11時30分
春になってフィラリアの予防薬をもらったり狂犬病ワクチンを接種したりするために動物病院に行く人が増えてきました。でもちょっと待って!フィラリアの予防薬を飲ませる前に、なぜ検査で陽性か陰性かを調べるのかご存知でしょうか。そもそも、狂犬病ワクチンや混合ワクチンはなぜ必要なのでしょう?普段獣医さんになかなか聞けないことを、米国獣医師の和泉ユタカ先生にお話しいただきました。
予防薬投与前に必ずフィラリアの検査を
ーーフィラリア症について教えていただけますか。
「犬のフィラリア症とは、フィラリア(犬糸状虫)が心臓や血管に寄生し、血液の循環や内臓に障害を起こす病気です。まず、蚊がフィラリアに感染している犬から吸血することで、蚊の体内にミクロフィラリアというフィラリアの幼虫が取り込まれます。ミクロフィラリアは蚊の体内で10〜14日ほどで約0.2ミリの感染子虫に成長し、蚊が非感染犬から吸血した際に犬の体内に侵入します。感染子虫は犬の体内で脱皮を繰り返し、約6カ月でミクロフィラリアを産むことのできる成虫になります。フィラリアの予防薬はある一定の大きさ以上の幼虫及び成虫には効きません。蚊によって媒介された幼虫は、最短51日で予防薬が効かなくなるサイズまで成長するため、大きくなりすぎる前の投薬が必要です」
ーー予防薬を投与する前にフィラリアの検査をする意味は?
「血液検査無しでフィラリアの予防薬を使うと、万が一フィラリアに感染していた場合、血液中のフィラリアの幼虫(成虫が産んだ大量のミクロフィラリア)が一斉に死んで、犬にショック症状が起きる可能性があります。死んでしまうこともあります。また先ほども言った通り、フィラリアの予防薬では成虫は死なないので、体内にすでに成虫がいる場合は他の治療が必要となります」
ーー検査しないで予防薬を投与したら死ぬこともあるのですね。
「そうです。必ず検査してから予防薬を飲ませてください」
ーー通販で予防薬を買う人がいることが問題になっています。
「定期的な獣医師の健康診断と、『この薬がこの子には良いと思いますよ』というアドバイス無しでネットで薬を購入した場合、獣医師側は安全性の保証が全くできません。現在、ノミやダニの薬は非常に一般的ですが、それでもそれが薬剤であることは忘れないで欲しいと思います」
日本に狂犬病はないからワクチンは不要?
ーー日本では、狂犬病ワクチンの接種率は約70%に留まっています。
「米国では狂犬病ワクチンは、市町村によっては医学的な理由で獣医が、『この犬はワクチンを現在受けないことを推奨します』と公式文書にサインしないと罰金を取られるほど厳しいです。日本と異なり、狂犬病がある国ですから当たり前だと思います。ちなみに、アメリカの獣医師はほぼ全員狂犬病のワクチン(人間用)を打っています。特に私は専門柄ワクチン必須です。神経症状のあるノラ猫に噛まれたりしたらアウトなので」
ーー日本でも安心できないのでは。
「そうですね。現在狂犬病が発生していないからと言って安心することはできません。グローバル化が進み、多くの生き物がペットとして輸入(密輸入を含む)されている中、日本に狂犬病が入ってくる可能性は否定出来ません。発症した場合の致死率はほぼ100%、発症前でも莫大な治療費を必要とする感染症です。予防は最良の薬、という言葉がありますが、ペットとして犬猫を飼う人には、その責任を充分に認識して頂きたいと思います」
ーー特別な事情がない限り、接種は必須ですね。
「日本は狂犬病のない世界的に稀少な国ですが、先人の努力に感謝し、またこの状態を保つ努力を続けていくことが大切なのではないかと思います」
ーー混合ワクチンの接種についてはいかがですか。
「アメリカでは、コロナ禍で在宅ワークになった人の多くが『せっかくだから…』と子犬を飼いました。しかし、コロナ禍で時間短縮や一時的に閉業する動物病院も多く、ワクチンを打たない犬が増えました。そして結果として、コロナ以前には滅多に見られなかったパルボとジステンパーのケースが一時期、爆発的に増えました。私は脳神経科医ですが、ジステンパーで神経症状が出た犬のケースは、コロナ前は4年間に2件でしたが、コロナ禍中では2カ月に6件、電話で他の獣医師から相談を受けたものを含めると10件以上になりました。ジステンパーで神経症状が出ると残念ながら非常に予後が悪いため、ほぼ安楽死になります。ジステンパーもパルボもワクチンをきちんと接種するだけでほぼ完全に避けられる病気ですから、余程の医学的理由(免疫系の病気で高用量のステロイド剤を使っている等)がない限り、接種しない理由がないと思います」
フィラリアの予防薬や狂犬病予防注射、混合ワクチンのこと、お分かりいただけましたか。愛犬の病気予防、その意味を理解すると、どれもとても大切なことだということがよく分かりました。
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)
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