最高の薬「運動のさまざまな効果を詰め込んだ一つのカプセル剤」の実現へ…「筋疲労は乳酸が原因」は誤解だった!
集英社オンライン / 2024年4月29日 10時0分
〈いびきをしなくなったら危険信号!?…高血圧になり、糖尿病のリスクも。筋トレのしすぎは気道を狭くする〉から続く
運動が体にもたらすメリットを、運動なしで薬やサプリメントとして摂取することができたら、それは人類にとって奇跡だろう。
研究が進んでいるという〝運動のさまざまな効果を閉じ込めた薬〞の最新情報を書籍『金を使うならカラダに使え。老化のリスクを圧倒的に下げる知識・習慣・考え方』より一部抜粋・再構成し紹介する。
〝運動が身体にいい〞を裏づける「マイオカイン」
健康に年を重ねるには筋力維持が必須であり、その有効手段の1つとして運動が重要なことは理解してもらえただろうか。では、なぜ運動が多様な効果を全身に及ぼすのか。藤井教授はその解明のために、骨格筋の培養細胞を用いて研究している。
筋肉は運動によってダメージを受けること、そして回復することを筋肉痛や怪我で経験している人も多いだろう。運動に使う骨格筋の維持に関わっているのが、「サテライト細胞」と呼ばれるものだ。
「骨格筋の細胞は細長い線維状で、サテライト細胞はその上に複数へばりついていて、骨格筋細胞に負荷がかかったり損傷を受けたりすると活性化して増殖します。そして損傷部位から内部に入り込んで、骨格筋細胞に変わることで傷が修復されます。このような仕組みがあるため、骨格筋は非常に高い再生力を持っているのです」(藤井教授)
そして、シャーレ内の実験で、世界で初めて骨格筋細胞を動かすことに成功したのが藤井教授の研究室だ。さらに2022年、骨格筋細胞が収縮した際に分泌されるホルモン物質である「マイオカイン」の一種を発見したという。マイオカインとは、ギリシャ語の「myo=筋」+「kine=動作」が語源の名称だ。
ちなみに人間のホルモンは100種類ほど認められていて、すべて体内で合成・分泌される。そして血液などの体液を経由して全身に運ばれ、それぞれの情報が伝わることで身体のさまざまな働きが調節される。
骨格筋由来のマイオカインは筋肉の代謝や増大に関わるだけでなく、別の臓器へ作用してそれらの状態を調節したり、骨密度の増大を促すメッセージを送ったりすると考えられている。
「運動の効果が全身に及ぶ理由について、全身に運ばれるマイオカインの存在で説明がつくのではないか。これを『マイオカイン仮説』としています」と話す藤井教授は、これまでに、骨格筋細胞の運動に関係するマイオカインを数十種類発見している。
その代表的なもののひとつが「PDGF-B(platelet-derived growth factor-B)」。もとは血液成分の血小板に含まれる成長因子(特定の細胞の増殖や分化を促すタンパク質の総称)として発見されたが、筋肉にも存在していることがわかった。骨格筋細胞の培養実験で「筋量と筋力を増強する作用」が確認されている。
また「RSPO3(R-spondin3)」というマイオカインは、骨格筋細胞を疲れにくいマラソンランナータイプに変化させる働きがあることがわかったそうだ。その他の研究グループでは、神経細胞を活性化するというマイオカインや、大腸がんを抑制するマイオカインも発見されているという。
骨格筋細胞の研究とアンチエイジングのつながりが見えてきたし、運動とマイオカインが連携しているのは間違いなさそうだ。藤井教授は将来的に治療や医薬品への応用を見据えていて、それが実現すれば、運動以外の方法で筋力低下を防いだり、理想の筋肉をデザインしたりすることもできるようになる可能性があるという。
「筋疲労は乳酸が原因」は誤解だった!
とはいえ、マイオカインの人体への応用はまだまだ先の話。今、僕たちにできることは、運動をして筋肉を維持・増強することに他ならない。そこで、日頃気になっていた疑問を藤井教授に投げかけてみた。
代表的な筋肉増強法はウエイトトレーニングだが、「筋肉はダメージを受けることで大きく・強くなる」と言われている理由を尋ねたところ、藤井教授が興味深いアドバイスをくれた。
「実は、ウエイトトレーニングである程度の負荷をかけた状態の筋肉を電子顕微鏡で見ると、筋肉の構造が少し壊れた場所がいくつか見つかるくらいのダメージだとわかります。筋肉の主成分であるタンパク質は、アミノ酸が50個以上結合したもの。
壊れてバラバラになったタンパク質はアミノ酸なので、すぐに再生の材料として使われて回復するでしょう。ですから、運動で筋肉に負荷を与えてより大きくするなら、筋肉のタンパク質合成を高めるアミノ酸を同時に摂ると効率がいいと思います」(藤井教授)
その類の製品の効果には疑問を持っていたが、今後、運動する時には絶対に摂ろうと思う。さらに藤井教授が面白いことを教えてくれた。昔から、運動した際に筋肉内に出る乳酸は〝疲労物質〟だと言われていたが、これは誤解であるという話。
「乳酸もマイオカインの一種じゃないか?という研究が、最近いくつか出てきています。乳酸は体内の水分でイオン化すると、水素とラクテートになります。水素イオンは㏗バランスを酸性に傾けるので細胞にとっては良くないかもしれませんが、ラクテートは骨格筋がエネルギー源として利用できるのでメリットの方が大きい。むしろ良いものではないかと言われているのです」(藤井教授)
「最強の薬」の実現へ
藤井教授が取り組んでいるマイオカインの研究は近年注目されていて、世界中のいくつかのグループが研究報告を行っているそうだ。研究の歴史が浅いため情報の入れ替わりも多く、僕たちも、すべてのマイオカイン情報を鵜呑みにしないよう注意する必要がある。では今後、マイオカインの研究はどのように進むのだろうか。
「1960年代、アメリカ国立老化研究所の初代所長が語った『運動の効果を1つのカプセル剤の中に閉じ込めることができたなら、1錠で最も広範に効く、最強の薬になるだろう』という言葉がありますが、現代ではまさに〝運動のさまざまな効果を閉じ込めた薬を作る〞という挑戦が始まっています。
私たちの研究の最終ゴールもそこで、現在はタンパク質を中心としたマイオカイン研究が主流ですが、今後はより分子量の小さいマイオカイン、たとえば筋細胞の中で脂質が代謝されて生じる物質など、代謝産物の研究も行いたいと思っています」(藤井教授)
実現すれば、運動が難しい人でも運動効果が得られる、夢の治療法になるだろう。藤井教授の研究には今後も注目したい。
写真/shutterstock
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