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こんな学問領域はほかにない…製薬マネーにどっぷり浸かる「医学部の教授」を信じてはいけない

プレジデントオンライン / 2022年3月29日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

高級ホテルなどで行われる「医療系の学会」。この開催費用はどこから出ているのか。ジャーナリストの鳥集徹さんは「会員の会費に加えて、製薬会社からの協賛金が開催費に充てられている。ほかにも医学部の教授には、研究費や奨学寄附金といった名目で多額の資金が流れている。これほど特定の業界から利益供与を受けている学問領域は他にない」という――。

※本稿は、鳥集徹『医療ムラの不都合な真実』(宝島社)の一部を再編集したものです。

■製薬会社の「研究費・開発費」支出トップは109億円

製薬会社から医療機関や医師に入るお金には、いくつかの種類があります。まず大きいのが「研究費・開発費等」です。製薬会社は、大学病院やがんセンターといった基幹病院に依頼しなければ、治験を行うことができません。その治験にかかる費用や製造販売後の臨床試験・データ収集のための研究費を製薬会社が支払っています。これが大学病院や基幹病院の経営を支える大きな収入源の一つとなっています。

どの製薬会社がどれくらいお金を払っているのか見てみましょう。2018年の支払額1位は小野薬品工業(免疫チェックポイント阻害薬で有名なオプジーボの製造販売元)で、なんと約109億円もの巨費を支払っています。2位が第一三共で約79億円、3位が中外製薬で約69億円、4位が日本イーライリリーで約69億円、5位がベーリンガーインゲルハイムで約62億円です。

そしてもちろん、新型コロナワクチンの製造販売元も多額の研究費を支払っています。アストラゼネカ社は7位で約50億円、ファイザー社は13位で約33億円、武田薬品工業(モデルナ社のワクチンの日本での製造販売元)が約33億円です。

■交付金が減額されている国立大学にとって貴重な財源

独立系ジャーナリズム組織Tansa(旧・ワセダクロニクル)のページ「製薬会社別 支払いランキング」には、製薬協に所属している80社のデータが掲載されています。それをすべて足し合わせると約1407億円となります。これだけのお金が、全国の大学病院や基幹病院に入っているのです。

たとえば、医療界の頂点に立つ東京大学の2020年度の財務情報を見ると、医学部附属病院の経常収益699億円のうち、「受託研究等収益等」は44億円と6.3%を占めていました。これは、国から医学部附属病院に支給されている「運営費交付金」50億円(7.3%)に匹敵する金額です。決して少ないとは言えません。

実は国立大学は、国の直轄経営から2004年に独立行政法人となり、自主独立での経営努力が求められるようになりました。それにともなって、運営費交付金が年々減らされることになりました。大学の医学部附属病院にとって、もっとも大きい収入源は医業収入(診療報酬)ですが、それを増やすのにも限界があります。ですから、製薬会社からの受託研究費は、運営費交付金の減収を補うものとして、とても貴重なものなのです。

■「学術研究助成費」は薬を多く使う診療科に集中する

さて、次に大きいのが「学術研究助成費」です。これは学術研究の支援を目的に支払われるもので、主に「奨学寄附金」と「学会協賛金」などが含まれます。

2018年の1位は中外製薬で約27億円、2位が第一三共で約19億円、3位がエーザイで約16億円、4位が武田薬品工業で約16億円、5位がアステラス薬品で約15億円です。ワクチンメーカーは、ファイザー社が8位で約13億円、アストラゼネカ社が30位で約3億円。同じく80位までのデータをすべて足し合わせると、約336億円となりました。

奨学寄附金とは何でしょうか。これは主に大学医学部の医局(主に臨床系の診療科別の教室)に製薬会社が支払う、使い道が限定されていないお金です。どんなものに使われるかというと、教授秘書の給料や教室の物品購入費などに充てられています。

この奨学寄附金の支払先には、特徴があります。それは薬を多く使う診療科に、多額のお金が流れていることです。2015年、私は、医療と製薬マネーとの関係について書いた『新薬の罠』(文藝春秋)という著書を出版しました。その本に、2012年度の東大病院の診療科別の奨学寄附金受入額ランキングを載せたのですが、1位が循環器内科で1億902万円、2位が糖尿病・代謝内科で9629万円、3位が腎臓・内分泌内科で9043万円、4位が皮膚科・皮膚光線レーザー科で8300万円、5位が消化器内科で7259万円でした。

■同じ病院でも循環器内科とリハビリ科の差は17倍

一方、寄附額が少なかったのが、小児科(763万円)、緩和ケア診療部(745万円)、リハビリテーション科(639万円)などでした。なぜ、同じ東大病院なのに、こんなに格差があるのでしょうか。それは、新薬が多く使われるかどうかで、製薬会社によってお金を支払う価値が異なるからです。薬を使う必要がほとんどないリハビリ科にお金を払っても、あまり意味がありません。

リッチな診療科の多くは、高齢になるほど患者が増える生活習慣病を診ています。

循環器内科や腎臓・内分泌内科は、高血圧薬(降圧薬)やコレステロール低下薬(スタチン)をよく使う診療科です。また、糖尿病・代謝内科は、糖尿病治療薬(血糖降下薬)を使います。高血圧薬は70歳以上の約50%が使っており、コレステロール薬も約30%と非常に多くの人が飲んでいます。

■「診療ガイドライン」作成にかかわる医師を狙い撃ち

実は、東京大学医学部(大学院医学系研究科)の教授ともなると、各専門学会の理事長や幹部を務めることが多く、診療ガイドラインの作成にかかわることも少なくありません。とくに、患者のボリュームが大きい高血圧や高コレステロール血症(脂質異常症)、糖尿病といった病気は、その基準値が変わるだけで、薬を飲む人たちの数も大きく変わります。

たとえば、中高年の高血圧の基準(上の収縮期血圧)は、昔は「年齢+90」とされていました。この基準でいくと、50歳なら上が140まで、70歳なら160までは正常範囲内となります。しかし、高血圧の基準値は年々厳しくなり、年齢にかかわらず「上が140まで」となりました。それによって、高血圧の薬を飲む人が増えたのです。

また、製薬会社が期待するのは、従来の安い薬ではなく、薬価の高い新薬を多く使ってもらうことです。高血圧薬の場合、利尿薬やカルシウム拮抗薬などの古くからある安価な薬よりも、ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)などの比較的新しく薬価の高い薬を使ってもらったほうが儲けになります。

カラフルな薬
写真=iStock.com/kate_sept2004
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kate_sept2004

■学術集会の開催費はどこから出ているのか

つまり、製薬会社は、新薬を販売するのに有利な基準値や治療指針になることを期待して、診療ガイドラインを作成する専門医学会で大きな力を持っている教授の診療科に、奨学寄附金を支払うというわけなのです。

もう一つ、「学術研究助成費」として製薬会社が支払っているのが、「学会協賛金」です。各医学会は年に1回、各地の大学持ち回りで、大規模な「学術集会」を開きます。この学術集会は、有力な学会になるほど高級ホテルや大規模なコンベンションセンターなどで開かれるのですが、その費用はどこから出ているのでしょうか。

会員からの会費もあるのですが、製薬会社からの協賛金が開催費に充てられているのが実態です。

製薬会社は、タダでお金を払っているわけではありません。学術集会の開催プログラムを見ると、製薬会社が共催する「ランチョンセミナー」という項目があります。これは、無料のお弁当を食べながら、大学教授など有力な医師の話を聞くというものなのですが、ここで製薬会社が聞いてほしい新薬の情報などが話されます。

■医学界の幹部は製薬会社に「頭が上がらない」

また、会場には製薬会社や医療機器メーカーのブースが出ます。そこにパンフレットや医療機器の実物などが展示されています。つまり、お金やお弁当を出す代わりに、製薬会社は学術集会の会場で、学会に来た医師たちを対象としたプロモーションを行っているのです。

製薬会社は多くの社員を出して、学術集会の運営もサポートしています。さらには、夜のプログラムとして開かれるパーティの費用の一部も製薬会社が負担することがあります。かつては、医師たちにタクシーチケットが配られ、開催地の観光や宿泊の費用まで製薬会社が出すことがあったそうです(現在はガイドラインがつくられ、一定以上の利益供与は規制されています)。

このように、製薬業界の協力なくしては学術集会が開けないほど、各医学会は製薬マネーに依存しています。考えてみれば、これほど特定の業界から多額の利益供与を受けている学問領域は、他にないのではないでしょうか。たとえば、人文科学系や社会科学系の学術集会が、高級ホテルで行われているという話は聞いたことがありません。

医学会も、もっと質素な会場で、手弁当で行えばいいと思うのですが、いったん豪華にしたものを戻すことはできないのかもしれません。いずれにせよ、医学界の幹部たちも製薬会社にお世話になっているので、「頭が上がらない」のが実態だということです。

■大学教授や有名医師が新薬の販促セミナーで講師に

製薬会社が医療界に支払うお金の3つ目が「原稿執筆料等」です。新薬のパンフレットなどの原稿執筆料・医学監修料などのほか、セミナーの講師料、研究開発のコンサルタント料などの名目で、主に医師個人に対して支払われます。

2018年の1位は第一三共で約24億円、2位が中外製薬で約13億円、3位が大塚製薬で約13億円、4位が武田薬品工業で約11億4000万円、5位がMSDで約10億6000万円です。アストラゼネカ社は11位で約9億円、ファイザー社は14位で約8億円でした。

このお金は、どのように支払われるのでしょうか。製薬会社は新薬を出すと、その販売を促進するために、その薬に関連する学会や地域の医師会等との共催で、医師向けのセミナーを全国各地で開催します。この際に講師として呼ばれるのが、その分野で権威とされる大学教授や有名医師です。

■日本内科学会の理事は年間700万円超を稼ぐ

たとえば、降圧薬は日本高血圧学会、コレステロール低下薬は日本動脈硬化学会、糖尿病治療薬は日本糖尿病学会の幹部である大学教授や有名医師が、多くの場合、講師を務めます。一回あたりの講演が10万円だったとしても、各地で何度も講師を務めれば相当の収入となるでしょう。

加えて、新薬の研究開発にかかわればコンサルタント料、パンフレットに協力すれば原稿執筆料や監修料などが入るわけです。それが、1年間でどれくらいになるのか。

Tansaに「主要20学会別 理事平均受領額ランキング」が掲載されています。

それによると2018年、1位の日本内科学会がなんと約708万円、日本皮膚科学会が約583万円、3位の日本泌尿器科学会が約564万円、4位の日本眼科学会が約329万円、5位の日本整形外科学会が約212万円となっています。つまり、有力な学会の幹部になると、日本人の平均年収(約400万円)を超えるお金を、講師料やコンサルタント料、原稿料などだけで稼ぐことができるのです。

聴衆の前で演説をするビジネスマン
写真=iStock.com/baona
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/baona

■製薬会社からのお金で子どもの授業料を賄う人も

実は大学医学部の教員は、教授といえども一般病院の勤務医や開業医に比べると、決して給料が高いわけではありません。とくに私立大学の教授の年収は1000万円に届かないと聞いています。そのため、大学病院の医師は民間の医療機関で非常勤医師としてアルバイトすることが許されており、それによってはじめて勤務医や開業医並みの給料になります。

そうした懐事情のなかで、製薬会社が主催するセミナーでの講師料や研究協力に伴うコンサルタント料は、医学部教授たちにとって貴重な収入源と言えるでしょう。

新薬セミナーの講師をやりまくって、子息が通う私立大学医学部の高額な授業料を払ったと噂された医学部教授もいます。

私立大学医学部の6年間の授業料は安くて2000万円、高いところだと6000万円にもなりますから、製薬会社からのお金がありがたいものであるのは間違いありません。それくらい、医学部の教授たちは製薬マネーに依存しているのです。

■製薬マネーをもらった人の論文を信用できるか

なぜ、製薬会社から多額の資金提供を受けることが問題なのか。それは、臨床試験などの研究結果が、製薬会社の都合のいいように歪められるのではないかという疑念が生じるからです。

医学研究において、資金提供によって科学研究の結果が歪められると疑われる状況にあることを「利益相反(COI=Conflict Of Interest)」と言います。それらしい言葉で表現していますが、要は「癒着」です。

鳥集徹『医療ムラの不都合な真実』(宝島社)
鳥集徹『医療ムラの不都合な真実』(宝島社)

21世紀に入って、医学における利益相反が世界中で問題となり、臨床試験の結果などを医学誌に投稿する際には、COIを開示することがルールとなりました。医学論文を読むと、最後に、筆者たちと研究対象となっている医薬品に関連する製薬会社との間に、利害関係があるかどうかが書かれています。もし利害関係があったとしても、利益相反を開示していれば、一応問題はないとされています。

しかし、製薬会社から多額のお金を受け取っている人たちが著者となった論文の結論を、どれくらい信用していいものでしょうか。そもそも、製薬マネーを受け取っていないクリアで中立な立場の人が、医薬品の有効性や安全性をジャッジしなくてはならないと思うのですが、みなさんはどのように思われるでしょうか。

医学部の教授たちも「お金をもらっているからといって、臨床試験の結果に手心を加えることはない」と主張するでしょう。しかし、本当にそれを信用していいものなのでしょうか。

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鳥集 徹(とりだまり・とおる)
ジャーナリスト
1966年、兵庫県生まれ。同志社大学文学部社会学科新聞学専攻卒。同大学院文学研究科修士課程修了。会社員・出版社勤務等を経て、2004年から医療問題を中心にジャーナリストとして活動。タミフル寄附金問題やインプラント使い回し疑惑等でスクープを発表してきた。週刊誌、月刊誌に記事を寄稿している。15年に著書『新薬の罠 子宮頸がん、認知症…10兆円の闇』(文藝春秋)で、第4回日本医学ジャーナリスト協会賞大賞を受賞。他の著書に『がん検診を信じるな~「早期発見・早期治療」のウソ』(宝島社新書)、『医学部』(文春新書)、『東大医学部』(和田秀樹氏と共著、ブックマン社)などがある。

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(ジャーナリスト 鳥集 徹)

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