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「お客さんがいちばん上、次が従業員、底辺が僕や」餃子の王将・大東社長が周囲から愛されていたワケ

プレジデントオンライン / 2022年11月8日 9時15分

「餃子の王将」社長大東隆行氏〔写真=『なぜ、人は「餃子の王将」の行列に並ぶのか?』(プレジデント社)より〕

■「本社はボロボロでいい。建物には金をかけない」

10月28日、京都府警の山科署捜査本部は福岡刑務所で服役中の工藤会系組幹部を殺人、銃刀法違反の容疑で逮捕した。

大東隆行社長(当時)が撃たれたのは2013年12月19日。京都駅から車で20分ほど走ったところにある王将フードサービスの本社前だった。

「本社」と書いてあると、立派な建物を思い浮かべてしまうが、同社の本社は住宅街のなかにある倉庫を改築したような建物だ。来客は玄関で靴を脱ぎ、スリッパに履き替えて、入っていくのである。

それは「本社はボロボロでいい。建物には金をかけない」のが大東さんのポリシーだったからだ。

わたしは2009年から1年かけて『なぜ、人は「餃子の王将」の行列に並ぶのか?』(プレジデント社)という本を作った。

大東さんは自身の生い立ちや社長になるまでのことを初めて話してくれた。それまで彼は「テレビに出るのはええけど、本は絶対に嫌や」と言っていた。

そんな大東さんがなぜ本を出すことに同意したかと言えば、プレジデント社の汗ばかりかいている編集者が汗をかきながら何度も頭を下げたからだ。

■「王将の人間は、血の汗を流しながら働いてきた」

大東さんは「汗」に弱い。

「自分たち、餃子の王将の人間は血の汗を流し、血のしょんべんを垂らしながら働いてきた」からだ。

できあがった本には、CoCo壱番屋の創業者、宗次徳二さん、TSUTAYAをやっているカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の増田宗昭さん、日本画家の千住博さんが登場してくれた。

ココイチの宗次さんは「私の趣味は早起きと掃除」と言った。大東さんの趣味とまったく同じだ。

CCCの増田さんは「売れる商品とは顧客価値を考えたものだけ」と言っている。餃子の王将の料理はまさしくそれだ。

日本芸術院会員の千住博先生は「王将の餃子は2浪していた頃の希望の味だった」と語った。

3人が載るページを大東さんに見せたら、「ごっついことやったなあ。申し訳ないな。餃子の無料券を贈らんといかん」と頭をかいていた。

大東さんは「餃子の無料券」をくれる人だった。あの頃、わたしと汗ばかりかいている編集者は無料券を手に、友人知人を集めて餃子の王将へ行った。餃子はもちろんのこと、肉と玉子のいりつけ、カニ玉、天津飯(塩ダレ)、天津麺と玉子ばかりを汗をかきながら、食べた。

■「僕は自分のことを社長と思ったことないよ」

取材は朝の6時前から始まった。大東さんの出勤時間は午前6時30分だったが、それよりも早く来て、本社前の道路に水をまいて掃除していたからだ。水まきをしていると、近所の人たちが出てきて、大東さんに挨拶をしていた。撃たれた日は雨だったという。もし、晴れていたら、近所の人たちがいたから、犯人は凶行をためらったかもしれない。

王将フードサービスの社長だった大東隆行さんが殺害された京都市山科区の本社前=2022年10月28日午前、京都市山科区
写真=時事通信フォト
王将フードサービスの社長だった大東隆行さんが殺害された京都市山科区の本社前=2022年10月28日午前、京都市山科区 - 写真=時事通信フォト

大東さんは掃除の後、執務に取りかかる。とはいっても社長室にいることは少ない。昼の間は店舗を回っていた。時には自ら厨房に立って餃子を焼くこともあった。現場主義の社長だった。口癖はひとつ。

「僕は自分のことを社長と思ったことないよ」

以下はそんな大東さんの言葉である。

■オープンキッチン、店内調理にこだわる理由

王将は安いだけの店ではありません。手作りにこだわり、それぞれの店は店長の裁量に任す。現場主導の会社です。そして、店舗はオープンキッチンにして活気あふれる雰囲気にしている。

どれも創業の頃からやってきたことで、うち独自のやり方です。原点を重んじて努力してきた結果が今の不況の時代にも好成績となっているのでしょう。

例えば手作りへのこだわり。セントラルキッチンで調理した冷凍の食材を使うと味が似通ったものになってしまい、他の飲食チェーンと差別化ができなくなる。うちでは餃子のあん、皮、それから麺類の麺はセントラルキッチンから運んでいますが、あとは全部、店で作っています。(現在は餃子を工場で調製)肉はスライスしたものを運ぶけれど、野菜はキャベツでも玉ねぎでも、丸のままで店へ持っていく。

■なぜ王将は店ごとに違うメニューがあるのか

うちの従業員は全員、料理人や。よそさまとはそこが決定的に違う。冷凍したものを温めて出すのではなく、料理人がちゃんと料理を作る。だから、野菜は店で切る。カットした野菜は使いません。

王将は1号店から店については店長の自主性に任せている。だから、店によって出すメニューが違う。

よその外食チェーンは本部がこれを売りなさい、あれを売りなさいといった管理をする。

それで、数字が上がらないと、もっと頑張れ、と本部が店長を怒る。しかし、何でもかんでも本部が決めてしまったら、店長は工夫する余地がなくなる。それはよくない。うちでは店長が売れると思ったら和食でも洋食でもフランス料理でも何のメニューを出してもいい。僕は「かまへん、好きにやり」と言うだけ。ただし、売れないとダメだし、約40品目のグランドメニューは変えてはいけない。それ以外のところで創意工夫せよ、ということや。

■血の汗、血のしょんべんを流しながら働いた

人間には個性や持ち味がある。型にはめて管理したら、やる気がなくなる。うちの会社は個性派の集団で、いわば動物園みたいなもの。そんな個性豊かな従業員がついてきてくれるのも、僕が想像を絶するくらい働いてきたからだろうね。

僕は本部で夜中まで仕事をして、それから店に行って、従業員が休んでいる間に、朝までかかって掃除をしたことが数えきれんほどある。朝になると、店の鍋で湯を沸かして体を拭いた。そんなこと、なんぼでもあるよ。血の汗、血のしょんべんを流しながら働いた。うちの従業員はそれを見てる。だから、会社はまとまった。

お客さんが店で食べるときは雰囲気が必要や。包丁の音がして、鍋を振ってる料理人が目の前にいて、おいしそうなにおいが漂ってくるから食欲が湧く。だから、うちではオープンキッチンにしてる。

厨房で忙しく働く料理人たち
写真=iStock.com/beijingstory
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/beijingstory

■お客さんがいちばん上にいて、底辺が僕や

2000年のことだが、うちの会社は危機だった。470億円の負債を抱えて、つぶれるかどうかの瀬戸際や。僕はそれから3年間は財務の立て直しに精を出し、そして原点回帰を訴えた。店を改装してオープンキッチンを徹底し、作り置きやセントラルキッチンから加工済みのメニューを運んでくるのをやめさせた。そして、店長の自主性を重んじることにした。以来、売り上げが伸びるようになり、借金はほとんどなくなった。

結局、飲食業は人や。人がやる気になったら行動は変化する。経営者がやることはその動機づけだけ。よそさんは社長がいちばん上にいるピラミッド組織だが、うちはまったく逆。お客さんがいちばん上にいて、次が従業員、そして、業者やフランチャイズがいて、底辺にいるのが僕や。経営者は主役とは違います。主役はあくまでお客さん。

不況でも好調な会社はいくつかあります。ユニクロさん、ニトリさん、任天堂さん……。いずれも、いい会社です。うちはそうした会社と並べられますが、そこまで立派ではありませんし、また、大きく違うところがあるんです。

■上司は部下に仕事を伝え、導く伝道師であれ

それはユニクロさんや任天堂さんは商品力があれば、やっていける会社です。だが、王将は違う。いくら餃子がおいしくても、店が汚くて、料理が出てくるのが遅かったら、お客さんは「なんだ、この店は」と機嫌が悪くなる。接客や店の雰囲気がよくなければ、「おいしい餃子」とは思ってもらえんのです。

だから、店長の役目はおいしい料理を作ることだけではありません。自分で中華鍋を振りながら、接客をし、店の雰囲気を明るくする。そして部下の管理も行う。店長の仕事はたくさんある。

そこで、うちでは店長教育に重点を置いていますし、店長を大切にしています。

僕は店長を集めた合同会議では、「上司は部下に仕事を伝え、導く伝道師であれ」とつねづね言っています。怒鳴る上司は独裁者。部下は委縮する。管理するだけの上司は部下からなめられる。上司は、まずは接客でも何でも自分でやってみせること。率先垂範でなくてはならない。

■料理人のケンカの仲裁ばかりしていた

王将の第1号店を出したのは1967年、京都の四条大宮店でした。私はその店では鍋は振らんかった。創業者の義兄から、「王将はチェーンにする。お前は経営の勉強をしろ」と言われたからです。毎日、売り上げの数字を見て、経営の勉強をしました。最初の店を出してから7年間で、うちは直営が15店、フランチャイズが3店のチェーンになりました。ただし、あの頃は「チェーン」と呼べるような組織ではなかった。

店長はすべて雇ってきた料理人だったので、店ごとに味がバラバラで、統一感がなかった。しかも、料理人が辞めたら、店の味つけも変わってしまう。四条大宮店の餃子はおいしいけれど、山科店の餃子はまずい、などと言われていた。

それに、あの頃の料理人でしょう。荒くれもんばっかりや。客の前でもケンカをしたし、社員旅行には鉄の棒まで持っていって暴れよった。僕はケンカの仲裁ばかりしていたんや。でも、昔の料理人なんて、みんなそんな感じですよ。私はつくづく、自前の料理人を育てなきゃいかんと思ったもの。

■赤字のときもボーナスだけはちゃんと出した

人を大事にするとは、経営者の懐よりも、従業員の懐を考えるということ。ですから、うちはこれまで一度もボーナスを出さなかったことはない。赤字のときも、株主配当は取りやめたが、ボーナスはちゃんと出した。パートさんにも決算ボーナスを出すし、アルバイトさんにも大入袋をあげる。

人を育てるというのは、相手の立場になって考えるということやな。その反対が利己主義。自分さえよければいいと思う人。そういう人はうちでは絶対に店長になってほしくないね。自分だけがよければいいと思ってる人はすぐにわかる。周りの人はついていかないから。

接客もまた相手の気持ちになってサービスする。そして、今、王将の最大のテーマは接客力の強化にある。飲食業の評価は商品力だけでは決まらないから、どうしても接客力を高めていかなくてはならない。接客を向上させるため、外部から講師を呼んだり、店長を集めて合宿したりしては研修を重ねています。

■従業員が不機嫌な顔をするのがいちばんいかん

研修で、僕が強調するのは、お客さんに対する感謝の気持ちや。

「ああ、お客さんが来てくれた。やっと来てくれた」という気持ちが顔に出るような接客をしろと言っている。

おかげさまで、王将にはたくさんのお客さんが来てくれるようになりました。注文が立てこんで、忙しさに追いまくられることも多い。そんなふうに忙しくなってくると、つい、不機嫌な顔をする店長や従業員が出てくる。それがいちばんいかん。

そんな店で料理を食べるお客さんの身になってくださいな。不機嫌な従業員には声をかけにくいし、だいたい、料理がちっともおいしく感じられない。だから、僕は「初心を忘れるな。お客さんが来てくれたことをありがたいと思って仕事をしろ」と繰り返し、言ってる。

■「危険、汚い、きつい」の3K仕事と言われていた

社員が好きや。お客さんは大切や。

従業員には気持ちよく働いてもらいたい。私はいつもそう思っています。だからといって、甘えた気持ちになってはいかん。生産性を上げなくてはならんし、お客さんの目線を忘れてはいけない。

うちの従業員はまかないで、好きなものを作って食べてもいいことになってる。だからといって、焼きめしにエビを10匹も入れたり、ラーメンに焼き豚を10枚も載せたりして食べるようなことは絶対にやらせない。従業員がお客さんに出す以上のモノを作って食べてはいかん。お客さんにしてみたら、「この店の従業員はおかしい」となる。お客さんの目線をいつも感じていろ、ということです。

数年前まで、王将の仕事は「危険、汚い、きつい」の3Kだと言われた。だけど、みんなが一生懸命、鍋を振って、頑張ってやってきたから、お客さんが評価してくださるようになった。

うちの店長に必要な資質はいくつかあるが、しいて言えば行動力。数字とデータを読んで、「よし、うちの店は昼のサラリーマンが多い。定食をたくさん作ったろ」と思ったら、次の日から定食を並べる。知恵を集めて、すぐに行動を起こすこと。次は部下のことをわかる力。パートさんもアルバイトも含めて、自分のところにいる人の性格と行動を読む。それによって、仕事場の配置を考えていくことや。

たれにくぐらせた餃子
写真=iStock.com/w-stock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/w-stock

■人間の値打ちは、やさしさと愛嬌にある

最後が愛嬌。これは大事。店長いうんは、部下を引っ張っていく存在や。あれやってくれ、これやってくれ、と指示しなくてはならない。上に立って人に指図する人間は人間性を問われる。

「この人の言うことは信用できる。この人についていったら何かいいことがある」と部下に思わせなくてはいけない。部下のなかにファンをつくらなくてはいかん……。

そんなときに必要なのが愛嬌や。愛嬌のある人間は絶対、得をする。僕は人間の値打ちはやさしさと愛嬌にあると思う。

……こう言っていた大東さんこそ愛嬌のある人だった。いつも無料券をポケットに入れていて、相手が驚くくらいたくさん渡す。餃子の無料券をたくさんもらっても、ひとりでは絶対に食べきれない。そこで周りの人にあげることになる。

大東さんはそこまでわかっていて、「うちの店、どこでもいいから、食べてみてくれ」と言っていた。餃子や料理の自慢は聞いたことがなかった。客と従業員を大切にする人だった。人間と人間の命を大切にする経営者だった。

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野地 秩嘉(のじ・つねよし)
ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『京味物語』『ビートルズを呼んだ男』『トヨタ物語』(千住博解説、新潮文庫)、『名門再生 太平洋クラブ物語』(プレジデント社)など著書多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。旅の雑誌『ノジュール』(JTBパブリッシング)にて「ゴッホを巡る旅」を連載中。

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(ノンフィクション作家 野地 秩嘉)

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