現在進行形の政治事件を散りばめた意欲作『新聞記者』
ニューズウィーク日本版 / 2019年7月2日 14時40分
<今も世間を騒がせ続けている事件に正面からぶつかりつつ、心をつかむサスペンスドラマに仕上がっている>
ハリウッドでは、古くは『大統領の陰謀』(76年)、近年では『スポットライト/世紀のスクープ』(15年)、『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(17年)、『記者たち/衝撃と畏怖の真実』(17年)など、権力者の悪事やスキャンダルを新聞記者が暴く(実話に基づく)ドラマがたびたび作られる。少し毛色は違うが、『バイス』(18年)のように元副大統領の半生をブラックコメディに仕立てた作品もある。韓国映画でも最近、『1987、ある闘いの真実』(17年)という実録ものの秀作があった。
日本でも、特にこのところ政治家や官僚がらみのおかしな話が山ほどあって、シリアスドラマでもコメディでもいいから誰かこれを映画にしてくれないかと思っていたら、藤井道人監督(『デイアンドナイト』)がやってくれた。それも現在進行形の政治事件に正面からぶつけるような形で。
『新聞記者』(公開中)は人気・実力ともトップクラスの松坂桃李と、韓国の演技派女優シム・ウンギョンのダブル主演作。北村有起哉、田中哲司、高橋和也、本田翼らが脇を固める。
原案は、東京新聞の望月衣塑子記者の同名著書だ。そして、今の政治状況に危機感を持ったプロデューサーの河村光庸が「政治の季節を意識している」とインタビューで語っているように、参院選少し前の公開は確たる意志があってのこと。というと、「なんか偏っているんじゃないか」「単に反権力をうたう映画?」と敬遠する人もいるかもしれないが、それに関しては杞憂と言っておく。
東都新聞記者の吉岡エリカ(シム、右)は新設大学認可にからむ政治スキャンダルの取材を始める (c) 『新聞記者』フィルムパートナーズ
物語の始まりは、東都新聞社会部に「医療系大学新設」に関する極秘公文書がファクスで送られてくる場面。認可先はなぜか文科省ではなく内閣府だ。内部リークか、誤報を誘う罠か――ジャーナリストだった日本人の父、韓国人の母を持つアメリカ育ちの記者・吉岡エリカ(シム)が真相を突き止めるべく取材を始める。
一方、外務省から内閣情報調査室(内調)に出向中の官僚・杉原拓海(松坂)は、政権を維持するための世論操作という仕事を粛々とこなしつつ、心のどこかで葛藤する日々を送っていた。吉岡と杉原を結び付けたのは、杉原の元上司で現在は内閣府勤務の神崎俊尚(高橋)の自殺だったが......。
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