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元ビートルズ担当ディレクターはこう見た 『コンサート・フォー・ジョージ』映画評

Rolling Stone Japan / 2023年7月21日 18時1分

(C) 2018 Oops Publishing, Limited Under exclusive license to Craft Recordings

ジョージ・ハリスン生誕80周年を記念し、日本で初劇場公開となるコンサート映画『コンサート・フォー・ジョージ』の公開日までいよいよ後1週間。元ビートルズ担当ディレクターの水原健二から映画レビューが届いた。

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ジョージ・ハリスンとは40年来の盟友、エリック・クラプトンが音楽監督と主演を務めたことで、この追悼コンサートは”歴史的一夜”となった。ジョージの作品――壊れそうな繊細さと優しさと、どこか切なさを湛えた、まさにジョージにしか描くことのできない音楽世界――と人間ジョージへのオマージュ、そして深い鎮魂の思いを、このにぎやかで盛大なコンサートから受け取らない者はいないだろう。ステージに登場する人物たちは、亡き友、亡き家族への愛を胸に、各々の個性とその存在感を発揮しながら演奏する。それこそがジョージへの追悼であり、トリビュート・コンサートの眼目だった。

ポール・マッカートニーは、「サムシング」「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」で、ヴォーカルとギターをクラプトンのリードに委ね、クラプトンの魅力を際立たせた。脇役に徹したポールだが、その存在はやはり圧倒的だ。「フォー・ユー・ブルー」「オール・シングス・マスト・パス」で歌う姿やジョージの息子ダニーへ向ける眼差しからは、風格と優しさが伝わってくる。貫禄とともに往年のチャーミングさを失うことのないリンゴも、ジョージとの合作「想い出のフォトグラフ」と「ハニー・ドント」でステージを盛り上げる。「イズント・イット・ア・ピティ」への強い思い入れからクラプトンが託したのがビリー・プレストン。ビリーのヴォーカルはクラプトンのギターと一体となって情感豊かに歌い上げる。そしてモンティ・パイソンが大爆笑を誘って登場。興奮の坩堝と化したステージは果てなく続くかのようだ。コンサートで歌われたジョージの代表作のほとんどは、ビートルズ時代からソロまで、日本発売のレコードは私が現役時代に手掛けさせてもらったもので、思い出深い。

私が初めてジョージ・ハリスンに会ったのは1971年9月。ジョン・レノンの新作「イマジン」のプロモーションのために、ジョンとヨーコに呼ばれて同宿していたニューヨークのセント・レジス・ホテルでのことだった。それはジョージが主催し、4万人に及ぶ観衆が詰めかけたマディソン・スクエア・ガーデンでの「バングラデシュ難民救済コンサート」が終わって1カ月余り後、ジョン・レノンが引き合わせてくれた幸運のひと時だった。ジョージと一緒にボブ・ディランも姿を見せた。

バングラデシュはパキスタンとの分離独立戦争に勝利し、1971年に独立を果たしたが、多くの難民を生むことになった。当時アメリカではベトナム反戦運動のさなか。69年には「愛と平和の祭典」を掲げてウッドストック・フェスティバルが開催されている。ジョージはそうした反戦・平和運動の大きな潮流のただ中で、バングラデシュ難民への救済メッセージを世界に発信、ロック史上初のチャリティー・コンサートを成し遂げたのだった。

ニューヨークのホテルの一室に現れたジョージはしかし、物静かで、多くを語らず、控えめだった。世俗から距離を保つ、内省の人――感激と緊張でいっぱいだった私の心に、ジョージのそんなプロフィールが刻まれた。

「バングラデシュ難民救済コンサート」から30年の後、ジョージ・ハリスン逝去。58歳だった。追悼コンサートには、クラプトンはじめ、リンゴ、ラビ・シャンカール、ビリー・プレストン、ジム・ケルトナー、クラウス・フォアマンらかつて「難民救済コンサート」に出演した同志たちの多くが一堂に会した。

ジョージへの敬意と惜別をこめて開催されたコンサートは、「夢で逢いましょう」でフィナーレ。トリを務めたのはジョー・ブラウン。ウクレレと歌が残す深く長い余韻のなかで、奇跡のステージは幕を下ろした。

2023年7月10日
水原健二(元東芝音楽工業・ビートルズ担当ディレクター)



『コンサート・フォー・ジョージ』
7月28日(金)〜TOHOシネマズ シャンテほか公開
© 2018 Oops Publishing, Limited Under exclusive license to Craft Recordings
公開作HP:https://www.culture-ville.jp/concertforgeorge


『コンサート・フォー・ジョージ』公開記念冊子(来場者特典)
・8Pカラー 表紙:本作アートワーク/裏表紙:本秀康氏描き下ろしイラスト
・寄稿(水原健二・藤本国彦)・作品紹介


ピーター・バラカン トーク・イベント
2023年7月29日(土)19:00〜上映後、アフター・トーク
会場;TOHOシネマズ シャンテ
開映:19:00 トークショー:20:55予定(約30分)

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