<創造的な人は一回性の「出会い」で創られる>大学の国際化、ランキングや順位などは人間の成長を考える設定として粗すぎる
メディアゴン / 2015年11月16日 7時30分
茂木健一郎[脳科学者]
* * *
世界の見え方、というか「重心の置き方」は変わる。
しばらく前に、私は、日本の教育の改革の問題に関心があって「Times Higher Education」にエッセイを寄稿したりもした。しかし、 今は、ちょっと違うことを考えている。
このところ考えていることは、そもそも学校の制度をどうするかという問題は、政策論としては意味があっても、一人ひとりの人間としては、議論として「粗い」のではないかということ。「良い」学校に行った人がみな「良き人」になるわけではないし、「良い」学校に行かないと「良き人」になれないわけでもない。
今、仮に、創造的な仕事をできる人を育むという目標をつくったとしよう。すると、そのような人が出来上がるまでの道筋、要素の出会い方を冷静に見ると、そこには、どんな学校を用意するか、カリキュラムをつくるかという問題では記述されない一回性、個別性の事情が関与していることがわかる。
科学、技術、芸術、ビジネス・・・どんな分野でも、創造的な仕事をする人、なしえている人の人生の軌跡は、個別的、一回性の「出会い」によってつくられている。そして、そのような出会いは、往々にして、二度と繰り返さない。そもそも、時代の変化によって、「出会い」が持つ意味合いも変化してしまう。
ある時代には意味のある「出会い」も、少し下った時代においても意味があるとは限らない。坂本龍馬にとって、「黒船」との出会いは重要な意味を持ったが、今の青年がアメリカの船を見ても、同じ意味は持たないだろう。本居宣長が賀茂真淵に出会った「松坂の一夜」に当たるものは、人によって違う。
ある時代には、オリジナリティの高い仕事につながる出会いでも、次の時代には陳腐化することもある。時代と、社会の組成は水物であり、二度と同じ位相には至らない。
結局、それぞれの時代を生きる子どもたちは、一回性の出会いを通して、自らの人生の構築をしていくしかない。
一回性の出会いを通して人生を構築していくという命題を考える時に、学校の制度やカリキュラムからアプローチするのは不十分である。もちろん、それは無関係ではない。しかし、十分でもない。むしろ、一人ひとりの人生に寄り添い、詳細にそれを見てみなければ、その育成の本質は見えてこない。
以上のような理由で、大学の国際化とか、ランキングの順位とか、それは政策論としては重要かもしれないが、一人ひとりの人間の成長という問題を考える上では、設定として粗すぎる、と私は感じている。むしろ、一人ひとりの個別の出会いのダイナミクスにこそ、興味があるようになった。
私自身もまだ成長しているし、そのために自分にどのような出会いを配剤したらいいのかと思う。今学び中の学生にも、どんな学校に行っているかという粗い話ではなくて、自分の出会いを個別性と一回性の視点から見つめる、そんな細かい視点を持って欲しいと思う。
そんな目を育む教育は良い教育だろう。
(本記事は、著者のTwitterを元にした編集・転載記事です)
(茂木健一郎)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
茂木健一郎氏、ゆたぼんを評価 父から“ポスト消せ”圧力に反抗する姿に「大いに結構なこと」
スポニチアネックス / 2024年5月14日 22時53分
-
「成長するために転職したい」は逃げである…本当に優秀な人が転職面接で言っている"一撃フレーズ"
プレジデントオンライン / 2024年5月14日 16時15分
-
AIでは導き出せない自分の在り方を見つける『パーパス発見』学習プログラムの提供を発表
PR TIMES / 2024年5月10日 10時45分
-
マナリンク高等学院と鹿島山北高校が提携、通信制高校生の大学進学に注力
PR TIMES / 2024年4月25日 12時15分
-
岡本信明・横浜美術大学長 「キラリと光る大学運営を。芸術関連の大学であるからこそできる人づくりです」
財界オンライン / 2024年4月22日 7時0分
ランキング
-
1【解説】安定的な皇位継承のあり方は 皇族数の確保へ2つの案の議論始まる
日テレNEWS NNN / 2024年5月17日 21時38分
-
2「限度超えてる」、逮捕評価=厳罰化には懸念も―つばさの党事件で識者
時事通信 / 2024年5月17日 20時8分
-
3つばさの党、田村淳さんらの自宅特定し街宣 否定的見解に反発か
毎日新聞 / 2024年5月17日 14時16分
-
4姫路港に車転落 中から高齢男女の遺体見つかる
ABCニュース / 2024年5月17日 23時39分
-
5素潜り漁をしていた77歳海女が溺死…漁協の船に引き上げられる
読売新聞 / 2024年5月18日 6時44分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください