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「若いほうが美しい」は大間違い…坂東眞理子が「高齢者は今すぐに捨てるべき」と説く残念な自意識

プレジデントオンライン / 2024年5月4日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kimberrywood

年齢を重ねても活き活きと毎日を過ごすにはどうすればいいか。昭和女子大学総長の坂東眞理子さんは「年齢を重ねたことによって、人間関係の調整力、表現力、人間性への洞察など得られるものもたくさんあるが、新しいスキルや情報は若い人のほうがよく知っているかもしれない。『知らないと思われるのは恥ずかしい』『こんなことで若い人をわずらわせては申し訳ない』は謙虚なのではなく、『バカにされたくない』という自意識が高すぎる。何より大事なのは心の持ちようである」という――。

※本稿は、坂東眞理子『与える人 「小さな利他」で幸福の種をまく』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

■肌の美しい10代の少女、ふっくらとした20代の女性は別の魅力

せっかく長生きできるようになったのに、年を取るのは衰えること、いままでできたことができなくなること、これまで持っていたものを失うことだ、と考える人がたくさんいます。

たしかに多くのオリンピックやプロのスポーツ選手は年齢を重ねると「体力の限界」で引退します。種目によりますが、瞬発力が要求される短距離陸上選手、柔軟性を要求される体操やフィギュアスケートなどの選手は、10代から活躍して30歳前に引退していきます。

対してゴルフやアーチェリーなど、技と経験が要求される種目では40~50代でも活躍する選手がたくさんいます。

スタイルや美貌は、年とともに衰えていくとされています。私の故郷に「風の盆」という優雅な民謡踊りがありますが、男踊りで一番かっこいいのは、贅肉がなくすっきりしたスタイルの高校生の男の子だそうです。

女の子でも10代の少女たちの匂うような肌の美しさはその年代にしかありません。20代からは男女ともふっくらとしてきますが、それを「若さを失った」とマイナスに評価するか、女らしい別の魅力がついてきたと評価するかによって違います。

一方で、70代でも美しい踊りを続けておられる森下洋子さんのようなバレエダンサーもいらっしゃいます。日本舞踊や能、歌舞伎などではみずみずしい若手とともに、経験と技を積み重ねた方たちが60代、70代でもたくさん活躍されています。

■判断力、包容力、洞察力…年を取ってから伸びる能力

俳優の世界でも、若手が次々と登場するなかで、ベテランでも魅力を保ち続けている方はめずらしくありません。

若いほうが絶対に美しい、魅力的とはいえません。能の世阿弥がいっているように、若いときは「時分の花」がありますが、それがなくなった中高齢期に「真の花」を咲かせる方は多いのです。

一緒にコーヒを飲んで談笑する母と娘
写真=iStock.com/JGalione
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JGalione

つまり、日本は美しさについては「若さ」に価値を置いてきましたが、そろそろ見直すべき時期になっているのだと思います。

人間の能力が試験の成績や偏差値だけでは測れないように、人間の総合的な価値も、体力や見た目だけでは測れないものなのです。

生物としての若さだけでなく、これまでの経験や磨いてきた技を評価される分野もあります。それには評価する「目利き」が必要とされるのです。目利きになるには経験が大事です。

知的能力でも集中力や記憶力のように、若い時期のほうが優れている分野もありますが、判断力、包容力、洞察力、類推力、共感力のように、年を取ってから伸びる能力もあります。

創造性も若いころのほうが豊かだといわれますが、ゼロから生み出す創造だけでなく、スマートフォンのように、すでに存在していた電話と音楽、動画などを結びつけて新たなものを創造するケースもあります。

そちらの創造力のほうが、現実には社会に広く受け入れられています。

■年を取ると「そうだったのか」と知ることがたくさんある

そうはいっても、老化とともに細胞が新陳代謝の力を失うことは事実です。原因は活性酸素など有害なものの蓄積とか、染色体の末端にあって細胞分裂をつかさどる「テロメア」の枯渇など、いろいろ研究されていますが、まだ特定されていません。

コロナパンデミックの時期も「高齢者は免疫力が衰えているから重症化しやすい」と警戒が呼びかけられました。

でもその一方で、年を取るからこそ身につく力もあるのです。1997年、作家で芸術家の赤瀬川原平さんが「老人力」を提唱して、「もの忘れも老人力がついている証拠」といって話題になりました。

スポーツや芸術の面だけでなく、社会や職業生活でもいろいろな能力があって、それぞれピークを迎える時期は異なります。

新しいスキルや情報については若い人のほうがよく知っているかもしれませんが、人間関係の調整力、表現力、人間性への洞察など、年齢を重ねたことによって得られるものもたくさんあるのです。

私も昔は、どうしてあの人が私に意地悪だったのかわからなくて、きょとんとしていたことがありますが、当時の相手の立場や苦しかった状況がいまになってわかるようになりました。

このように、年齢を重ねると、若いときには知らなかったことを「そうだったのか」と知ることが、たくさんあります。

■「バカにされたくないとこだわる自意識」を捨てる

できることも増えています。私たちの世代では人生の半ばを過ぎてからパソコンが職場に入ってきましたが、いまでは私にも生活上欠かせない道具になっています。

必要に迫られた結果、インターネット検索、パワーポイントづくりなど、自分には無理かなと思っていたこともこなせるようになっています。この1、2年の間に、遅ればせながらQRコードで予約を取ることもできるようになりました。

30歳のときの私、40歳のときの私はできなかったけれどいまはできる、知っていることがたくさんあります。多くの60代や70代の人は、私と同じように感じているでしょう。

社会生活で必要になっているスキルは、若い人や専門家に教えてもらいながら身につけなければなりません。あきらめて試してもみない、教えてももらわない、練習もしないという態度では、時代に適応する最低限のスキルも身につきません。

「知らないと思われるのは恥ずかしい」「こんなことで若い人をわずらわせては申し訳ない」というのは“謙虚”なのではなく、バカにされたくないとこだわる自意識が高すぎるせいなのです。

■互いに「応援する、感心する、褒める」関係をつくる

何より大事なのは心の持ちようです。年を取ると、たしかにもの覚えが悪くなるとか、重いものが持てない、速く走れない、両方の指でスマホに入力できないなど、できないことも増えてきます。

しかし周囲と比べるのではなく、過去の自分と比べてみるのです。

若いときにはできたのに……これもできない、あれも無理だ、と数え立てていては、気持ちが沈んでいくだけです。そうではなく、できるようになったことを意識的に数えてみるのです。「前はわからなかったのに、こんなに新しいことがわかるようになった」と、自分で自分を励ましましょう。

自分自身で褒めるのが難しかったら、褒めてくれる人とつきあうことです。そして自分も人の進歩を認め、応援する、感心する、褒めることを相互交換するのです。

坂東眞理子『与える人 「小さな利他」で幸福の種をまく』(三笠書房)
坂東眞理子『与える人 「小さな利他」で幸福の種をまく』(三笠書房)

そして、老眼になったら眼鏡をかけるように、聴力が落ちたら補聴器をつける、歩くのがおぼつかなくなったら杖を突くように、使えるものを十分に使いこなして、社会生活を続けていくことが大事です。恥ずかしいという気持ちにとらわれてはいけません。

「あれもできない」「これもできなくなった」と引き算をして、「人に迷惑をかけないでひっそり消えていくのが美しい」という『徒然草』の時代のような美意識や人生観から解放されなければなりません。

「自分はこれができるようになった」「人の気持ちや社会のあり方がわかるようになった」と足し算で考えて、自己肯定感を高めていくようにしましょう。

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坂東 眞理子(ばんどう・まりこ)
昭和女子大学総長
1946年、富山県生まれ。東京大学卒業後、総理府(現内閣府)に入省。内閣総理大臣官房男女共同参画室長。埼玉県副知事。在オーストラリア連邦ブリスベン日本国総領事。2001年、内閣府初代男女共同参画局長を務め、2003年に退官。2004年、昭和女子大学教授、同大学女性文化研究所長。2007年に同大学学長、2014年理事長、2016年総長。2023年に理事長退任。著書に300万部を超えるベストセラーの『女性の品格』(PHP研究所)のほか『70歳のたしなみ』(小学館)など多数。

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(昭和女子大学総長 坂東 眞理子)

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