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「35歳で妊娠率がガクッと落ちる説」を恐れなくていい…「40代前半の高い出産可能性」を示す衝撃データ

プレジデントオンライン / 2023年8月25日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/paulaphoto

35歳を境に妊娠・出産率が大きく低下するといわれる。本当なのか。ジャーナリストの海老原嗣生さんは「20代に比べると確率が低下することは間違いのない事実だ。しかしその低下幅は、多くの人が思っているほどではない。30歳の出産可能性を100とした場合、40代前半なら70か、もしくはそれ以上はあるというのが、多くの先行研究の示唆するところだ」という――。

■子どもを産むために生まれてくるのではない

当たり前ですが、女性は、子どもを産むために生まれてくるわけではありません。

女性は、結婚するため、キャリアを磨くために生まれて来るわけでもありません。

結婚も出産もキャリアもみな、生きていく過程の一選択肢にすぎないはずです。

それが、いつのまにか主客転倒し、結婚、家庭、子ども、キャリア、ともすれば夫の人生や国家、社会、経済が主語になってしまいます。

さすがに「お国のため」という感覚は消滅し、「夫の人生に尽くす」もどんどん薄れてきています。

一方で、キャリアや社会や経済のため、という感覚については、21世紀の現在でも何の後ろめたさもなく語られがちです。

そうした女性の人権を無視するような発言が、21世紀初頭に時代の流行となり、けっこう大きなムーブメントをつくることがありました。そうして生まれた言葉が、「婚活」や「妊活」でしょう。

いずれも、古くさい頭の男性諸氏からではなく、進歩的な女性から盛んに発せられた言葉です。

確かに、キャリアもお金も子どももすべてを手に入れ、偏差値的にいう「優れた生活」を送るためには、このムーブメントは有為なことだったかもしれません。

「初の女性総理候補」と目された野田聖子議員は、40歳を超えての不妊治療体験からこうおっしゃいました。

「もし(高齢での出産がこれほど大変だと)知っていたら」

野田さんは、そうした偏差値的に優れた生活をリードしたわけではありませんが、この言葉が、婚活・妊活ブームを煽った一面はあるはずです。

■婚活・妊活に追い立てられ、責められた女性たち

でも、晩婚、未婚、高齢出産は、「無知」からばかり起きたわけではありません。

たとえ加齢が出産にマイナスであることを知っていたとしても、どうにもならない人は多いでしょう。大好きで信頼していた男性に、ある日突然裏切られて、捨てられてしまった人、生まれつきナイーブで異性とうまく付き合えない人、ルッキズムはびこる社会の中で自信が持てない人等々、晩婚・未婚の理由は多彩です。にもかかわらず、まるで、無知だ努力不足だ高望みだと言わんばかりの、婚活・妊活の大合唱……。責められる彼女らはいったい、どんな思いをしていたでしょうか。

逆に、婚活・妊活に血道を上げるがあまり、楽しくもない夫婦生活を送って、お金とキャリアと子どもには恵まれるけれど、人生そのものは空虚なものになってしまった人も少なくないはずです。

何よりも、こうした「婚活」「妊活」の多くが女性にばかり課された十字架であり、男女の非対称性を象徴しているということに、どれほどの人が気づいているでしょうか。

こんな風に、時代が変わっても形を変えて、見事なまでに、男女の負担の非対称性が息づくさまは、もはや滑稽と言うしかないでしょう。

現代の女性は、30歳になると、社会の逆風の中で、心が冷え冷えとしてしまいます。

30代中盤にもなれば、心はささくれ立ってくるでしょう。そして、40歳が近づくと、絶望感まで芽生えだす……。

こんなお決まりコースを少しでも変えていくために、本稿でささやかな抵抗を試みたいと思います。

■40代の出産確率「8.8%」というミスリード

婚活・妊活ブームのさなか、NHKのクローズアップ現代が、その風潮を煽るような番組を作りました。2016年10月26日放送の「“老化”を止めたい女性たち~広がる卵子凍結の衝撃~」という回がそれです。

いわく、40歳になったら高度医療を使っても、採取した卵子から体外受精で子どもを授かれる確率は8.8%しかない、というもの。いわゆる「早く嫁げ」「早くつくれ」論の極め付きといえたでしょう。

体外受精
写真=iStock.com/Morsa Images
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Morsa Images

その反響は女性を“開明”させるというより、30歳を過ぎた女性への鞭打ちともいえるものでした。番組放映後、適齢期男児を持つ親御さんから、「30代の女性と結婚してはだめだ」「女として賞味期限切れだ」という心無い発言が相次いだと報道されています。

この「8.8%」という話が正しかったのなら、それでもまだ納得はできるのですが、データや結論までの構成には、多々疑問符がつく内容でした。

年齢とともに、受精・妊娠・出産の確率は下がり、障害の発生や不妊の比率が上がるのは、間違いのない事実です。それを否定する研究はまずないでしょう。

ただし。受精・妊娠・出産確率の低下は、思っているほどではありません。30歳の出産可能性を100とした場合、40代前半なら70か、もしくはそれ以上はあるというのが、多くの先行研究の示唆するところです。

この話については、後ほどじっくり説明しますが、その前になぜ、NHKは「8.8%」とミスリードしたのか、そしてなぜそれが無批判に広まってしまったのかを考えることにいたしましょう。

■40代出産の7割以上が自然妊娠

40歳を過ぎると8.8%しか出産できないという数字ですが、これは、体外授精1回当たりの出産に至る確率です。

まず、世の中には、不妊治療などせず、自然妊娠している40代が多々いるということ。いや、不妊治療者よりも、自然妊娠のほうが圧倒的に多いのです。直近2020年、日本では年間4万8517人の人が40歳を超えて出産をしています。そのうち、不妊治療患者は1万3235人。残りの3万5282人は自然妊娠。つまり、7割以上が自然妊娠なのです。

【図表1】40歳以上で第一子を出産した著名人
図表=筆者作成

出産に至る確率「8.8%」は、全体数でいえば3割弱の不妊治療者たちの確率を言ったにすぎません。

■実相とは異なるトンデモ論

続いて、体外受精治療においても、「8.8%」しか子どもが持てないというわけではないことを書いておきます。これはあくまでも、1回の治療で出産に至る確率にすぎません。何回も治療を行うことで、その確率は当然、累積していきます。

さらに言えば、40歳だと体外受精1回当たり「8.8%」の出産率というのも、実勢より相当低く見積もられた数字でしょう。これから不妊治療を始める人たちは、それより相当高い出産率になるはずです。

なぜなら、こうした治療実績には、30代の頃から不妊治療を続けて、それでも子どもができず40歳になった比較的症状が重い患者の割合が高くなっているからです。軽度の不妊症患者であれば、早々に治療に成功し出産するため、そこで治療は終了いたします。そのため、軽症者は途中で抜けていき、40歳以降でも不妊治療を続けている人は、重症者の割合が高まっているからです。今まで妊活をしていなかった人が、40代になって不妊治療に臨んだ場合、ここまで確率が低くはならないと考えられます。

加えて、さらにまだ、問題があるのです。こうした患者さんたちが、治療とは別に、通常の夫婦生活の中で自然妊娠し、治療を終了させる割合がけっこうあるのです。出産確率8.8%というのは、こうした「勝ち抜け」組をカウントしない一次資料の単回治療においての数字です。

どうですか? 「8.8%」などという話は全く実相とは異なる一種のトンデモ論であり、いたずらに焦燥感を煽る、行きすぎた内容だとお分かりいただけたのではありませんか。

■40代前半の不妊治療者の出産率は5割

概略がわかったところで、詳細なデータを見ていくことにいたしましょう。

厚生労働省の「不妊に悩む方への特定治療支援事業等のあり方に関する検討会」(2013年)にて、きちんとしたデータが示されています。

① 不妊治療を30代から続けていた人を除き、「40代ではじめて治療開始した人」を調査対象とする。

② 1回の人工受精ではなく、何度も治療を繰り返した結果、出産できた人はどのくらいになったか、を調べる。

③ 途中で治療を放棄した人(少なからず自然妊娠の可能性がある)を除き、きちんと治療を続けた場合の数値を出す。

結果は図表2の通りとなります。ちなみに、この数字は、同検討会に出席していた元JISART(日本生殖補助医療標準化機関)理事長でミオ・ファティリティ・クリニック院長の見尾保幸先生の治療データを基に作成されています。

【図表2】40代の不妊治療実績(累積成果)
出典=厚生労働省「不妊に悩む方への特定治療支援事業等のあり方に関する検討会」/見尾保幸氏データ(補正)は、「中途放棄者」を除いて算出。

このデータで見ると、治療継続患者のうち、妊娠に成功した人は55.3%、出産まで至った人は32%となっています。ちなみに、2014年版の治療データでは数字はさらに伸びて、40代前半の妊娠率は73.1%、出産に至る確率も5割に近い数字となっています。

ただし、再度言いますが、これはあくまで「不妊治療を受けている人」の出産確率です。

これとは別に、自然妊娠で出産に至った人が、この3倍近くもいるのです。

■40歳女性の7割以上が自然妊娠での出産が可能

では、果たして40代の女性は、30代と比べてどの程度、妊孕力(子どもを産める力)があるのでしょうか。過去、大掛かりな調査研究がいくつも実施されているので、その状況を振り返ってみましょう。

大規模な調査研究として古いものでは、不妊治療などがほぼなかった1963年にフランスのアンリ(Henry)が行ったものがあります。これは、夫と妻を合わせたカップルで見た不妊割合なのですが、20歳3%→25歳5%→30歳8%→35歳15%→40歳32%と加齢に応じて確かに数値は上昇しています(出生力調査なので、流産した場合も不妊に入る)。ただし、これは夫婦での不妊割合のため、この中には夫側のみの不妊原因も含まれています。少なく見積もって4分の1は不妊原因が夫側のみにあると言われるので、それを差し引くと、40歳女性の不妊率は25%程度でしょう。

不妊率25%という数字は、20代の3%と比べて跳ね上がっていると見て取れますが、一方でこの25%を引いた75%の女性は40歳でも出産可能といえます。不妊治療がほとんどなかった1960年代でも、7割以上の女性が普通に出産できるというこの数値は、以後の調査・研究でもたびたび示唆されるところとなります。

【図表3】自然出生力集団における既婚女性の年齢別、夫婦の不妊割合(%)
出所=Henry,Louis(1965)“French Statistical Research in Natural Fertility,”p.338.

■アメリカの研究でも「40代前半女性の不妊率は28.7%」

続いて、アメリカのメンケン(Menken)たちの1986年の報告を見ていきましょう。メンケンたちは、1965年の全米出生力調査(The National Fertility Survey)と、1976年、1982年の全米家族調査(the National Surveys of Family Growth)の3つの調査結果から、不妊の割合を導いています。

【図表4】結婚している女性の不妊症の割合
出所=Menken et al.(1986),“Age and Infertility,”p.1392

この中では不妊治療を受けた人や避妊中の人を徐外しているため(その中にも不妊の人はいる)、不妊の割合を示す数値に多少の問題点が残るのですが、おおよその目安となるのは確かです。

この調査によると、20代前半の女性の不妊率は7.0%、30代前半は14.6%、30代後半は21.9%となり、40代前半には28.7%となっています。こちらでも、40代前半の71.3%が不妊ではないという数値が示されていますね。

ちなみに、ダメ押し的な傍証も一つ上げておきます。2022年12月19日のNHK放送「あさイチ」は、2020年の40代妊娠中絶件数は1万4522件にも上る(厚生労働省「衛生行政報告例」)ことを取り上げました。これは10代よりも多い数字だそうです。「40代は妊娠など無理」といった誤解から避妊を怠り、こうした「思わぬ妊娠」が生まれていると、番組では示唆していました。先ほど示した通り同年における、40代で不妊治療から出産した子どもの数は1万3235人です。「中絶件数」がそれを上回っているのは皮肉なことでもあり、またそれだけ、40代一般の妊孕力が高いということでもあるでしょう。

■現代医療を加えると出産可能性は9割か

ここまでは、不妊治療がほとんどなかった時代の「出産する力」を調べてきました。複数の調査研究より、それは、40代前半でも7割以上の人が持ちうるということはお分かりいただけたでしょう。

椅子に座っている妊婦
写真=iStock.com/west
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/west

今日では、これに高度な不妊治療が加わります。40代前半の不妊症患者(全体の3割弱)に不妊治療を施した場合、前述の厚労省2014年データにある通り、彼女らのうちの5割が出産に至るとすると、最終的には85%以上の人が子どもを授かれることになるでしょう。

現在は、2014年時点よりも各段に不妊治療が進歩しています。40代前半であるならば、女性が希望した場合、9割以上が子どもを授かれるというのが本当のところなのではないでしょうか。

ただ、それでも20代に比べれば40代前半は出産確率が落ちていることは確かです。「大丈夫」という安心論を安易に広めるのは憚られるところでしょう。

そこで一つ、近い将来の政策課題のヒントを上げておきたいと思います。

今までの調査研究から導き出される結論は、40代前半であれば、7割の女性は自然妊娠で出産ができるということです。一方、不妊患者の率に関しては、20代なら数%のものが、30代中盤だと15%、40代前半だと30%弱へと上がっていく。これはつまり、「不妊可能性のある人は、加齢とともに劇的に出産確率が下がる」ということではないでしょうか。

もしそうだとするなら、相当早い段階で、自分は「不妊系に入るかどうか」を検査することが大切だと言えるでしょう。ところが、現状広く普及しているAMH検査やFSH法などの不妊検査は、確度に大いなる問題があります。そこで、不妊検査法の早急なる開発・普及を政策課題にすべきでしょう。

昨今では、遺伝子その他、さまざまな不妊予測因子が見えてきました。日本政府としてはここに政策投資をし、いち早く、リーズナブルに検査を受けられるようにすべきです。

もちろん、こうした検査を健康診断等で「強制」するのはいけません。あくまでも希望者に限定し、そして、女性だけでなく男性の不妊検査も実施すべきと考えています。

この話については、回を改めてまた、詳細を書かせていただきます。

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海老原 嗣生(えびはら・つぐお)
雇用ジャーナリスト
1964年生まれ。大手メーカーを経て、リクルート人材センター(現リクルートエージェント)入社。広告制作、新規事業企画、人事制度設計などに携わった後、リクルートワークス研究所へ出向、「Works」編集長に。専門は、人材マネジメント、経営マネジメント論など。2008年に、HRコンサルティング会社、ニッチモを立ち上げ、 代表取締役に就任。リクルートエージェント社フェローとして、同社発行の人事・経営誌「HRmics」の編集長を務める。週刊「モーニング」(講談社)に連載され、ドラマ化もされた(テレビ朝日系)漫画、『エンゼルバンク』の“カリスマ転職代理人、海老沢康生”のモデル。著書に『雇用の常識「本当に見えるウソ」』、『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと』(ともにプレジデント社)、『学歴の耐えられない軽さ』『課長になったらクビにはならない』(ともに朝日新聞出版)、『「若者はかわいそう」論のウソ』(扶桑社新書)などがある。

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(雇用ジャーナリスト 海老原 嗣生)

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