引っ越し先や出産病院を完全極秘にしても必ず襲撃される…義母と義兄が嫁の"住所"を割り出した怖すぎる手口
プレジデントオンライン / 2024年5月4日 10時16分
■祖父の死
無理やり宗教に勧誘しようとする義母、義兄をめぐって大喧嘩して以降、関西地方在住の行田優芽子さん(仮名・40代)は夫を避け続けていた。そんな時、母親からの電話で父方の祖父の死を知らされる。自分たちの結婚式に急遽来られなくなった祖父だ。
「すぐに行く!」と母親に伝え、行く前に仕方なく仕事中の夫に連絡すると、「早く行ってあげて! 俺も後で向かうから!」と言った。
葬儀には、夫は仕事を休んで参列。夫は葬儀に参加することが初めてらしく、作法に戸惑いながらも憔悴した行田さんを支え続けてくれた。
それから数日後のこと。
行田さんから強引な宗教への勧誘行為などすべてを聞いた夫が厳しく注意したため、鳴りを潜めていた義母と偶然スーパーで鉢合わせ、義実家へ行くことになってしまう。お茶を出し、他愛のない話をしてくる義母。行田さんが警戒していると、
「そういえば先日○○ちゃん(行田さんの夫)に電話したけど繋がらなくて。心配で会社に電話をしたら『今日は休まれてます』って言われたんだけど、優芽子ちゃん何か知らない?」
「これを聞き出したかったんだな」と合点がいった行田さんは、祖父の葬儀に参列してくれたことを話した。その瞬間、突然頬に痛みが走る。
「何て事してくれたの! そんな気持ちの悪い所に連れて行ったの? ○○ちゃんが穢れたでしょう! もう許さない!」
以前、義兄にビンタされたが、今度は義母からされたのだ。これまでにないほどに怒り狂った義母は、どこかに電話をかけ始める。その隙に行田さんは自宅に逃げ帰った。
■悪魔と呼ばれた嫁
ふと我に返ると、目の前に夫がいた。
帰宅した夫は、家の中が暗いので不在かと思ったが、寝室で布団にくるまり、震えながらブツブツ言っている行田さんを見つけたのだと言う。
瞬間、涙が溢れた行田さんは、自分の携帯電話を夫に渡す。そこには義母からの着信が50件以上。義兄からの着信が10件以上あった。すぐに夫がベランダで義母に電話をかけ、怒鳴り始めた。しばらくして戻ってきた夫は、なだめるように言う。
「優芽子ちゃんは何も心配しなくて良いから。母さんの電話とか無視していいから……」
この日を境に行田さんは摂食障害がひどくなり、過食嘔吐を繰り返す。
「義実家に対する恐怖から逃げたくても逃げられなくて、唯一食べることだけが恐怖を忘れられる方法でした……」
自分の家族に心配をかけたくない行田さんは、会うことを避け続けた。
やがて義母のビンタから5カ月ほど後のこと。義母が救急車で運ばれたと夫に連絡が入る。
仕事中だった夫は、「本当にごめん。俺もすぐに行くから先に病院に行っててくれんやろか……」と申し訳なさそうに言う。
仕方なく行田さんが義母が運ばれた病院へ行くと、義弟と東京から駆けつけた義兄と、おそらく「牧師先生」と思しき女性が病室にいた。行田さんは瞬時に緊張が走る。
行田さんを見つけた義母が、「優芽子ちゃんも来てくれたのね!」と声を上げた途端、「牧師先生」が鋭く言った。
「ダメ! 悪魔と話しては! 悪魔の罪は重い。あの悪魔の罪をお義母さんが代わりに受けたんだ。これは大変なことが起きた……」
義兄と義弟は行田さんを睨みつけたあと、手を合わせ、一心不乱に祈り出す。恐怖に戦いていると、遅れて到着した夫がそっと手を握ってくれた。
義母は車を運転中、猛烈な頭痛とめまいで運転操作を誤り、単独事故を起こしたとのこと。脳内出血のため、早急に開頭手術が必要な状況だと判明し、翌日手術を受けることに。
そして翌日の手術は成功。執刀医は開口一番、「もう大丈夫ですよ」と言った。
義兄も夫も喜んでいる。義弟は泣いている。そこへ「牧師先生」が駆けつけ、義兄と抱き合って喜んだ後、夫と握手した。
「私は手術の間、ずっと祈っていました。義母に死んでほしいと……。夫と『牧師先生』が握手した瞬間、私は裏切られたような気持ちになりました……」
■手術と入院で200万円
義母は約2カ月の入院を経て、退院が決まった。すると義兄が行田さんと夫に病院からの請求書を見せ、義母の手術・入院費用を夫と折半しようと言う。
「もう20年近く前の出来事のため、100%正確ではありませんが、開頭手術と入院費用で200万円以上の請求があったと記憶しています。当時26歳の無知な私でも、この金額はおかしいと思いました。義母は『神様に守られているから』と、公的医療保険も民間の保険もいっさい入っていなかったのです。もちろん、高額医療費請求も使えません」
これにはさすがに夫も抵抗。しかし結局義兄には敵(かな)わず、夫は100万円を行田さんの両親に借りて支払った。
それからというもの、行田さんは再び夫に対して壁を作るようになる。義母の退院から数日後、行田さんは夫と義兄を呼び出し、両親から借りた100万円をいつ返してもらえるのかをたずね、こう言った。
「そもそもお義母さんが国保にも民間の保険にも入っていなかったから、あんな高額な請求が来たんですよね? 私の実家とは関係ないことです。お義母さんに100万円を返してもらいます!」
すると義兄は激昂。
「それはおかしいだろう! 母親の大変な時に息子が助けて何が悪い! 優芽子ちゃんの親が出したのならそれはくれたのだろう! 出せる人間が出したら良いんだ! お前もそう思うだろう!」
話を振られた夫は困惑。
「まぁ、借りたのは俺だし……。優芽子ちゃんのお父さんは返すのはいつでも良いって言ってたし……」
カチンと来た行田さんは、「私の親を巻き込まないで! そっちの家族間で解決してよ!」と叫ぶ。
「うちの弟や妹に金があるわけがないだろう! あいつらに迷惑かけるな!」と義兄。
「私の親に迷惑をかけるほうがおかしいですよね! じゃあお義兄さんが弟さんと妹さんの分を立て替えて……」
行田さんが言い終わらないうちに、義兄は机を叩いて出て行ってしまった。
■悪魔祓い
それから行田さんは家の中で呆然として過ごした。
夫は話しかければ義家族の話になってしまうことは明白だったため、何も言えずにいた。やがて夫に2週間の出張が決まる。
出張へ行く日の朝、行田さんが夫を送り出した後、久しぶりに家事をしていると、義母が来た。しばらく居留守を使っていたが、出ないと「実家に行くわよ」と脅され、渋々出る。玄関を開けると義兄も来ていた。びっくりした行田さんが抵抗するも虚しく、無理やり車に乗せられる。
着いた先は教会だった。義兄に強引に車から降ろされ、「牧師先生」と2人の女性が待つ教会内で、白装束に着替えさせられた。
そこからは地獄だった。
・木の椅子に縛りつけられた上で、2人の女性から竹刀のようなもので何度も殴られる
・バケツに入った水を何度もかけられる
・十字架を顔や体に押し付けられる
これらのことが日が落ちるまで繰り返された。
その日は教会に放置され、また翌日も同じことが繰り返される。
義母と義兄は自分たちの家に帰り、毎日家から教会に通ってきていた。
4日目の朝。
連絡が取れなくなった行田さんを心配し、急遽夫が帰ってきた。
自宅に行田さんはおらず、携帯電話と財布が入った鞄も家にある。また自分の母親に呼び出されたのかと思った夫は、バイクで実家に向かった。
するとちょうど義母と義兄が車で教会に向かう所だったため、夫は後を追う。
そして教会内に入ったところ、
「やめてください!」
「助けて! ○○くん!」
と叫ぶ行田さんの声が聞こえたためそちらへ急ぐと、無抵抗な自分の妻を、自分の母親と兄が竹刀の様な棒で殴っているのが見えた。
夫は行田さんを救出し、自宅へ連れ帰った。
「夫は2週間の出張だったので、それまでに痣や腫れが引けば良いと思ったのか、義母や義兄、教会の人たちも、手加減無しでした。手と足は縛られた跡がくっきり残っていたし、全身痣だらけで、顔面もかなり腫れていました」
行田さんはその後1週間、39度の熱が続いた。
■離婚か引っ越しか
恐怖と我慢の限界が来た行田さんは、夫に「離婚か、引っ越しか、どちらかを選んでほしい」と迫り、夫は後者を選択。本当は義実家と縁を切ってほしい行田さんは、さらに夫に条件を突きつける。
・義母と義きょうだいに自分への連絡一切と宗教の勧誘を止めさせること
・義母と義きょうだいに引越し先の住所を教えないこと
引越しは業者には頼まず、父親の会社のトラックを使い、父親と夫で行田さんの実家近くのアパートに荷物を運んだ。
籍を入れてから3年が過ぎていた。
■「この子はあと3日で死ぬよ」
引越し後、精神的に安定した行田さんは、金融系の仕事を再開し、まもなく妊娠が発覚。夫と喜び合った。
ところが妊娠6カ月の頃。引越し先を知らせていないのに、突然義母と知らない女性2人が来た。どうやら行田さんの実家から尾行されていたらしい。
行田さんがドアを開けてしまったため、義母と女性たちはズカズカと家に上がり込み、タンスや冷蔵庫を勝手に開け、散らかしまくって帰って行った。
その夜、行田さん夫婦は、父親の知人が大家をしているアパートに引越しした。
心労がたたったのか、行田さんは持病の肝臓病が悪化し、入院。それでも4000g超えの男の子を無事出産した。
翌朝、前日から病室に泊まっていた夫が、後陣痛の痛みに耐える行田さんのお腹をさすっていると、突然病室の扉が開いた。義母だった。
もちろん、産院を義母には伝えていない。
事情を聞いていた看護師たちが義母を追い出そうとすると、「お祖母ちゃんが孫を抱いて何が悪い!」と抵抗。さらに行田さんに向かって、「悪魔である優芽子ちゃんから生まれて来たこの子は、あと3日で死ぬよ!」と言い放つ。
看護師の1人に、「お姑さん! あなた本当に人の親ですか? あなたにこの子のお祖母ちゃんを名乗る資格ありません! お帰りください!」と叱責され、やっと追い出された。
後でわかったことだが、この病院の医療事務の女性が義母と同じ教団員で、義母に情報を漏らしたのだ。無論、この女性は解雇になった。
母親になった行田さんは、これほどの異常言動を見せつけられても、実家と完全には縁を切ろうとしない夫に辟易していた。
夫からの経済的な自立を決意した行田さんは、長男が4カ月で仕事に復帰。保育園に入園させた。
それから5カ月後のこと。夕方に長男を迎えに行くと、「お祖母ちゃんが連れて帰りましたよ」と園長先生。なんと義母が長男を連れ去っていた。
すぐに行田さんが取り戻したが、長男は薄着のまま義母に連れ回されたため、高熱を出し、肺炎になってしまった。
■離婚
それから2年後。行田さんは次男を出産。夫は出張のため2週間ほど家を空けることになり、その間、行田さんを手伝いに母親が来てくれた。
そこへインターホンが鳴る。またしても引越し先を伝えていないにもかかわらず、義母と義兄だった。行田さんが鍵を開けずにいると、母親が「お母さんがいるから大丈夫」と言う。
鍵を開けた途端、2人がズカズカ上がり込んできて、「お母さんもおられるならちょうど良かった。とっても良い話があるの! 教会のご夫婦に、長男くんか次男くんのどちらかを養子に出してほしいの」と言う。
瞬間、頭に血が上った行田さんは「帰れ! 今すぐ帰らなかったら警察呼びますよ!」と叫んだ。義母と義兄は薄笑いを浮かべて帰って行った。
その夜、念のため行田さんが父親に家にいてもらうと、そこへまた義兄がやってきた。父親がいるとは知らず、義兄はドアを乱暴に叩く。
そこで行田さんの父親が出ると、義兄は驚いた様子でスゴスゴと帰って行った。夫が出張から帰って来ると、長男も次男も大喜び。夫も嬉しそうに2人を抱く。そして2人を寝かしつけた後、行田さんは夫に離婚を切り出した。
・このままだと2人のどちらかが連れ去られ、養子に出されるかもしれないこと
・夫と婚姻関係でいる限りどこへ引越しても安心できないこと
これらを話すと、夫は涙を流して離婚を拒んだ。
「悪いけどもうパパのこと信じられない。いざとなったらお母さんの味方するんじゃないかと思ってる。本当に子どもたちのことを大切に思ってるのなら、パパの実家とあの子たちを離れさせてよ! 最後の最後くらい、私たちのことを優先してよ!」
叫ぶように言うと、ようやく夫は、1人につき6万円の養育費を支払うと約束して離婚に応じた。行田さん34歳、夫36歳のときだった。
■行田家のタブー
筆者は家庭にタブーが生まれるとき、「短絡的思考」「断絶・孤立」「羞恥心」の3つが揃うと考えている。
言うまでもなく、行田さんの夫が育った家庭にはタブーがあった。宗教を盲目的に信仰していた義母は、紛れもなく短絡的思考の持ち主だ。宗教のせいか義母の性格のせいかは定かではないが、義家族は社会から孤立していた。行田さんが知る限りでは、義父は夫が中学生、義弟と義妹が小学生の頃に行方をくらまし、以降はすでに成人していた義兄が一家の大黒柱として家計を支えてきたらしい。行田さん曰く、義母のみならず、夫も義きょうだいたちも皆常識知らずで、年金や健康保険のことを知らなかっただけでなく、最初の頃は夫も、他人に何かをしてもらってもお礼を言うこともなく、食事のマナーも最悪だったという。
夫は行田さんと出会ったことで、徐々に社会性を身に着け、最初の頃は認められなかったものの、ゆっくりだが自分の母親やきょうだいたちの異常性に向き合い、現在は母親やきょうだいたちと距離を置いている。
行田さんは夫と離婚後も連絡を取り合い、子どもたちと夫が一緒に過ごす時間をもうけるよう努めていた。そして離婚から4年後、小学校2年生になった長男が、父親がいないことで同級生からからかわれていたことを黙っていたことが判明。これがきっかけで2人は再婚を決めた。
社会人になってから食事付きの寮生活をしていた夫は、手元に1〜2万円ほど残し、残りの給料をすべて義母に送っていた。おそらくそれが息子として正しいことだと教えられていたのだろう。夫は義母に依存し、義母も夫に依存していた。だからお互いになかなか離れられなかったのだと想像する。そして依存体質である夫と結婚した行田さんも、夫と一緒にいるうちに夫と共依存関係に陥っていたかもしれない。いくらでも夫を見限るタイミングはあったが、それでも不思議なほど別れられなかったのは、共依存関係に陥っていたからではないだろうか。
現在、行田さんは完全に義母や義きょうだいたちを恐れなくなったわけではないが、夫が義母や義きょうだいたちと物理的にも精神的にも距離を置いてくれてからは、家族4人で穏やかに暮らすことができている。機能不全家庭で毒親に育てられた夫にとって、原家族の異常さを目の当たりにしながら、少しずつ行田さんとの生活にシフトしていく過程が、時間はかかったが、そのまま解毒につながったのかもしれない。
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ノンフィクションライター・グラフィックデザイナー
愛知県出身。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメ・イベント記事や、葬儀・お墓・介護など終活に関する連載の執筆のほか、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行う。主な執筆媒体は、東洋経済オンライン「子育てと介護 ダブルケアの現実」、毎日新聞出版『サンデー毎日「完璧な終活」』、産経新聞出版『終活読本ソナエ』、日経BP 日経ARIA「今から始める『親』のこと」、朝日新聞出版『AERA.』、鎌倉新書『月刊「仏事」』、高齢者住宅新聞社『エルダリープレス』、インプレス「シニアガイド」など。2023年12月に『毒母は連鎖する〜子どもを「所有物扱い」する母親たち〜』(光文社新書)刊行。
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(ノンフィクションライター・グラフィックデザイナー 旦木 瑞穂)
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