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まもなく沈没する自動車業界でトヨタが生き残るためのたった1つの方法

プレジデントオンライン / 2020年10月9日 9時15分

資本業務提携を発表し、記者会見するトヨタ自動車の豊田章男社長=2020年3月24日、東京都千代田区 - 写真=時事通信フォト

■100年に一度の大変革期「自動車産業のトップはグーグルに」

私は、今年6月、『日本経済予言の書』(PHP研究所)という本を出しました。本書の中で「2020年代を通じて一番日本経済に打撃が大きいのはトヨタの衰退だ」と予言しています。

これから衰退するのはトヨタだけではありません。あらゆる自動車メーカーがそうなります。

今、自動車業界は過去100年間とはまったく違う構造変化に見舞われていると言われています。その結果、今から20年後、2040年頃には自動車産業から時価総額200兆円企業が3~5社誕生すると予測します。

上位3~5社の中に、トヨタ、フォルクスワーゲン、GM、フォード、メルセデス、ルノーといった旧来の自動車メーカーの名前は1社ないしはゼロでしょう。そのほかの上位企業はグーグルやアリババといった異業種の企業となるはずです。

今後は電気自動車への移行と、自動運転技術の実用化により、乗用車を製造販売するという伝統的なビジネスの収益性が下がります。既存の自動車メーカーの時価総額は、過去に紡績メーカーや化学メーカーなどがその道をたどったようにトップ企業でも時価総額1兆円を切るような水準に下がるはずです。

■トヨタは「コーポレートメッセージ」を見直さないと衰退する

これから自動車業界に起きることは、かつてのパソコン業界と同じです。2000年に日本には6社の大手パソコンメーカーがありましたが、2020年現在そのほとんどが衰退しました。

一方で、2020年には広義のパソコン産業から時価総額100兆円企業が4社誕生しています。アップル、マイクロソフト、グーグル、アマゾンです。そこには数年以内にフェイスブックの名前も加わるでしょう。富士通、NEC、東芝、ソニー、パナソニック、シャープの名前が加わる可能性はありません。

シリコンバレーの路上でテストを行うWaymoの自動運転車
写真=iStock.com/Andrei Stanescu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Andrei Stanescu

それと同じで、20年後、トヨタが自動車産業に出現する時価総額200兆円企業の一角に食い込むためには自動車メーカーのポジションのままでは難しい。これがトヨタ危機の本質です。いや、トヨタだけではありません。日産、ホンダ、スズキ、三菱、マツダ、スバルといったすべての自動車メーカーに共通する未来の危機なのです。

この議論については「トヨタの対応が遅れている」「いやトヨタは遅れてはいない」という水掛け論に陥りがちです。しかし、トヨタ危機の本質は対応の遅れではなく、未来の変化のすべてに少しずつ手を出している一方で、20年後のゴールが見えていないことだと私は思います。

その観点から、今回は「トヨタはコーポレートメッセージが定まらないから出遅れているのだ」という問題提起をさせていただきます。

■時価総額200兆円企業となるための3つの選択肢

トヨタの経営理念には「トヨタはクリーンで安全な商品の提供を通じて、豊かな社会づくりに貢献し、国際社会から信頼される良き企業市民を目指しています」と書かれています。その下位概念に「創業からの基本理念」「2001年からの行動指針」「トヨタ生産方式」と「グローバルビジョン」の4つの理念や哲学、ビジョンがある。未来にかかわることはグローバルビジョンで語っており、そこでは「モビリティ社会をリードする」という言葉に力点が置かれています。

トヨタの一番有名なコーポレートメッセージは2010年代に使われてきた「Drive your dreams」です。そこから2020年代をリードするコーポレートメッセージをいろいろ打ち出していますが、まだ定まっていない段階だと私は感じています。

このコーポレートメッセ―ジというものは企業のあるべき未来を従業員に指し示すために作られます。そして、コーポレートメッセ―ジが変われば企業は変わります。

かつてNECが電電ファミリーの通信機メーカーだった昭和の時代がありました。当時は、電話の一般回線は通話のためにあるからコンピューターをつないではいけないという規制があったのです。

そういった時代にNECのトップは「これからは通信とコンピューターが融合する時代になる」と考え、あの有名なC&C(Computer and Communication)というコーポレートメッセージを打ち出しました。

これは極めて変革のメッセージ性が強いコーポレートメッセージで、この言葉によってNECは旧来の通信機メーカーからコンピューターと通信の融合領域へとビジネスを広げていくことができたのです。

では、2040年に自動車業界で時価総額200兆円企業となる会社はいったいどのようなコーポレートメッセージを掲げることになるのでしょうか。次のように3つの可能性があると私は考えます。

1.電力インフラのリーディング企業
2.トラフィックネットワークのリーディング企業
3.物流と人の移動のソリューションのリーディング企業

これらを順に説明していきましょう。

■破壊的イノベーションで世界最大の電力会社へ

1つ目はコーポレートメッセージ的に言えば21世紀のC&C、つまりCar and Clean energy(自動車とクリーンエネルギー)のことです。これはパリ協定の温室効果ガスの削減目標達成のために自動車産業が破壊される流れの中で、新たに誕生すべき重要な社会インフラになります。

そもそも地球温暖化の抑制のためにやり玉に挙がっているのはガソリン車だけでなく、日本が誇る石炭火力発電所など化石エネルギー産業全般です。それに代わって世界的に増加していくクリーンエネルギーは電気自動車と極めて相性がいい。

社会的に見て効率が良いのは、自家用車と自宅の太陽光発電といった小さな対応ではなく、世界中の自動車と世界中のクリーンエネルギーを1つの都市、あるいは国家単位の電力ネットワークとしてつなげることです。

そして既存の電力会社はこういった新しいエネルギーインフラの構築には後ろ向きのため、この分野のリーダーとして革新的なスマートグリッド(次世代送電網)を構築できるのは電力産業の部外者である可能性が高いと考えられています。

田舎の風景の太陽電池エネルギー農場の上空ビュー
写真=iStock.com/Nikada
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nikada

トヨタのような自動車業界の大資本はこの新規機会との相性がよく、本気でこの領域に参入すれば既存勢力を破壊的イノベーションで攻めることができる立場にあると考えられています。

2040年代には自動車産業のリーディング企業が世界最大の電力会社になる可能性がある。これが自動車産業から生まれる未来の時価総額200兆円ビジネスの1つ目になります。

■交通インフラ上で付加価値サービスを展開する

2つ目は中国でアリババが先行しているように、5Gの技術を使って都市の中を走りまわる無数の自動車のビッグデータを収集・分析しながら、街全体、広域圏全体の交通ネットワークを最適化運営する領域です。

これは一見、公共サービスが行えばいいように思えますが、実現には大規模な資本とR&Dが必要なため民間向きのイノベーション領域です。しかもそのインフラに付加価値サービスを加えられるという点で、プラットフォームビジネスのような特徴がある未来分野です。

たとえば、アリババのようなIT企業が運営する都市交通プラットフォーム上を自動車で走行する場合、アマゾンのお急ぎ便のように特急レーンでより早く到着する有料サービスが考えられます。

アメリカのフリーウェイの場合、一番センターライン寄りの車線は誰でも入れるわけではありません。しかし、そのような車線規制を入れることで一部の車を優遇する、あるいは一部の車は前方の信号がすべて青になるようにコントロールすることが未来にはできるようになる。そこを付加価値サービスとして売るイメージです。

別の例ですが、スマートな交通プラットフォームであればウーバーやウーバーイーツのように、走行中のそれほど急いでいないときに何かを載せることで車をシェアして収益を稼ぐこともできるでしょう。ルート検索の履歴を学習してグーグルや食べログのように広告をリコメンドするようになるかもしれません。

一度、都市全体に交通インフラのネットワークを手にした企業は、そのプラットフォーム上で自動車に関わるさまざまな付加価値サービスを展開できるようになるのです。

■車が移動する意味に着眼して、生産性を上げる

そして3つ目はソリューションです。人やモノが車で移動すること自体は手段であって、目的はビジネスで儲けたり、用事を済ませたりするためです。

鈴木貴博『日本経済予言の書』(PHP研究所)
鈴木貴博『日本経済予言の書』(PHP研究所)

その前提で考えれば、自動車ユーザーのニーズは移動の生産性を上げることです。

具体的に言えば、5Gデータを駆使して宅配で再配達のない最適な一日の配達ルートをAIが提案してくれるようなサービスイメージです。そういったデータを自前で用意できないような中小の運送会社は喜んでインフラへの付加価値コストを支払うはずです。

同じエリアに存在する大半のユーザーのカレンダー情報、GPS情報、移動情報などがクラウド上でビッグデータとして解析され、ソリューションとして提供されることで、ビジネスや生活の一日の行動はずっと効率的になり生産性が上がる。特にアメリカのような車社会での恩恵は大きいでしょう。

このように「なんのために人々が車で移動しているのか」に着眼した新しいタイプのソリューションを提供する企業が、2040年代の自動車産業のリーディングカンパニーになる可能性は高いのです。

あえて私が外した4つ目の可能性としては「未来の車を創る」という領域がありえます。人工知能とLiDAR(ライダー)やミリ波レーダーなどを使う完全自動運転車をクリーンな電気エネルギーで創り出す。

これは自動車会社と競合IT企業の多くが目指している未来です。しかし、ここをゴールだと捉えると2020年代の競争には勝ち残れても、2030年代の競争からは置いていかれて沈没する危険性がある。そのため私は「未来の車を創る」というコーポレートメッセージは危険だと考えています。

■トヨタはそろそろ「DD」から「CC」へ

さて、これらの可能性が目の前にあるとしてトヨタ、日産、ホンダといった既存の自動車メーカーはどうすべきなのでしょうか。

私は先ほど挙げた3つの領域から、どれか1つに絞り込む時期がきていると思います。

これまで自動車業界では、Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)の頭文字をあわせた「CASE」と呼ばれる新しい領域を総花的に語られてきました。

日本の自動車メーカーは、自動運転や電動化という領域で、世界の最先端ではないにしろ辛うじてトップグループに追いついていたような状況でした。しかし、ここから時価総額の高いグーグル(ウェイモ)やアリババが次の領域へスパートをかけると、引き離される局面に来ています。

自動車危機の最大の問題点は、新たな異業種競合であるグローバルIT企業が50兆円から150兆円というトヨタの数倍の資本規模をもち、かつ「CASE」の中のコネクテッドの領域で圧倒的な経験量を持っているという点なのです。

そして実は、2つ目のプラットフォームと3つ目のソリューションの領域は自動車業界のビジネス文化には合わないという欠点があります。トヨタにフェイスブックやIBMみたいになれといっても難しい。そのような自動車会社から見て遠い領域なのです。

一方で、1つ目の電力インフラのドメインは比較的製造業のビジネス文化とは親和性が高い事業ドメインだと私は思います。

そう考えると、そろそろトヨタはコーポレートメッセージを2010年代のDD(Drive your dreams)から2020年代に向けたC&C(Car and Clean energy)に変える時期に来ているのではないでしょうか。

「CASE」という業界全体の未来を語りながら「モビリティ」というあいまいな未来を語るのではなく、具体的なひとつの未来を選ぶべきタイミングです。それなのにいつまでたっても選ばないというのが、トヨタ危機の本質ではないでしょうか。

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』など。

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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

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