宇宙滞在で遺伝子や腸内細菌叢が変化していた──双子の宇宙飛行士の比較研究
ニューズウィーク日本版 / 2019年5月7日 17時30分
<NASAは、宇宙環境がヒトにどのような影響をもたらすのかを解明するために一卵性双生児で分析したところ、遺伝子発現や認知機能、腸内細菌叢などに、宇宙飛行特有の変化が認められた......>
宇宙旅行は、宇宙放射線にさらされながら、閉鎖環境に閉じこもり、無重力状態で過ごすという過酷なものだ。では、ヒトはこの過酷な宇宙環境にどのように適応し、地上への帰還後、どのように身体の機能を回復させるのだろうか。
研究プロジェクト「ツインズ・スタディ」
アメリカ航空宇宙局(NASA)は、一卵性双生児が基本的に同じDNAを有することに着目。2015年3月から340日間、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在した宇宙飛行士のスコット・ケリー氏と、同時期に地上で生活していた一卵性双生児のマーク・ケリー氏を被験者として、宇宙環境がヒトにどのような影響をもたらすのかを解明する研究プロジェクト「ツインズ・スタディ」を立ち上げた。
その研究成果を2019年4月12日に学術雑誌「サイエンス」に公開した。これによると、遺伝子発現や認知機能、腸内細菌叢などにおいて、宇宙飛行特有の変化が認められたという。
遺伝子発現や認知機能、腸内細菌叢は......
染色体を保護する役割を担うテロメア(末端小粒)は加齢に伴って短くなるものだが、ストレスや環境曝露などの要因がその短縮ペースに影響をもたらすこともある。「ツインズ・スタディ」によると、宇宙飛行中、スコット氏の白血球のテロメアが長くなり、地上への帰還後、6ヶ月で正常に戻った。
宇宙飛行前、宇宙飛行中、帰還後にそれぞれスコット氏からサンプルを採集したところ、遺伝子発現にも変化が認められた。マーク氏も正常の範囲内で遺伝子発現に変化があったが、スコット氏のものとは異なっていた。スコット氏の遺伝子発現の変化のうち91.3%は帰還後、元に戻ったが、一部は帰還後6ヶ月経過しても残っていた。
宇宙飛行中のスコット氏の認知パフォーマンスは、地上のマーク氏と比べても概ね変化はなかった。これは、宇宙飛行士が宇宙で長期間滞在しても、認知パフォーマンスを高いレベルで維持できることを示している。ただし、帰還した後6ヶ月、スコット氏の認知機能は、スピードや正確性において低下が認められた。
宇宙飛行中のスコット氏の腸内細菌叢は、宇宙飛行前のものとまったく異なっていた。フリーズドライ食品やレトルト食品を中心とする食生活に変化したためとみられているが、宇宙特有の環境要因が影響を与えた可能性も否定できない。なお、帰還後には、宇宙飛行前の腸内細菌叢の状態に戻っている。
ヒトの回復力が示されている
このように「ツインズ・スタディ」の研究結果では、宇宙環境によって誘発される様々な変化にも適応しうる、ヒトの頑健性や回復力が示されている。
アメリカ航空宇宙局では、月や火星の探査など、近い将来、宇宙旅行がより長期化することを見越し、「ツインズ・スタディ」の研究成果をもとに、長期の宇宙飛行がヒトの身体や脳に与える影響をさらに詳しく調査していく方針だ。
NASA Video-Three Key Findings from NASA's Twins Study
CBC News-NASA twins study reveals space flight can cause genetic changes
松岡由希子
この記事に関連するニュース
-
ヨーグルト摂取後の別府温泉入浴が排便状況へ与える影響を検証
PR TIMES / 2024年5月15日 12時15分
-
医師が指摘「悩みから解放されにくい人」3つの特徴 不安、イライラ…日々のストレスが認知症を生む
東洋経済オンライン / 2024年4月29日 13時0分
-
生体に近いヒトiPS細胞由来小腸上皮細胞モデルで、ブルガリア菌とサーモフィラス菌による腸管バリア機能強化を確認
共同通信PRワイヤー / 2024年4月24日 14時0分
-
健常高齢者に対するグアーガム分解物の最新研究結果 認知機能および睡眠の質を向上、気分にも好影響の可能性
@Press / 2024年4月24日 10時0分
-
様々な分野で活躍する「ナノバブル」 すでに医療で実用化 日本酒やワインの風味長持ちにも!
東スポWEB / 2024年4月21日 10時3分
ランキング
-
1米大使、初の与那国島訪問=台湾情勢巡り中国けん制
時事通信 / 2024年5月17日 21時8分
-
2ロシア軍前進も「状況安定化」 ウクライナ、東部態勢強化
共同通信 / 2024年5月17日 19時41分
-
3北朝鮮の孤児院で乳幼児7人が栄養失調で死亡 職員らが子どもに与える食糧を横領していたとして逮捕、食糧事情の悪さが浮き彫りに
NEWSポストセブン / 2024年5月18日 7時15分
-
4プーチン氏、ゼレンスキー氏の正当性に疑問 戒厳令で大統領選延期
ロイター / 2024年5月17日 23時33分
-
5ニュース裏表 峯村健司 中国監視船内に2カ月拘留中の台湾軍人…軍事行動・スパイ活動の嫌疑「意図的に拘束」か 台湾有事〝最前線〟金門島ルポ・第2弾
zakzak by夕刊フジ / 2024年5月18日 10時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください