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時価1兆円の「中国版スタバ」があっという間に上場廃止となる中国市場の闇

プレジデントオンライン / 2020年12月8日 15時15分

2019年7月12日、中国雲南省昆明市にある中国のコーヒー新興企業「ラッキンコーヒー」のカフェの様子。 - 写真=アフロ

急成長を遂げていた中国のコーヒーチェーン「ラッキンコーヒー」は6月、売り上げの水増しを理由に上場廃止に追い込まれた。作家の黒木亮氏は「中国企業の不正会計はこれだけではない。背景には、腐敗度が深刻で、不正が生まれやすい中国の土壌がある」と指摘する——。(第1回/全2回)

■“打倒スタバ”のはずが、1年で上場廃止に

去る6月、スターバックスの向こうを張って急成長を遂げ、6912の店舗を中国全土に持つにいたったコーヒーチェーン、ラッキンコーヒー(瑞幸珈琲、福建省廈門市)が米ナスダック(新興企業向け)市場での上場廃止を余儀なくされた。2019年第2四半期から第4四半期にかけ、22億元(約339億円)の売り上げを水増ししていたのが原因だ。同社がナスダックに上場したのは去年5月で、一時は時価総額が約127億ドル(約1兆3260億円)にも達したが、1年しかもたなかった。

今年に入ってから、中国企業の不正会計は他にもある。米カラ売り専業ファンド、マディ・ウォーターズに売り上げと利益の水増しを指摘された、学習塾大手でニューヨーク証券取引所に上場しているTALエデュケーション(好未来教育集団)は、今年4月、従業員による売り上げ水増しの不正があったことを認め、株価が急落した。

■不祥事を起こした企業は一時期50社以上にも

また、同じく4月、中国の検索最大手、百度(バイドゥ)傘下の動画配信会社で、「中国のネットフリックス」と呼ばれる愛奇芸(アイチーイー、ナスダック上場)が、米カラ売り専業ファンド、ウルフパック・リサーチから売上高や会員数を大幅に水増ししていると指摘された。同社は8月に、SEC(米証券取引委員会)に財務や経営の記録の提出を求められ、テンセントやアリババ集団からの出資の話し合いが棚上げとなった。

中国企業による不正会計は今に始まったことではない。米国の証券取引所では2011年から2012年にかけて、50社以上の中国企業が不正会計などの不祥事で取引停止や上場廃止になり、その後も、毎年のように不正会計で上場廃止になる中国企業が相次いでいる。

■売り上げの水増しに賄賂…その大胆な手口

中国企業の不正会計の手口は、会計規則のグレーゾーンをつくといったような生易しいものではなく、犯罪そのものの大胆なやり方である。

先に述べたラッキンコーヒーは、今年4月2日に社内調査の結果、何千万枚ものコーヒー飲用券を同社の会長や主要株主と関係がある会社に販売し、巨額の売り上げを水増ししていたのが発覚した。同社は、5月12日までに銭治亜CEOと劉剣COOを解任し、5月19日にナスダックから上場廃止の通告を受けた。

2011年にナスダックで上場廃止になった広告会社、チャイナ・メディア・エクスプレスは、プレスリリースで恒常的に現預金や売り上げの額を4.5倍から400倍に水増しし、顧客でもない大手多国籍企業2社を顧客であると宣伝していた。問題を指摘され、香港の会計事務所に調査が委託された際、中国人CEOは会計士に1000万人民元(約1億6400万円)の賄賂を渡して見逃してもらおうとした(会計士は拒否)。同社と中国人CEOは米国で詐欺等の有罪判決を受けた。

■会計監査の調査を拒めば上場を禁じる法案が可決

2012年に廃業した中国の旅行会社、ユニバーサル・トラベル・グループ(ニューヨーク証券取引所上場)は、大量の顧客を獲得しているとしていたオンライン予約サイトがまったく機能せず、売り上げや利益を水増しした目論見書を使って米国で株式を発行し、集めた4100万ドルを34の正体不明の相手に不正に送金し、監査人に取引先であると伝えていたホテルの住所は公衆便所だった。SECは同社の元CEOと元役員の中国人2人を詐欺の容疑で告発した。

2013年に倒産した、中国で家畜用飼料と豚を生産していたアグフィード・インダストリーズ(ナスダック上場)は、本物と投資家用の二重帳簿を作成して、豚の販売数をごまかして売り上げを2億3900万ドル水増しし、それが発覚したとき、それらの豚は死んだのだと嘘の説明をした。SECは同社を不正会計で告発し、同社は1800万ドルを払ってSECと和解した。

中国人民元紙幣
写真=iStock.com/travellinglight
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/travellinglight

こうした状況に業を煮やしたSECは、2018年に米国に上場している中国企業に注意するよう投資家に呼びかけた。また今年、米上下両院が中国企業を念頭に、米当局による会計監査の調査を3年連続で受け入れない企業に上場を禁じる法案をそれぞれ全会一致で可決し、トランプ大統領が署名するところである。

■「中国では嘘をつかれていることが前提だ」

中国企業で不正会計が頻発するのは、腐敗した土壌があるからだ。

日本公認会計士協会の「上場会社等における会計不正の動向(2020年度版)」によると、2016年3月期から2020年3月期までの間に、日本企業の海外子会社で発生した不正会計のうち、実に51.4%が中国におけるものだったという(中国以外のアジア24.3%、北米・南米10.8%、欧州8.1%、オセアニア2.7%、その他2.7%)。

筆者は2年前に取材で上海を訪れたが、地下鉄上海駅の地上出入口のところで何人ものブローカーが「ファーピャオ、ファーピャオ(領収証、領収証)」と叫んで、公然と領収証の売買をやっているのに驚かされた。

国際NGO、トランス・ペアレンシー・インターナショナルが毎年発表している「腐敗認識指数」(順位が低いほど腐敗度が高い)の2019年版では、中国は180カ国中80位という腐敗度の高い国だ(日本20位、米国23位)。政府や共産党の幹部やその親族がさまざまな利権を握り、地方幹部の不正も多く、民族的にもルールに頓着せず、生き馬の目を抜いて金を手にする人間が勝ち組とされる文化があるためだと思われる。

中国企業のカラ売りで知られるマディ・ウォーターズの創業者でCIO(Chief Investment Officer)のカーソン・ブロックは「中国では嘘をつかれていることが前提だ」と述べる。

■なぜ中国企業の不正が海外でバレるのか

中国企業の不正会計が発覚するのは、たいていがカラ売りファンドによる売り推奨がきっかけで、舞台は米国など海外がほとんどだ。これは、カラ売りをするには、会社が証券取引所に上場しており、株を借りられることが前提になるためだが、中国ではカラ売りがしばしば禁止され、貸株制度も未発達という事情がある。そのためカラ売りファンドは、米国、香港、シンガポールなどの市場に上場している中国企業をターゲットにする。

特に米国では、中国企業による裏口上場と米国の証券取引所の焦りという問題があった。

星条旗が掲げられたウォール街
写真=iStock.com/Sushiman
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sushiman

2000年代中頃から中国企業は、体力の弱った米国の上場企業を買収して上場ステータスを手に入れるリバース・テークオーバーで米国の証券市場に進出した。これを「裏口上場(back door listing)」と呼ぶ。先のチャイナ・メディア・エクスプレス、ユニバーサル・トラベル・グループ、アグフィード・インダストリーズの3社もすべて裏口上場である。

■経営苦の証券取引所が目をつぶっている

その後、米国の証券取引所(特に、新興企業向け市場のナスダック)自体も中国企業の上場に積極的に手を貸した。米国では、上場しなくてもベンチャーキャピタルから容易に資金を調達できるようになり、エンロン事件を契機に設けられたサーベンス・オクスリー法が上場企業に厳格な財務内容の開示や内部統制を求めたため、上場企業数が1996年のピーク時の8090社から半分程度に減った。

証券取引所はこれに頭を悩ませ(上場企業が減れば、取引所に入ってくる手数料が減少する)、それに代わるものとして、中国の新興企業に目を付けた。上場基準を米国企業以上にゆるやかにし、実態不明の中国企業でも目をつぶって上場させた。

その結果、今やアリババ集団を筆頭に、百度(バイドゥ)やJD.com(京東商城)など、今年10月時点で217社の中国企業が米国の取引所に上場している。中国企業の不正会計は、ある意味で米国が種をまいたものだ。

ただし、中国企業の不正会計は米国だけの話ではなく、世界的なものだ。例えばシンガポール取引所(SGX)では、ここ10年程、毎年10社前後の中国企業が上場廃止になっている。

■あのアリババ集団も「財務内容に疑問」

中国政府は、企業の財務情報を国家機密に近いものととらえ、関係書類を国外に持ち出すことを禁じている。また中国企業の監査をした中国の監査法人(4大会計事務所の現地事務所を含む)がどのような監査を行ったのか米SECが調査することも拒み続けてきた。そのため、今やトヨタの3倍超の時価総額を持つにいたったアリババ集団でさえ、財務や経営状況の開示は、あいまいで、グループの構造は複雑なままである。カーソン・ブロックは「2014年にアリババが米国で上場する前から、同社の財務内容には重大な疑問があった。しかし、誰も気に留めなかった」と話す。

問題のある中国企業を一般の投資家が知るための最も有力な情報源は、カラ売り専業ファンドのリポートだ。先に述べたチャイナ・メディア・エクスプレスもマディ・ウォーターズが、ユニバーサル・トラベル・グループはブロンテ・キャピタル(豪)とグラウカス・リサーチ(米)が、それぞれ売り推奨をしていた。

証券市場では、証券会社(投資銀行)もアナリスト・レポートを発行しているが、対象企業から引受やM&Aを受託できる可能性もあるので、売り推奨レポートは書きづらい。しかし、カラ売り専業ファンドは、そうしたしがらみはなく、徹底した調査を行い、名誉棄損訴訟覚悟で緻密なレポートを書く。中国企業に関する過去のカラ売り成功率はざっと見て6~7割という感じなので、少なくとも無視はできない存在だ。(つづく)

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黒木 亮(くろき・りょう)
作家
1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学大学院(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務し、国際協調融資、プロジェクト・ファイナンス、貿易金融、航空機ファイナンスなどを手がける。2000年、『トップ・レフト』でデビュー。主な作品に『巨大投資銀行』、『法服の王国』、『国家とハイエナ』など。ロンドン在住。

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(作家 黒木 亮)

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