こんな情報を待っていた! オンライン営業・会議の必勝法をこっそり教えます
プレジデントオンライン / 2020年10月9日 15時15分
■オンライン営業は準備が9割
ヤナセでメルセデス・ベンツのセールスを担当する三上正博氏は、ベンツを年間145台売り上げ、本社から表彰されるトップセールスだ。2017年から顧客とのリレーションを非対面で行ってきた。そんな“非対面商談の達人”である三上氏は、動画を積極的に活用しているという。
「まもなく発売予定の新商品や、自動走行している車のYouTube動画などをLINEで送信しています。また、お客様が検討中の車を私が試乗する様子などを動画で撮影し、お客様と共有させていただきます。その動画に『日本で発売されたら、一番にご案内いたします』などと、ひと言メッセージを添えて送ります」
オンラインでの会議・商談では、対面に比べて「事前準備」がより重要になる。デジタルマーケティング支援企業のギャプライズでデジタル広告営業を担当する山下千佳氏はこう語る。
■『どこがポイントか』『何を伝えたいか』をより明確化する
「会議の前には、通常使っている資料をオンライン用にブレイクダウンして、『どこがポイントか』『何を伝えたいか』をより明確化するようになりました。基本的には『一枚のスライドに1つのメッセージ』を心がけています。使用するフォントも、大きく、読みやすいものを使うよう意識しています」
デロイトトーマツベンチャーサポートの青砥優太郎氏は、国内外約3000社のベンチャー企業とのネットワークを活かし、得られた知見を大手企業向け支援に生かしている。青砥氏は、多い日には16件の商談・会議をオンラインで行っているという。
「コンサルティングという仕事の特性もありますが、プロジェクト単位の仕事なので、そもそもメンバーが一堂に会することが難しいんです。そのため会議は基本的にオンラインです。特に20年3月から4月にかけては、100件以上のオンライン打ち合わせを行ってきました」
オンライン会議には、会議場所への移動時間が不要になる、どこにいても(移動中でも)会議に参加できるなどのメリットがある。その一方で、長時間にわたって緊張感を保つことが難しいという側面もある。「会議の参加メンバーをどう選ぶか?」「1回の会議にどれくらいの時間を設定するか?」「どんな頻度で会議を設定するか?」は重要なテーマだ。
青砥氏は、1回ごとの会議時間を短くして、頻度を高めることで、より深い議論につながると指摘する。
「議題を明確化し、集中して議論することで、移動時間を含め『月1回・2時間』の会議を『週1回・30分』で月4回にするのです。資料や情報は事前に共有しておけば、30分間の会議はディスカッションに専念することができる。会議を細分化することで、目的が明確になり、議論の密度や質が高まります」
山下氏は、オンラインになったことで顧客とのコミュニケーションが親密になったと感じている。
「従来は、クライアントを訪問するのは営業担当のみで、実務部隊のスタッフはお客様と対面する機会はありませんでした。クライアントの担当者から『実務担当の○○さんってどんな方?』と質問を受けることもあったんです。オンラインになってからは、『ちょっとご紹介しますね』という感じで気軽にミーティングに同席してもらうようになりました。そういう意味ではオンラインになって、コミュニケーションの『量』や『密度』は、むしろ増しているかもしれません」
オンラインによる会議に「正解」はない。過去の習慣や常識に捉われることなく、相手の立場でメンバーを選び、準備を行う。これが、相手の心をつかむ秘訣といえるだろう。
■冒頭から単刀直入! 雑談は要らない
オンライン会議は冒頭いきなり相手が現れる。ここでもたついていては野暮だ。この時間はどのように使うのが有効なのだろうか?
デロイトトーマツの青砥氏は、この時間を使って各メンバーの役割と目的を明確にしておくことが、会議の成否を分けると力説する。
「対面の会議では、名刺交換を済ませて着席した時点で、誰がどんな役割を担っているのかが一目瞭然です。名刺の肩書に『事業戦略部』と書いてあれば、『あぁ、この人は新規事業の担当なんだな』と理解できる。対してオンラインでは、顔と名前が画面に表示されているだけなので、参加者の『所属』や『プロジェクトにおける役割』が、他のメンバーに見えにくいというデメリットがあります。この点を明確に共有したうえで会議をスタートすることが大切です。従来なら冒頭のアイスブレイクで半ば無意識に行っていた自己紹介を、オンラインでは、より丁寧に行う必要があると感じます」
ファシリテーター役も、常にメンバーそれぞれの役割を明確化しながら、発言を促したり、質問を投げかけたりする配慮が必要だ。
対面での会議では、コミュニケーションを円滑にするために趣味の話題など雑談をするケースも多い。
ヤマト住建で注文住宅の営業を手がける阿部一樹氏は、オンライン商談のみで成約を勝ち取った経験を持つ強者だ。その阿部氏は商談における雑談の効用には否定的だ。
「雑談を通じてお客様の心をつかむという営業マンもいますが、私自身は、雑談はしませんね。雑談で双方が共感するケースはごくまれだと思うからです。最初に、お客様が家づくりに際して何を大切にしているのかを丁寧にヒアリングして、その後は本題である当社の説明に入ります」
それとは対照的に、ギャプライズの山下氏は、アイスブレイクで前回の会議を振り返るという。
「同じメンバーと2回目以降の会議をするケースなら、前回の会議で決まったことを再確認することもあります。『あの件、その後どうなりましたか?』という感じですね」
対面の会議に比べ、ともすればコミュニケーションが散漫になりがちなオンラインだからこそ、話し合うべきことを明確にし、何のために会議をするのかという目的意識の共有がカギとなる。互いの貴重な時間を尊重する意味からも、冒頭の時間こそ有効に使いたいものだ。
■対面以上に「熱意」を伝えるひと工夫とは
オンラインによる商談・会議では、タイムラグもあるため、対面とは異なる話し方が求められる。聞き手を疲れさせず、かつ飽きさせない話し方とはどんなものだろうか?
デロイトトーマツの青砥氏は、リアルコミュニケーションとの違いについてこう語る。
「オンラインでは、意識的にゆっくり、ハキハキと話すようになりました。オンラインは、姿は見えていても基本的に言葉のみのコミュニケーションですから、簡潔でわかりやすく話すように心がけています」
ギャプライズの山下氏は、意識的にジェスチャーを取り入れるようにしているという。
「『頷き』も大切ですね。自分が話しているとき、相手の反応が小さいと、伝わっているのかどうか不安になる。だから相手の話を聞くときには、オーバーと思えるくらいに大きく頷くようにしています」
ヤナセの三上氏は、「リアクションを大きくして、端的に話す」ことを心がけているという。
「店舗で対面して行う商談は、お客様にとっては“逃げ場がない状態”です。これに対してオンラインで会話しているときは、お客様が真剣に話を聞いてくれているのかどうか確認できません。聞いているフリをしながら手元でチャットをしていたり、何か違うことを考えていたりしている可能性もあります」
オンライン商談が対面による商談と大きく異なる点は、「顧客が自宅にいる」という点だ。営業マンにとっては「アウェイ」の状況だが、この状況を味方につけることもできる。ヤマト住建の阿部氏はこう語る。
「お客様に自宅内を見回しながらイメージを膨らませてもらえる点はオンラインならではの利点です。例えば、当社ではアルミ製ではなくカビが発生しにくい樹脂製サッシを使用しています。ただ、店舗で説明をしても、お客様はイメージしにくい。でも、オンライン商談では、『現在、お宅のサッシはどんなものですか?見てみてください』とお願いします。冬場の結露に悩んでいる方なら、樹脂製の魅力をよりリアルに感じていただけると思います」
対面での商談に比べて、オンライン商談では「熱意」や「思い」を伝えることが難しいと感じている人も多いだろう。ヤナセの三上氏は、使い方次第で強みに変えられると話す。
■オンライン商談はアイデア次第で強みに変えることができる
「茨城県日立市に、輸入されたメルセデス・ベンツの車両が荷揚げされる港があるのですが、私は、港でお客様の車が荷揚げされるのを待って写真を撮影し、『今日はお客様のために日立まで来ています。これがお客様の車ですよ』とメッセージを添えてお客様に送ったこともあります。また、お客様が検討されている車をご自宅の前まで運んで写真を撮り、『家の前に停めた感じも素敵ですね』とメッセージを送ります。営業マンは、お客様の心をどれだけ揺さぶることができるかが勝負。オンライン商談はアイデア次第で強みに変えることができるんです」
中には「オンラインじゃわからないから、直接見に行くよ」という顧客もいるという。しかし、三上氏にとっては、それが狙いでもある。
「私としてはお客様に『直接見たい』と言ってもらえるところまでオンラインで誘導し、最後は直接対面でクロージングする……というのが理想なんです」
オンラインの利点を駆使して顧客の興味を惹きつけ、最後は店舗へと導く……百戦錬磨のセールスマンに学ぶべき点は多い。オンライン商談では、従来のプレゼン手法にとらわれることなく、必要に応じて積極的に新しい手法を取り入れ、アップデートしていくことが大切なのだ。
■相手の興味・関心を一発で見抜く方法
オンライン商談では、画面に映る相手の動きや表情も、重要な情報になる。
ヤマト住建の阿部氏は、相手の動きや表情に合わせて、説明に緩急をつけるようにしているという。
「オンライン商談の際には、お客様の表情や行動を注意深く確認しています。例えば、ある個所でお客様がカメラにグッと近づいてきたら、関心を持ってくれているなと判断して話を掘り下げる。逆に背もたれに寄りかかって聞いているようなら、あまり関心がないと判断して、興味を持ってもらえそうな話題に早めに切り替えます」
オンライン商談では、互いに使い慣れないツールを使用していることから、トラブルも発生する。
ギャプライズの山下氏は言う。
「先方のWi–Fi環境が悪かったため、たびたび音声が途切れてしまうケースがありました。途切れた部分が重要な話だと困るので、『すみません。ちょっと聞き取れなかったんですが』と、何度も聞き返したんです。結局4回目で聞き取れたのですが、3回目ぐらいでドキドキしました(笑)。社内のスタッフに聞いてみると、画面をオフにすると通信の負荷が軽減されて音声が明瞭になるそうです。今後、同じようなトラブルが起こったら『画面をオフにしてみてください』と伝えようと思います」
顧客とのコミュニケーションツールとしてLINEを多用するヤナセの三上氏は、こんな経験をしたそうだ。
■LINEの既読機能をフル活用
「私は営業の際にLINEの既読機能をフル活用しています。夜、空いた時間に情報を送っておいて、既読がついたのを確認して翌日、電話をするのです。ある日、メッセージに既読がついたのを確認したのですが、深夜だったため翌日連絡しようと放置しておいたところ、『既読をつけたのに、なぜおまえから連絡をしてこないんだ!』と、お叱りの電話を受けたこともあります。ただ、これはトラブルとはいえないのかもしれません。『なぜ連絡をくれないんだ!』という怒りは、裏を返せば強い関心を持ってくれている証拠ですから」
オンライン商談には、まだ確立されたルールは存在しない。つまり早期に「自分なりのルール」を見つけた者が果実を得るともいえるだろう。自分なりの活用法を見出し、オンラインを武器に変えたいものだ。
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三上正博(みかみ・まさひろ)
ヤナセ 山下支店/メルセデス・ベンツセールス担当。2019年度145台のベンツを売った支店トップのセールス。販売後の修理といったアフターケアや保険などの手続き面でも顧客をサポートする。
青砥優太郎(あおと・ゆうたろう)
デロイトトーマツベンチャーサポート/ビジネスインキュベーションユニット。国内外約3000社のベンチャー企業ネットワークから得られた知見を大手企業支援に生かしている。
山下千佳(やました・ちか)
ギャプライズ/デジタル広告事業部。広告主の成果最大化を目指すうえで、海外の最新マーケティングテクノロジーを駆使しながら、ディレクション、顧客折衝など多岐にわたる。
阿部一樹(あべ・かずき)
ヤマト住建 京都南店/こだわりのデザインや資材で家を建てられる注文住宅の販売に携わる。コロナ禍の自粛期間にはオンライン商談のみで成約を勝ち取った。
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(梅澤 聡 撮影=石橋素幸、福森クニヒロ)
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