ただの「創価学会の三代目会長」ではない…池田大作氏が「カリスマ的指導者」として絶対視されたワケ
プレジデントオンライン / 2023年11月25日 9時15分
■日本仏教史で行基や蓮如と並ぶ宗教指導者
創価学会の池田大作名誉会長は、一般国民にその素顔をあまり知られないまま亡くなったが、戦後日本で最重要人物の一人だった。
傑出した宗教家であり、思想家、著作家、教育者としても成功し、世界的な文化活動や平和運動の支援者であり、政界の陰の実力者で日中国交回復の功労者であった。
宗教指導者としては、日本仏教史で、日蓮や親鸞といった教祖を別にすると、聖徳太子、行基、蓮如と並ぶ存在だといって差し支えないと私は考えている。
私の先祖は、滋賀県守山市の門徒で、近在に住んで布教していた蓮如上人を支えていたようだ。戦国時代にそれまで貴族や武士のものだった仏教を大衆化し、本願寺を発展させ、織田信長すら震撼(しんかん)させる勢力に育てた蓮如と池田氏の功績は似ている。
そう私が書いたのを見て、宗教家でなく大衆動員に長けた俗物と指摘した論者がいたが、教団を発展させるリーダーは学識だけでなく、優れた組織の運営者であり、カリスマ的な大衆人気が必須だ。
■カリスマ的大衆性を兼ね備えた文学青年
創価学会は2015年、学会員が読む「勤行要典」を改訂して、初代牧口常三郎氏、二代目戸田城聖氏と三代目池田大作氏の名を入れ、創価学会が今後も池田路線を踏襲することを明確化した。
小学校教員だった牧口氏は、1930年に「創価教育学会」を創立し、やがて、日蓮正宗の信徒組織としたが、1943年に逮捕され獄死した。
二代目の戸田氏は、戦前は教育出版社経営で成功していた。戦後の1952年には宗教法人「創価学会」とし、「折伏大行進」という大規模な布教を展開した。
池田大作氏は、戸田氏の出版社で働いていた有能なセールスマンで、教団では布教の名人だった。貧困がゆえに上級学校では学べなかったが、寸暇を惜しんで読書に励み、すぐれた文章や詩を書く文才もあったし、音楽や写真など多才な人だ。
大集会での演説も抜群で、扇子を持って踊るなど大衆を鼓舞することに長けていた。一方で、外部のインテリには聞き上手で好感の持てる紳士として振る舞ったし、それは世界の知識人との対談で生かされた。抜群の記憶力も生かして一般会員に暖かい言葉をかけることでの人心掌握も得意だった。
数百世帯といわれた小組織を発展させたのは戸田氏だが、池田時代になってからはさらに3~4倍になったようだ。
■選挙の時に公明党の存在感が増す理由
政界への進出も、戸田氏が旗振り役となり創価学会の内部組織が差配していたのを、池田氏が1961年に公明政治連盟と改組し、1964年に公明党として分離した。
信者数は公明党の得票数や創価学会の行事参加者などから数百万人とみられる。日本人の数パーセントだが、選挙になると公明党の比例票が12パーセント程度となるのは、学会員の投票率が高いのが主因だ。
戸田氏は諸葛孔明に心酔しており、池田氏も影響を受け、参謀的センスはそのあたりからも磨かれた。世間からは池田氏は強引な人だと見られがちだが、謝罪するときは潔く、損切りも大胆だし、不祥事を起こした幹部や議員は早めに処分した。一方、組織の方向転換が必要な時には一般会員の意見をよく聞き、無理をしないで時間をかけて行った。
■池田氏を悩ませた2つの問題
池田氏を悩ませたのは、日蓮正宗(日蓮宗の一派)との関係だ。創価学会は日蓮正宗の信徒団体として出発し、信徒の9割以上が学会員になった。大石寺に正本堂を建立したときは、寄付の98%が学会員だった(1965年に募金活動し1972年完成)。
しかし、創価学会が意見を言っても、宗門の僧侶たちは創価学会を下部組織として扱って耳を貸さない。とくに、国立戒壇設置にこだわり、創価学会はこの頃に完成した大石寺正本堂で十分だとした。
あるいは、池田氏がベートーベンの第九交響曲を称揚するのを宗門は非難したが、世界宗教への道を歩もうとすれば他文化や他宗教との融和は不可欠だった。結局、1991年に宗門が創価学会を破門し、その後、宗門によって正本堂も取り壊された。この経緯でも池田氏はかなり妥協し、無理をしなかった。
もう一つ、池田氏を苦しめたのが1969年の言論出版妨害事件だ。衆院選直前に発売予告された政治評論家・藤原弘達の著書『創価学会を斬る』は、「宗教は大衆を麻痺させる阿片的機能を果たした」「創価学会は狂信者の群れ」と批判し、とくに婦人部の女性たちを侮辱する内容だった。
そこで、創価学会と公明党は出版時期の中止・変更や、表現を穏健に書き直すことを求めたが、田中角栄氏による仲介を公明党幹部が働きかけたことが大問題となり、共産党も加勢して創価学会・公明党は窮地に立った。
■妨害事件を反省し、強引な体質を改善させた
もちろん、出版妨害はよろしくなかったが、藤原氏の書籍の内容も、今日なら名誉毀損(きそん)で訴えられたら苦しいだろう。また、選挙直前の出版は、選挙妨害だという批判もあったし、現在では藤原氏と公安関係者の格別に密接な関係が指摘されており、藤原氏が「正義の味方」というわけではない。
だが、池田氏は非を認めて謝罪し、公明党との政教分離を徹底した。公明党を創立して創価学会と組織を分けたこと自体が政教分離のためだから、この事件で政教分離に追い込まれたというのは正しくないが、この時期に、池田が組織拡大のためなら強引さが許されがちだった創価学会や公明党の体質を思い切って改めたことは、長い目で見て賢明だった。
同時に、他宗教を「邪教」と言わないとか、会員が生活に困窮するような無理な資金協力をさせないようにするといった配慮が徹底されている。
拙著『日本の政治「解体新書」 世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱』(小学館新書)や、「『日本一選挙に強い宗教団体』はどうなるのか…創価学会が直面している『時代の変化』という大問題」という記事でも論じた通り、会員は聖教新聞を購読し、年に一人1万円程度の財務を銀行口座に振り込むのが標準だが、生活保護受給者などは払わなくてもいいことになっている。経済的負担が小さいのも、創価学会が成長し、勢力を維持している理由のひとつだ。
■政教分離で批判していた自民党と手を結ぶ
池田氏は政界でも存在感を発揮した。田中角栄氏と日中国交回復で協力しつつも、社公民路線を基調とし、その延長で細川連立政権に参加したり、新進党の結党に加わったりした。
この時期、旧統一教会問題から目をそらす目的もあったようにも見えるが、自民党が政教分離をネタに創価学会を攻撃し、創価学会が犯罪に絡んでいるとか、池田氏が愛人を国会議員にしたといった週刊誌報道を機関誌「自由新報」に転載したりした。
しかし、この週刊誌報道は裁判で完敗し、窮地に立った自民党が全面謝罪したことが、2000年に公明党が政権参加する道を開いた。政治的な窮地を巧みに前進につなげていったのは、池田氏の手腕に拠るところが大きい。
■この13年は「ポスト池田時代」への準備時間
だが、自公政権が成立したのち、池田氏は体力の衰えが目立ち、2010年の訪米のあとは、公衆の面前に出てこなくなり、ときおり写真や声明が発表されるだけになった。
影武者という突飛な噂も流れた一方、佐藤優氏のように、自分がいなくても組織が動くよう、死後へ向けて戦略を練り、教えや価値観をテキスト化し、組織のシステムを整えるために「意図的に姿を見せなかった」と見る人もいる。
いずれにしろ、創価学会がこの13年間に、教義の微修正などして、ポスト池田時代に軟着陸できるよう時間を有効に使ったことは間違いない。
これまでやや消極的だったSNSでも、池田氏の死去が発表された11月18日の創立記念日に創価学会広報室のX(旧Twitter)が開設された。また、池田氏の創価学会葬が営まれた11月23日、公明党の山口那津男代表は葬儀に出席せずに訪中して政教分離を印象づけた。
会員が喪に服して悲しむのでなく、希望を持って新しい時代のスタートを切る方向に誘導しているようだ。さしあたり次期総選挙は池田氏の弔い合戦として戦うのだろう。
■勢力衰退を食い止めるには、攻めの姿勢が必要
近年、「ポスト池田時代」を円滑に迎えたいということか、摩擦回避路線がやや目立っているような気がする。しかし、これからは攻めの姿勢も必要になってくるだろう。
国内政局では、自民党の保守派は安倍晋三元首相の死後、安直に自公連立の解消を言い出している。また、別の機会に分析したいが、安倍氏が「小選挙区での自民票の約2割が創価学会票だ」と回顧録で語っていたほど会員票の存在感は大きく、自公連立をやめたら、自民党は恒常的には政権を維持できないだろうし、憲法改正の国民投票で勝てる可能性はほぼなくなる。
一方、ほかの宗教ほどではないが、創価学会の会員数と公明党への投票が漸減傾向なのも確かだ。伝統仏教で平和運動を展開したい僧侶などが共産党などに流れがちであるのを、受け皿をつくり吸収する工夫をすべきだろう。
■国民の批判にさらされている宗教界をどうするか
宗教界全体で対処すべき問題での共闘もあってしかるべきだ。池田氏の弔問で岸田首相が創価学会本部を訪れたら、政教分離に反し憲法上問題という批判があった。だが、それが憲法違反なら公職者が寺社へ行くことも同じで、伊勢神宮への参拝もできなくなる。
旧統一教会問題以来、宗教一般への攻撃が巷にあふれているなかで、創価学会や公明党が宗教界をとりまとめる立場に立つべき時が来ていると思う。
自公協力では、公明党も第九条改正についてどこまで妥協できるかを明確化せねばなるまい。中韓に対しては融和路線だったが、自公連立の時代しか知らない若い人たちからは、中国などの反日ぶりに我慢できない会員も増えている。
逆に、「戦争ほど残酷なものはない」と信心の教科書とされる『人間革命』の冒頭で言い切った池田氏の気持ちを継ぐとしたら、ガザの惨状をみても極端な親米外交を支持し続けるのかという疑問も生まれてしかるべきだ。
また、中国においては、現在は布教という形でなく池田思想の研究といったかたちだが、いずれ信教の自由化が進んだら、大躍進できる可能性がある。親中で政治権力と共存できる実績を日本国内で持っていることは強い。
また、イスラムと対立する欧米社会の混乱のなかで、仏教のよさに理解が進む可能性もあり。池田氏が念願した世界宗教へ向けて、今こそ大きく飛躍すべき時なのかもしれない。
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徳島文理大学教授、評論家
1951年、滋賀県生まれ。東京大学法学部卒業。通商産業省(現経済産業省)入省。フランスの国立行政学院(ENA)留学。北西アジア課長(中国・韓国・インド担当)、大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを歴任後、現在、徳島文理大学教授、国士舘大学大学院客員教授を務め、作家、評論家としてテレビなどでも活躍中。著著に『令和太閤記 寧々の戦国日記』(ワニブックス、八幡衣代と共著)、『日本史が面白くなる47都道府県県庁所在地誕生の謎』(光文社知恵の森文庫)、『日本の総理大臣大全』(プレジデント社)、『日本の政治「解体新書」 世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱』(小学館新書)など。
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(徳島文理大学教授、評論家 八幡 和郎)
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